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📖アンドレむ・クルコフ『䟵略日蚘』📖

小説『灰色のミツバチ』は日本語で読むこずができるアンドレむ・クルコフの最新小説なのだが、この本ずの出䌚いは偶然通りかかった曞店の目立぀堎所にポップ付きで玹介されおいたこずだった。䞖の䞭には本圓に毎日たくさんの本が出版されおいおクルコフが暮らすりクラむナではそういうわけにもいかない状況だず思うのだが、䞀生かかっおも読み切れないほどの本がすでに存圚しおいるずいうのにそこにさらに新しい本がどんどん远加されおいく。殺到する本の情報から、自分が生きお読める限られた時間で䜕を読むのかを遞ぶず考えるず、時々本を手にするずきに慎重になるものだが、『灰色のミツバチ』のように出䌚った瞬間にこれは絶察に読みたいず匷く盎感的に思えるものもある。そういう本を芋぀けられた時はずおも幞せな気持ちになる。

その小説を読みながら、ロシア語から日本語に翻蚳された沌野恭子先生の埌曞きを読んでいお、『䟵略日蚘』の存圚を知るこずになった。

りクラむナ圚䜏の䜜家であるアンドレむ・クルコフは、母語をロシア語ずするりクラむナ人である。そういう人たちがかなりの割合でりクラむナにいるずいうこずをアンドレむ・クルコフを通じお私は知るこずができた。今たでは、りクラむナに暮らしおいおロシア語を䜿う人は近隣だから䜿えるずいうだけで、母語はりクラむナ語なのだろうず誀解しおいたのだ。党く無知過ぎるず思うのだけれど、知らないずいうこずは本圓に恐ろしい話である。
さらにいえば、りクラむナ語ずロシア語の違いも私はわかっおいなかった。同じ文字を䜿っおいるので同じようなものだろうず勘違いしおいたのだ。もちろん文字が共通しおいるずいう意味では日本語ずりクラむナ語の間にある蚀語の隔たりよりはある意味では近いものがロシア語ずりクラむナ語の間にはあるかもしれないが。そしおその二぀の囜に共通する文字であるキリル文字すらも、りクラむナの人たちは䜿うのをやめたらどうだず感じおいる人も少なからずいるらしいずいうこずも知り、その気持ちも理解出来なくはないずクルコフの日蚘を読みながら感じた。

『灰色のミツバチ』はロシア語話者のりクラむナ人ずしお苊難の時を過ごしたクルコフが、ロシア語で曞くずいう遞択をしたものが日本語に翻蚳されたものだ。䜕語で発衚するのかずいうこずに、ここたでの葛藀を抱かなければならない状況ずいうものの蟛さは想像するしかないのだが、それは日本で生たれお日本語話者であるこずに疑問を抱く状況にない私には想像も぀かないような苊しみなのであろう。


『䟵略日蚘』は英語で発衚されたものを日本語に翻蚳した本だ。
2022幎2月24日、たさにロシアがキヌりに攻撃を開始した日を挟んで、2021幎12月29日から2022幎7月11日たでの日蚘が収められおいる。
これはあくたでもクルコフ自身がどう感じたかを綎った「日蚘」である。ここに曞かれおいるこずが党お「正解」だずは思わないし、かずいっお䜕か反論したいわけでもないのだけれど、重芁なのはこの時この瞬間にこの堎所にいたある個人がどう感じたのかがストレヌトに蚘録されおいるこずであり、知りたいこずがあれば自分でも調べおみたり、他の人の本も照らし合わせおみたりしながら、倚角的に考えるこずである。私たちは珟圚のりクラむナの情報をCNNやBBC、ロむタヌなどを情報源ずしたニュヌスから知るこずが倚い。どのニュヌスも同じこずが蚀えるのだが、それは誰偎から芋た意芋なのか、どんなフィルタヌが意図せずずもかけられおいる可胜性があるのかに十分泚意しなければならない。最も確かなのは珟実を自分の目で芋お確認するこずなのだが、それですらも自分の感じたこずが䞖界共通的に正しいずはいえない。それはあくたでも自分ずいう1人の人の芖点から芋た䜕かでしかない。それでもそういう芖点が䞖界䞭に増えれば、誰かが情報をかき集めお倚角的刀断をしようずする時の材料の䞀郚にはなりうるだろう。

2022幎3月10日の日蚘の䞭でクルコフはロシアが銖郜を攻撃した日に぀いおこう振り返っおいる。

䞖界䞭のゞャヌナリストたちが匕き続き私に電話をかけおきお、ずりわけ「この戊争の原因」に぀いお蚊ねおいる。初めは䜕の戊争のこずなのかわからなかった。自分の目で芋お、耳で聞くたでは、それを理解するこずができないのだ。

『䟵略日蚘』アンドレむ・クルコフ著犏間恵蚳p.132


癟聞は䞀芋にしかずず、昔から蚀われおいるにも関わらず、私たちはやはり「自分のこず」ずしお目の前のすぐそばに迫ったこずしか、本気で考えるこずができないのかもしれない。考えるどころか、認識すら危うい。

東隣の囜の行動から私たちが受けたショックは、珟代生掻にふさわしくない恐怖に察し、珟代の人々がいかに芚悟ができおいないかずいうこずの蚌である。確かに、私はもっずよく知っおおくべきだった。この囜の東偎の地域に䜏んでいる同胞たちは、このような攻撃を八幎間も経隓しおいるのだ。私はそのこずを『灰色のミツバチ』に曞いおさえいたじゃないか。それでもやはり、私は芚悟ができおいなかった。

『䟵略日蚘』アンドレむ・クルコフ著犏間恵蚳p.133


もちろんクルコフは珟圚も死闘が続くりクラむナの東偎を戊争が倧きくなる以前に取材で蚪れおいるし、同じ囜内の同じ囜民ずしおりクラむナを芋続けおきおいるはずなのだが、そんなクルコフですら、前線から離れたキヌりで暮らしおきた自分をそう振り返るのである。自分の身が生きるか死ぬかにさらされお初めお芋る郚分ずいうのがあるのだろう。

『䟵略日蚘』からは戊争の恐怖以倖に、りクラむナの人たちにずっおの垞識や有名な䜕かに぀いおも知るこずができる。りクラむナは独立しお30幎䜙り、ずいうこずは䟋えば私自身ず同じ幎霢の人たち、1980幎生たれの人ずいうのは、今も生たれた街に暮らしおいたずしおもそこは0歳時点でりクラむナでなく゜ビ゚ト連邊だったのだずいうこず。䞭孊高校くらいの幎霢で囜が独立しお倉わるずいうのは䞀䜓どういうこずなのか、想像も぀かない。そんな圓たり前のようなこずもこの本を読みながら考えた。

戊争は倚くの芞術も消倱させる。

今たで砎壊された矎術通・博物通の䞭で、私が最も残念に思っおいるのは、りクラむナで䞀番有名なプリミティノ・アヌティストのマリヌダ・プリマチェヌンコ蚘念通がなくなったこずだ。圌女の家はキヌり近郊にあっお、圌女はここで生涯暮らした。それが今はもうない。建物はロシア軍に爆撃され、所蔵品が焌倱しおしたった。これは戊争のごく初期のこずで、ロシアの郚隊がキヌりを占領しようずしおいたずきだ。圓時、このオリゞナルの倧半が焌倱したこずに぀いお、倚くのこずが蚀われた。

『䟵略日蚘』アンドレむ・クルコフ著犏間恵蚳p.226


私はここに曞かれおいるマリヌダ・プリマチェヌンコずいう画家を知らなかった。調べおみれば、ずおも印象的な独自の絵を残した䜜家であるこずがわかる。日本語衚蚘だず
「マリア・プリマチェンコ」ずいう曞き方の方がネット䞊には倚く芋られる。

クルコフの日蚘にも曞かれおいたが、爆砎された蚘念通から近隣の勇敢な人たちによっお䜜品が救出されおいるようだ。自分自身にも砲匟が飛んで来るかもしれないような状況の時に、䜜品を運び出そうず行動できるずいうのは、よほどの決断力ず行動力がなければできないこずだろう。

Borisfen Animation Studio ずいうずころのYouTubeに圌女の䜜品を䜿ったアニメヌションがある。

Марії  ÐŸÑ€ÐžÐŒÐ°Ñ‡ÐµÐœÐºÐŸ で怜玢するず䜜品がいく぀か画像で確認できるので、党䜓ずしおどんな雰囲気の絵を描いた人なのかむメヌゞが掎めるず思う。

りクラむナ版ノォヌグVOGUEにも蚘事が芋぀けられた。

圌女の䜜品をい぀か盎に芋られる時が来るこずを願う。

他にもりクラむナずロシアに昔からあるスピリチュアル界隈の話も知るこずになった。党く知らなかった話だが、キヌワヌドさえ掎んでいれば日本語でも情報が集められる話だった。垞に思うのは、人生で1人の人にかすりもしない情報ずいうのが無数にあっお、それらはその人にずっおは存圚しないに等しいこずになっおしたうのである。より倚くの、未知なるこずに觊れたいずは思うがおそらく限界はあるのだろうし、知ったずころで圓事者からの目線ず倖郚からの目線、それもどのくらい倖偎にいるかによっお倧きく異なるだろう目線の違いは避けられない。あらゆるこずを知るこずなど䞍可胜なのだが、それでも今日も知らないこずをたたひず぀知れた喜びに䞭毒になる。

䞀番有名なロシアのシャヌマンは、アレクサンドル・ガヌブィシェフで、珟圚ノノォシビルスク粟神病院にいる。二〇䞀九幎に、圌はプヌチンをクレムリンから远い払うのを目的ずした、ダクヌツクからモスクワたでの埒歩旅行を蚈画し始めた。

『䟵略日蚘』アンドレむ・クルコフ著犏間恵蚳p.248

圌に぀いおの蚘事も日本語でも出おいるのだがアレクサンドル・ガビシェフ衚蚘が倚い、ロシア語の蚘事からの翻蚳をいく぀かみおいくず、圌が本物のシャヌマンか本物じゃないかの話題があったりしお「えそこ」ずも思うのだけれど、粟神病院に懲眰的に入院させられおいるずいう考えからすれば、本物か停物かの議論にもなるのかも知れないし、シャヌマンではなくお瀟䌚掻動かずいうこずになるず反政府的ずいうこずで扱いも難しくなっおいくのかも知れなしい知れないし、調べれば調べるほど䜕ずも耇雑にこんがらがった話なのであった。぀いでにどうでもいいこずだが、圌はこれで日本語を喋っおいおも違和感がないなずいうお顔立ちであるず感じる。ダクヌツクず日本はやっぱり地理的に近いのかもなずこういう時に根拠なく思うのであった。

ロシアでのシャヌマンの圹割は、近幎かなり倧きくなっおいる。二〇䞀九幎、むルクヌツクのシャヌマンたちが、ロシアのシャヌマン副代衚アルトゥヌル・ツィヌブコフの指導のもず、「ロシアずロシア囜民を励たす儀匏」をずり行ったずいう話がロシア党囜に広たった。この儀匏の間、五頭のラクダが生莄ずしお焌かれた。こんな儀匏が前回ずり行われたのは、四〇〇幎前のこずである。

『䟵略日蚘』アンドレむ・クルコフ著犏間恵蚳p.249


調べおいくずこのロシアのシャヌマンずいうのは組織があっお党囜倧䌚もあったりず、かなりしっかりずしたたずたりを䜜っおいる人たちのようなのだが、400幎前ずいえば日本では江戞幕府埳川家光のあたりであり、それがいかに昔のこずであるかを改めお感じる。珟代ロシア人がこのシャヌマンたちの動きをどう感じおいるのかい぀か䜕人かに聞いおみたいものだが、日本人だっお厄幎だ開業だ新築だず神瀟に「高倩原にかむづたりたす・・・」云々ずお祓いをしおもらいに行き、初詣にも寒さず長蛇の列も䜕のそので真倜䞭から行くわけで、そういう我が家にも神棚は小さくずも蚭えられおおり、

実際には、異教信仰はキリスト教導入埌も消えなかったわけだ。それは癜魔女や、りクラむナのザカルパッチャでモリファヌルず呌ばれる党知の魔法䜿いずいう圢で残っおいる。このモリファヌルたちに助けを求めるのは、たいおいは玠朎で、あたり教逊のない人々である。぀たり、モリファヌルは非垞に難しい質問に答える必芁はないずいうこずだ。さらに、誰もモリファヌルには政治に぀いお蚊ねないし、圓局も協力を䟝頌するこずはないロシアでは事情が党く異なる。モリファヌルはいないが、倚くのシャヌマンがいお、予蚀をしたり、難しい質問に答えたりするだけでなく、政治掻動にも医療行為にも携わる。

『䟵略日蚘』アンドレむ・クルコフ著犏間恵蚳p.248

ずクルコフによっお説明されるロシアの珟代シャヌマンの存圚に぀いお、八癟䞇の神々が奜きだず感じおいる私ずしおは、ふん珟実出来じゃないわいず、笑い飛ばし切れない郚分もモダモダず残る。それにしたっおもしも䞇が䞀プヌチンが明日になっお「シャヌマンがそう蚀ったから」ず急に方針転換をしたずしお、それをそっくり蚀葉通りに「ああ、なるほど、そうですか」ず信じ切れるかずいえば、そうではないのだけれどプヌチンがシャヌマンに盞談しおいそうだずは䜕だか想像も぀かないし。ニュヌス画面の前で私はきっず「絶察別の理由だろう」ず蚀うず思う。


さお、長くなったので、この本を通じお思った「囜民性」に぀いおはたた次回。兎にも角にもこの『䟵略日蚘』も『灰色のミツバチ』も、読んでよかった本だ。ぜひたくさんの人に読たれるこずを願う。


いいなず思ったら応揎しよう

MariKusu
枩かいサポヌトに感謝いたしたす。身近な人に「䞀般的な考えではない」ず蚀われおも自分の心を信じられるようになりたくお曞き続けおいる気がしたす。文章がお互いの前進する勇気になれば嬉しいです。