ロックダウンからクオモ知事定例会見終了まで〜今思うこと in NY〜

NY州のクオモ知事が、毎日定例で行なっていたCOVID-19 関連の会見を、111日目の6/19を最後に終えた。この定例会見は、感染者がNY州で確認された3/1に始まり、1日も欠かすことなくお昼前後に行われていた。

私が会見を観るようになったのは、COVID-19 感染者がNY州で爆発的に増え、NY市がロックダウンされるという話が聞こえてきた頃なので、3月半ばあたりからになる。私は英語が得意ではないので、普段ニュースを聞いていても半分も理解できないのだが、クオモ知事の話はゆっくりとわかりやすく、しかも会見中、横に話の内容が(授業のように)文字で表示されるので、私でも理解できることが多かった。

私が観た最初の会見で知事はこう言っていた。「このようなひどい状況の中、働き続けてくれている医療従事者、警察官、スーパー勤務の人、交通機関を動かしている人、皆ヒーローだ。働いてくれて本当にありがとう。我が州は今、周辺の州と協調してロックダウンしなければならない状況にある。ロックダウンしたら大変なことになる。わかっている。でもしなければならない。しなければ大変なことになるからだ。責めるのであれば、誰かを責めるのではなく、私を責めなさい。」この言葉を聞いて、この人は信じることができると感じた。そう''考えた''のではなく単純に''感じた''。

それからは気がついた時には必ず会見を観た。クオモ知事は、必ずデータに基づいて説明をする。現在の状況、専門家の意見を基にした予想状況、州として必要となる行動、そして州民のとるべき行動に話が移っていく。毎回、今何故この行動が必要なのかがデータに基づいて説明されていった。そして話の最後には必ずこのフレーズが伝えられる。
New York Tough
New York Smart
New York United(結ばれている)
New York Disciplined (規律正しい)
New York Loving

3月下旬〜4月上旬のNY州は、1日5000人以上の新規感染者が発生したり、死者の数が1日800人を超え、しかもそれが数日続くこともあった。我が家の周辺も救急車の音が絶え間なく聞こえ、いつピークがくるのか、本当にピークがくるのかもわからないという恐怖と背中合わせの時期だった。そういう時期の会見の中で、一連のデータや行動の話の後、知事はよく自分の家族の話をした。母の話、祖父の話、娘の話、娘のボーイフレンドの話、普段の食卓に並ぶ料理の話などもあった。どれも単に四方山話をしたわけではない。その時々の状況を説明するために例え話として持ち出していた。それはピリピリとした状況の中で、気持ちが少し落ち着く時間だった。不安でたまらない時に、まるで''父親''から話をされているような気持ちになった。会見を見ているだけなので大袈裟かもしれないが、政治家としてというよりは''1人の人間として''話しかけられているような感覚だった。この3ヶ月、私は勝手に''クオモ父さん''と呼ばせていただいていた。

クオモ知事は、感染者の数のカーブが頂点を越えて下り始めても、なかなか言葉の調子を緩めなかった。まだ油断してはいけないと言い続けた。そして感染者の数が減ってきていると初めて言葉の調子を緩めた時、彼から出た言葉は「これは私がやったことではない。NYに住むみんながやったことだ。誇りに思う。」だった。

人から何かを押しつけられることを嫌うアメリカの国民性、その中で1,940万人のNY州民に大きな行動の変容を求めなければいけないという状況。クオモ知事が選択したのは、必要となるデータをとること、データをきちんと示すこと、そこから分析されることを伝えること、だった。メッセージだけで人は動かない。むしろきちんとデータと考え方を明らかにすれば、人々は考えて自ら動く、そう信じて実行したと言っている。そしてNYは、恐らく世界の中で一番と言ってもいいくらいの悪い状態を脱し、全米で1番感染率の低い州へと変化した。経済再開のシナリオも今のところ順調に進んでいる。

クオモ知事のCOVID-19 問題以前の評判は、正直私はよく知らない。NYには、彼のことを支持している人も支持していない人もいるのだと思う。でも私は、クオモ知事がNY州の知事で本当に良かったと思っている。彼がいなかったら、恐らくNYの状況はもっと悪くなっていただろうと思うし、現在の状況まで来るのに、もっと時間がかかっていたのではないかと思っている。何より私は、毎日の知事の言葉に精神的に支えてもらっていた。最近は状況が良くなってきたので、そこまで寄りかかることはなくなっていたが、今回、彼が毎日の会見を終了すると聞いた時、正直ショックだった。111日目の最後の会見で、クオモ知事は「大丈夫。私はどこにも行かないから」という言葉を口にしている。私は「お見通しか…」と苦笑いしてしまった。

ありがとう、クオモ知事。今日は父の日。ご家族と共に素敵な日曜日を過ごされますように。