手を振る町でばんみかす
潮の匂いがする。自分の汗なのか、空気中の水分なのか、多分両方だけど、肌にまとわりついてべたべたする。今日も湿度80パーセントらしい。こちらでは洗濯物は部屋干しが多い。思い切り晴れていても、急にざっと雨が降ったりするからだ。その雨もすぐに乾いて「太陽にほえろ」みたいな強烈なオレンジ色の夕陽が沈んだりする。ああ、南の島にいるんだな。
夜になると海からの風が吹いて星がきらめく。蚊に刺されて掻きながら散歩をしていると、猫に会う。白いのや黒いのや模様のが案内係みたいに細い道から出てくる。君たちパトロール班ですか。
宮古はコンパクトな町で、なんでもがぎゅっとまとまって在る。島民はみんな車に乗っている。道路を歩いているのはたいてい観光客だ。観光あんまりしてないけど、カテゴリーとしては一応観光客の端くれのわたし、歩けば誰かが車から手を振ってくれる。よく知り合いに会う町だ。気づくと1日に何度も誰かに手を振っている。
「手を振る町だね」とマリノに言ったら、「うん、絶対に誰かが見ているからよ」と答えた。いや、そういう答えを求めていたわけではないけど、まあ、そうとも言えるか。人間関係の濃い町だ。島に移住した人にもそれぞれいろんなドラマがあるのだろうな。観光よりはむしろそっちに興味がある。
ファミマに行ったら、昨日並んでいたアイスクリームやお菓子が売り切れ。台風のあとなかなか元通りにならないねえ。綾野はタマネギを食べることができたのかな。ガソリンは昨日くらいからやっと、満タンにできるようになった。それまでは、一人2000円までだった。2000円分なんてすぐになくなっちゃうよね。ガソリン値上がりだし。
3週間も宮古の町をぐるぐる走り回って少しは地理を覚えそうなものだがまだまだ全然だめだ。どうしてこんなに道が覚えられないのかと嫌になる。北とか、南とかの方角がわからなくなるのだ。どの方向へ向かっても結局最後は海というのが方向感覚を狂わせるのか。と、かっこつけてみたが、ただ方向音痴なだけかも。
終戦記念日の朝は漲水御嶽へ行く。手を合わせながら、戦争で亡くなったたくさんの人々のことを鎮魂したり、宮古滞在ではお世話になりましたとお礼を言ったり、父の墓参り行けなくてごめんなさいと謝ったり、ピサラのライブはよろしくお願いしますとお願いしてみたり盛りだくさんに祈る。そんないろいろ言われても、とか、思ってるだろうな、神様、すいません。
朝ご飯を食べに出る。モスバーガーで朝モスしようとしたら、開店前。諦めて「朝食もさ」へ。「もさ」ってなんだろうかな。朝モスと朝もさ笑。おにぎりと味噌汁。土鍋で炊いたご飯とマルキヨ味噌の味噌汁うまし。最高です。
朝もさ、あ、朝食もさの前で美容室ドリームのお母さんに会う。マリノが高校生の時たまり場にしていたビル、ABA220ビルの美容室とのこと。このビルの3階にはホールがあって、ライブをしたりしていたそうだ。おばさんマリノを見て「懐かしいー。んぬすく、きすたー、やらびさいが!んぎゃます音楽やって、ばんみかしとったやらびかー?」と言っていた。昔よく来ていた子どもじゃないか、ものすごくうるさい音楽を鳴らしていた子どもじゃないか。の意味だそうだ。おばさん嬉しそうで、マリノは手をつながれたり、肩をばしばしたたかれたりしていた。祝再会。じゃあまたねと手を振って帰る。
今夜はライブ。張り切ってばんみかします。押忍!ご機嫌さんで!