シタリヌヨンゾ
Miuni(御舟)のライブは7月30日。その頃には台風5号はとっくにどこかへ行ってしまっていて、さしたる被害はなかった。5号の勢いに押されて南の海で順番待ちをしていた6号は勢いを増しつつあった。台風ソムリエ(とわたしが名付けた)マリノは「この台風はだいずだはずよ」と言った。「だいず」は大豆ではなくて、宮古の言葉で「すごい」とかいう意味だ。だいずな台風が来ると聞いてもその時はピーカンだし、激暑だし、風もないし、あんまりぴんとこなかった。
朝からライブにわくわくして支度する。最近は宮古島に行くとマリノの実家に泊めてもらうのだが、今回はマリノのおうちが割と大掛かりな改装工事をしているので泊まれず空港近くのホテルにいる。長めの滞在で外食ばかりでは疲れるだろうと、簡単なキッチンのついた滞在型のホテルをマリノママ、涼子さんがじきじきに予約をしてくださった。当然、マリノも実家には入れないので一緒に泊まることに。キッチンも洗濯機も乾燥機もあって快適です。それにしても宮古島は来るたびにどこかしらに新しいホテルができている。
今宵のライブ会場Good Luckの建物は2階建で、1階にはオーナーの江川ゲンタさんの奥様が営む「ちえちゃんそば」がある。一度も行ったことがないので、前日遅く到着した赤い人夫妻を誘って食べに行くことにする。彼らはわざわざ大阪からMiuniのライブを見に来たのだ!これまでのMiuniのライブにはほとんど来ているが「CDがなかなかゲットできないので仕事の合間を縫って2泊3日で宮古に買いに来ました」と笑っていた。ファンの鑑です。欽ドン賞決定。
「ちえちゃんそば」の名物は「とうがんそば」。とうがんは冬瓜。食べると汗がドバドバ出てデトックスできる。ジューシー(炊き込みご飯)付きを食べるか迷ったが、ほら、わたしダイエットしてるじゃないですか?マリノの姉、綾野も一緒になってみんなで汗かき食べる。ゲンタさんは、夜もライブだというのにここのお店でも働いていた。働き者です。
Miuniのライブ、地元凱旋公演だからさぞ人気だろうね、とマリノに聞くと予約が40くらいだと言う。えー。もっと入るんじゃない?せっかく大きなライブハウスでやるんだからもっと集めようよと、わたしも誰目線かわからない、いらんアドバイスしたりして、あわててSNSなどにみんなで告知投稿する。宮古では、ライブの時は電話をかけたり、ちらしを持ってお知らせに行ったりするのが多いらしいが、今回はみな忙しくて手が回らなかったとのこと。昔ながらの温かいやり方だけど、忙しい時は大変だね。本当に集客ってだいず大変だよね。
リハーサルを見ながら店の中を見回してみる。本やCDやレコードや写真、いろんな装飾品など一見ごちゃっと物がたくさんあるが、よく見るとどれもきちんと計算して飾ってあって几帳面な気さえする。きれいなお店だなあ。リハーサルが終わって時間ができたので、一旦ホテルに戻る。ライブに行く前に軽くなんか食べておこうと、マックスバリューに寄ってポーク卵おにぎりを買う。
開場時間にGood Luckに行っておべる(おべるは出雲弁で驚くの意)。お客さんがぞろぞろ来ている!家族連れで、カップルで、友達同士で、老いも若きも、日本の人も外国の人も全員集合しているではないか。ざっと100人はいると見た。リハーサルの時、「予約の40人とあと、当日10人くらい来るとして、椅子の数大丈夫だよね」と確認した、あれはなんだったのか。この日は結局116人くらいだった(そのうち子供が20人!)。
笑笑笑笑笑。いやいやいや、だって笑うでしょう。予約40、当日70みたいなの聞いたことない。予約より当日来る人の方が多いライブって行ったことない。台風を心配して沖縄本島から来れなかった人もあったというのに、大盛況にもほどがある。再び、誰目線かわからないけど、よかったー、来てくれてありがとう、とほっとした。せっかくの地元開催だから見て聞いてもらわないと話にならない。大人も子供も楽しめるライブだからね。でもおかげで椅子が足りないわ、ドリンクカウンターが大忙しだわ、なんやかんやで、開始が30分くらい遅れた。みんな予約すれー。
Miuniの宮古民謡は聞いているだけでは言葉も意味も1ミリもわからない。でもさすが地元、歌い始めると一緒に歌う人や、「ヒヤサッサ」とか、「ハイヤー」とかの合いの手を入れる人がいて、それから指笛をピーピー鳴らしたり、リズムを取ったりしてみな楽しそうだ。歌の意味などMCで解説してもらうとどれも労働の歌であり、恋の歌であり、愛の歌であり、生活の歌である。ああ、いいなあ。
アンコールではわたしがMiuniに書き下ろした曲「御舟」も演奏することになり、1曲だけピアノで参加させてもらった。楽しかった。客席もよく見えて、知った顔も増えてきたのが嬉しい。ありがとうございます。これからもMiuniをよろしく、とまた誰目線かわからないけど、あ、そうか、亀目線か。これ、ずっと亀目線だったんだね。Miuniの航海を船底で見守る海亀ね。そうだった、わたし亀だったわ。
アンコールの最後は「かにくばた」。故郷を離れて開拓地へ向かう子供たちへの応援歌で、最後はみんなが踊り出す軽快な曲。エンディングでは掛け声のような言葉「シタリヌヨンゾ」「ヒヤサッサハイヤ」が延々繰り返される。意味はわからないが楽しいので一緒に歌う。あとでMiuniのメンバーに尋ねると美和さんが教えてくれた。お囃子の言葉ではあるそうで、諸説あるけれど、初めの部分は「シタイ:やったー、でかしたーの意」、最後の「ンゾ:無蔵(愛しい人)」で、つなげると発音が「シタリヌヨンゾ」になるそうだ。「やったぞー、愛しい人よー」という言葉で愛しい子供を送り出していたかと思うと、泣けてくる。素晴らしい応援歌ではないですか。全ての子供達へ(大人へもだね)、シタリヌヨンゾ、シタリヌヨンゾ、ヒヤサッサハイヤ!
一週間に一度くらいの頻度で記事をアップできればと思っています。どうぞよろしくお願いします。