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清水真砂子さんオススメの『まぼろしの小さい犬』を読んで
ロンドンで7人家族で暮らすベンの夢は犬を飼うこと。おじいさんとの約束で、誕生日に犬をもらうことを楽しみにしていましたが、その日に届いたのは、本物の犬ではなくて刺繍の絵の犬でした。失望したベンは、やがて想像の中で、刺繍にあったような小さな犬を飼い始めます。いつだって目を閉じれば、チキチトと名付けられた小さくて勇敢な茶色い犬が姿を表します。その機敏な動きが誇らしく、ベンは夢中になっていきました。
そしてとうとう、犬を思い描きながら目を閉じたまま道路に飛び出したベンは、交通事故で大怪我をして気を失ってしまいます。ようやく目覚めたベンは、心配するお母さんに、もう二度とこんなことはしないと誓い、想像の犬と別れることになるのです。
静養のため田舎のおじいさん、おばあさんの所でしばらく暮らすことになったベンは、おじいさんの家のティリーが生んだ九匹の子犬たちと過ごすことになりました。
おじいさんに導かれ、小さな子犬たちをしっかり世話して可愛がるベン。それをみていたおばあさんが、一匹子犬をくれると約束してくれて、ベンはチキチトのように小さくて茶色いブラウンを選ぶのですが、ロンドンの狭い家では飼えないという悲しい現実と向かい合うことになります。
回復し、ベンはおじいさんや子犬たちとお別れをして帰宅しましたが、いろいろあって家族は北ロンドンへ引っ越すことになりました。
北ロンドンに行ってみると、なんと近くに広い野原や、犬を放し飼いにできる大きな公園があるではありませんか。
ベンは大喜びで、九匹目の小さなブラウンを迎えにいくのです。
普通ならここでめでたし、めでたし。
ハッピーエンドとなるのでしょうが、ピアスはそんな安易な結末にはしない作家なのです。
再会したブラウンは、もうすっかり大きくて、そして臆病者で、ベンの心に抱いていた小さくて勇敢なチキチトとは、全くかけはなれていたのです。
チキチトと呼んでも振り向きもしないブラウン。
ブラウンをどうしても受け入れられないベン。
ブラウンを優しく抱き締められないベン。
ベンに必要とされていないと感じ、1人?去って行こうとするブラウン・・・
なんと悲しい現実でしょうか。
想像の犬を自分の意思で捨てない限り、ベンは幸せにはなれないのです。
その事を悟ったベンは、ついに想像の犬の名「チキチト」を捨て、現実の犬の名「ブラウン」と叫び、去って行こうとする犬を呼び戻すのです。
ベンはついに自分自身の力で、この大きな葛藤を乗り越えたのです。
だからこそ、最後のさりげない犬と少年の会話や仕草が、それはそれは感動的に感じられました。
生き生きと目に浮かぶ個性たっぶりの犬たち、そして、いつも温かくベンを見守ってくれているおじいさんの存在があるからこそ、多感なベンは、いくつかの失望を乗り越えて現実をしっかり受け入れることができたのでしょう。