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65.切り裂きジャックに殺されたのは誰か

鎮魂と告発のノンフィクション
1888年ロンドン。5人の女性たちが2か月のあいだに殺された。この「切り裂きジャック」と呼ばれる殺人鬼がいまなお人びとの関心をひく一方で、被害者の5人の女性たちにはこれまで130年以上ものあいだ一筋の光もあてられてこなかった。家庭内における暴力、社会的な差別、そして貧困や病から助かることのできない構造。5人の女性たちのこれまで誰もひもとこうともしなかった人生を1頁ずつ丁寧にめくるとき、不合理に満ちた過酷な社会状況のなかで生きた彼女たちの姿が浮かび上がる。連続殺人事件の被害者の人生をよみがえらせ、社会の暴力をつまびらかにする、気鋭による鬼気迫るノンフィクション。

帯より

切り裂きジャックに殺されたのは5人の娼婦だった、というのはあらゆる媒体や事件ももとにした漫画や小説やドラマでさらっと紹介されている。

切り裂きジャックは売春婦を殺した、またはそのように信じられてきたが、五人の犠牲者のうち三人に関しては、売春婦だったと示唆する確固たる証拠はない。

イントロダクション25p

これまでわれわれは彼女たちのことを、人間の形をした空っぽの鞘のように思ってきたが、実際はそんなものではない。彼女たちは母を求めて泣き叫ぶ子供だった。彼女たちは恋する娘だった。彼女たちは出産に耐え、両親の死を経験した。(略)わたしは本書を彼女のたちのために書いている。(略)命が奪われると同時にもうひとつ残酷に奪われてしまったものを、彼女たちに返すことができればと望んでいるーーつまり、彼女たちの尊厳を。

イントロダクション26p

イントロダクション読んだだけで衝撃。違うんだ、殺されたのは五人の娼婦ではなく、五人の女性だよね。あまりに事件が残酷で犯人が見つかってないまま時間が経ってしまったからキャッチーさだけが残ってしまい、殺された彼女たちは『娼婦』とだけしか紹介されていない。ちなみにWikipediaを読んでも五人の娼婦と記載されている。(しかも、殺害後の公式写真や絵も掲載されている…)

形式としては、過去の資料をもとに筆者が彼女はこのような行動を取ったかもしれない、このように考えたかもしれないと時代背景とともに読み解いてくれている。この時代の一度転落したら絶対に戻って来れない残酷な構造読んでいくと、本当につらく読み進めるのが辛かった。

それでも、ここまできっちり検証して彼女たちの人生も尊厳も取り戻そうとしたこの本は素晴らしい。

これ読んだ後に、ロンドンにある切り裂きジャック博物館ってどんな感じなんだろうとソワソワしてしまう。彼女たちの人生を思うと、切り裂きジャックをエンタメ化してはいかんだろというね、気持ちにね。


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