「帰ってきたい」と恋焦がれた倉敷で暮らし、働き始めて|2024.雨水・草木萠動
二人並んで水平線を眺めながら、彼女がポロリと「また帰ってきます」と呟いた。
「いつかまた見たいです」とか「また来ます」とかじゃなくて「帰ってきます」と言ってもらったことが、何よりもうれしかった。だってわたしも、初めてこの景色を見たときに「また帰ってきたい」と切に願って、本当にこの街に移住してきてしまったのだから。
■ 【倉敷移住体験ツアー 倉敷の「食×文化」をつなぐ人に出会う旅】あとがきのような
・くらしき、マジックアワーのきれいな街
写真を撮る者ならば、ひらけた空を見るたびには出会いたい瞬間のひとつに「マジックアワー」という時間帯がある。
日本語では「黄昏時(たそがれどき)」や「逢魔が時(おうまがとき)」と呼ばれるその時間帯は、日没後や日没前の数十分間に空の色がドラマチックに、どんどん変化していく。
空気の澄んだ晴れの日しか見られない景色なのだけれども、こと「晴れの国」岡山に越してきてからは、ほかの地域で暮らしていたときの数倍この「マジックアワー」に出会えている気がする。
だから、倉敷で一番好きな景色を選ぶとするのであれば、瀬戸内の凪とマジックアワーが重なるタイミングで。
遡ること4年前、2019年の秋に友人の経営するホテルDENIM HOSTEL float のオープンに合わせてはじめて足を踏み入れた倉敷ですっかり惚れこんだあの景色。倉敷に移住してきてからは、市街地でも山でも海でも夕方に染まる空の色がキレイで、「ああ、わたしはこの景色を日常に感じたくて移住してきたんだな」と実感する。
・地域おこし協力隊として初めての取材先が、大好きな人たちだったこと
だから、地域おこし協力隊として初めて取材させていただいた移住イベントが、この【倉敷移住体験ツアー 倉敷の「食×文化」をつなぐ人に出会う旅】だったこと、このツアーの拠点がDENIM HOSTEL float だったことは、なんだか運命のようで。
名刺が届いてから初めてのお仕事ということもあって、市の職員さんに「倉敷市の地域おこし協力隊として着任した高石さんです」と紹介を受けて名刺を交換するたびに「あら、お仕事でご一緒できるなんてね」とみんなから温かく迎えいれてもらう。そのたびに、なんだか気恥ずかしいような、でもやっとこの景色のある街で根を張り始めたのだと実感してはワクワクしてしまう。そんなツアーだった。
floatでの宿泊体験も、そのときにいただいたGRAPE SHIPさんのワインも、ずっとずっと好きだったので、そのおふたりが携わるこのツアーで出会った人々を取材できたことは、とても嬉しいできごとで。文章を書き続けて、好きを仕事にして、憧れの街に移住してきてよかったと心底心がホカホカする宝物のようなイベントだった。
だからこそ、このツアーの終盤に写真を愛する参加者のひとりと一緒に並んで瀬戸内の凪を眺めて、無我夢中になってシャッターを切りながら「真梨子さんと一緒にこの夕焼けを見たいから、また岡山に帰ってきます」と言ってもらえたことが、とんでもなくうれしくて。
はじめての取材先が、わたしの「倉敷スキかも」と思った原点だったこと、なによりも好きな瞬間を見て同じように心を寄せてくれる人と過ごしたこと。きっと絶対に忘れない、魔法のような時間だった。
・このツアーのレポート記事を書きました
■ 草木萠動(そうもくめばえいずる)
こと雨水は、本当に雨の多い日々だった。前回のnoteにも前々回のnoteにも「雨が多いなぁ」と書いているから、本当にそうだったのだと思う。
「岡山、晴れの国じゃないのかよおう」と呟くたびに、倉敷出身の同僚や上司から「今年はたまたまだって」と言われるのだけれども、わたしにとってはこの3カ月が倉敷生活のすべてなので、これがたまたまなのかどうかは来年、再来年になってみないと分からない。
はて、わたしが雨女なのかしらねぇ。いやでも、大事なイベントの日はだいたい晴れているもの。と、真梨子雨女かもしれない説を否定し続ける日々。
そんな倉敷も、やっと河津桜が咲きました。
ぽかぽか陽気がやってきたかと思えば、名残り雪のぱらつく3月。日に日に膨らむ桜の芽を眺めながら、いまかいまかと心待ちにしているのに、咲いたそばからはらりと散ってしまう儚いこの花が、実はちょっぴり苦手だった。
でもね、今年は。散ってしまう日のことを憂いでいないでイマを全力で楽しみたいなというわたしがここにいて。春の桜も、夏の花火も、秋の紅葉も、冬のマジックアワーも。ぜんぶぜんぶ、その瞬間を抱きしめながら誰かの帰ってきたい場所になれるような発信をしていけたらいいな、なんて思っていたり。