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誰かにしか手に入らないものは幸せって言わない
わたしは昼間から風呂屋へ向かっていた。
1人では行ったことがないその風呂屋へ、携帯のナビの音声を頼りに車を走らせていた。
でも急に「やっぱり『怪物』が観たい」と思ったのだ。そういうことが非常によく起きてしまう。
人生は思い通りにいかない
信号待ちでナビの行き先を変更した。とっても遠回りになってしまった。
(確か15時40分くらいから始まる回があったような…)
微かな記憶を頼りに、またもや1人で行ったことのない映画館へ車を走らせる。
映画館に到着したのが15時16分。
映画の開始時刻は15時10分だった。もうチケットは買えなかった。
あーあ。
でもやっぱりどうしても今日観たい。
その場で次の回(レイトショーで20時35分から)をネット予約。座席は一番後ろの端っこ。3列並んだシートの真ん中を堂々とおさえた。
若者の相槌の7割は「それな~」
安心して、また近くの(田舎の)デパートへ移動。うろうろと買い物をして、ミスドに入り隣の女子大生の話に耳を傾けながら仕事した。
いつも「おかわり自由だから」と思ってホットのカフェオレを頼むのに、おかわりもらえたことって今まで2回くらいしかない。そもそも、おかわりを聞いて回ってるスタッフを20年くらいみていない。まあそんなにミスド行かないけど。
隣の女子大生はパパ活の話で盛り上がっている。ドクターマーチンが欲しい。でも高いからパパ活したら楽に稼げるということらしい。「ドクターマーチンって1万くらいするんちゃうん」「叙々苑で食べれてお金までもらえるってやばない?」「それな~」
わたしは(パパ活で稼いだお金って税金かかるのかなあ)とぼんやり考えながら、Canvaで投稿を作っていた。
おつりは300円だよ!と3回叫ぶ
映画まであと2時間。さて、どうしようかと考え、やっぱり風呂屋へ行くことにした。
(田舎の)デパートの駐車場の出口は精算機が故障して、70歳くらいのおじいちゃんが大汗をかきながら全部手動で機械を動かし、お客さんに謝っていた。非常用のインターホンで本部(?)に連絡し「だれか応援来てください!」と言っているが「とりあえず手動でがんばって」と若そうな人の声が返ってきていた。
220円のところ520円出しちゃって、おじいちゃんパニくってた。平常時だったらすぐ300円出せるんだろうけど、非常事態だったから。申し訳ない気持ちになった。ごめんなさい。
複雑な風呂屋システムとけたたましいアラーム
なにはともあれ、風呂屋へ向かう。ところがスマホの充電は7%しかない。19時にはインスタ投稿作業があるから、それまで持たせないといけないし、1人で来たことない場所にいるので、スマホのナビが使えないと家に帰れない。車にナビはついていない。風呂に入っている間に充電するしかない。充電器があるタイプの風呂屋でありますように…。
風呂屋に着いた。入口の券売機で券を買うスタイルだが(だいたいそう)、ボタンの種類が多すぎて何が何やら分からない。ロイヤル入浴と一般入浴はどう違うの?タオルレンタルと手ぶら入浴と別々にボタンがあるのはなぜ?後ろに人が並び始める。焦って適当にボタンを押して、受付へ向かう。
「サウナと露天風呂使えませんけど大丈夫ですか?」
チケットを出したわたしに受付の女の子の無情なセリフが突き刺さる。
サウナと露天風呂が使えないなら、風呂屋に来た意味ないやろがい!と小一時間説教したい気持ちになるのをグッと堪え、気弱な声で「あ、いや…ちょっとよくわからずに適当にボタンを押してしまいました…」と答える小心者のわたし。追加料金を払って無事関所通過を許された。
女風呂と書かれた暖簾の手前に休憩所のような小さなスペースを発見。と同時にスマホを預けるタイプの有料の充電器も発見。
暖簾をくぐる前に、投稿を済ませなくては。19時予約の投稿を少しだけフライングで18時58分に投稿。ストーリーズのシェアをした時点で充電はわずか2%。急いで電源オフ。
充電器に差し込んでいざお金を投入…と思った瞬間に(え、ちゃんと投稿できてるよな?)と心配になった。電源を入れようとするが2%だったためそのまま死んだのか、入らない。
予約投稿をセットした時点でバグが起きていないことはチェック済みだし大丈夫なはず!勇気をもってお金を投入し、ケースを閉じようとした瞬間アップルマークが付いたのが見えた。と、同時にケースは閉じてしまった。あああ!
19時ジャスト。充電器の中からけたたましくアラームが鳴り始めた。わたしのスマホだ。わたしのスマホは毎日19時にけたたましくアラームが鳴る。19時のインスタ投稿作業を忘れないためだ。
暗証番号を入れて解除すれば開けられるけど、投入したお金がムダになる。いや100円やけど。でもやっぱりもったいなくて、(そのうち止まるよね…)と言い聞かせ知らんぷりしてその場を離れた。
ぜんぜん泡立たないリンスインシャンプーと家なら無料のドライヤー
暖簾をくぐって脱衣所に入ってもなお、かすかにわたしのスマホのけたたましいアラームが聞こえていた。ほんとうにごめん。持ち主に無視されるかわいそうなわたしのスマホ。そしてその近くにいる人たち。
風呂に入り、ぜんぜん泡立たない備え付けのリンスインシャンプーで頭を洗う。ぜんぜん泡立たへんな…と思っていたら、近くの女子が「え、待って。ぜんぜん泡立たへんねんけど!」と声を上げた。近くにいた全員が心の中で(それな~)と答えた(はず)
わたしは露天風呂もサウナも許された『ロイヤル入浴民』なので、堂々と露天風呂もサウナも入った。最後に内風呂でゆっくりしていたら、お母さんが娘と息子に「最後100数えたら出ていいよ!」と大きな声で数え始めたので、共に心の中で100唱え、共に風呂から上がった。
脱衣所で服を着てから持ってきていた【特別な日用】のシートマスクをおもむろに顔にのせる。ちょっと恥ずかしかったけど、周りをみたら3人に一人がシートマスクつけてた。
どうやらドライヤーは有料らしい。5分100円と書かれた料金箱にドライヤーが繋がれている。自宅でも使っているパナソニックのナノケアだ。仕方なしに100円投入し、髪を乾かす。家なら無料なのになあと思いつつ。
隣にきたちびっこが、ナノケアに手を伸ばす。お母さんが「あんたソレお金かかるからこっち使い!」と別の場所に誘導する。そこには銀色に輝く無料で使えるドライヤーたちが並んでいた。
「お、おでは、ナノケアで髪の毛を乾かしたかったんや!」と自分と、念のため周りの人たちにもテレパシーを送っておいた。
無事髪も乾き、同時に肌も保湿でき、颯爽と脱衣所を出る。スマホだ。スマホを救出しなくては。引き続き知らん顔で充電器のロックを解除し、自分のスマホを受け取る。スヌーズ設定にはしていないつもりだけど、万が一ここでアラームが鳴ってしまったらわたしのアラームだったとバレてしまうので、華麗にアラーム解除しリュックに押し込んだ。
映画を観るのはこんなに難しいことだったのか
さて、改めて映画館に向かう。時間は余裕すぎるほど余裕だ。小腹を満たす余裕があるほど余裕だ。
上映時間の5分前に映画館に入り、予約していたチケットを発見しようと機械の前に立ちスマホを開く。
ない。
いつも来ているはずのメールがきてない。
迷惑メールもチェックするが、ない。
え?え?ええ?ここにきて??
もしかしてチケット買えてなかったのかも?と改めて購入するていで操作する。座席を選ぶ画面で、端っこ3列シートの真ん中は堂々とおさえられている。これ、わたしよな??こんなガラガラの映画館で(田舎なんでね)、こんな変な席のおさえ方するの、わたししかおらんよな。
刻々と上映時間が迫る。
え、まって。どうしよ。人おらんすぎるし(田舎なんでね)
だれに聞けばいいのかわからん。どうしよどうしよ。
もぎりのお姉さんしか声かけられそうな人いないけど、入場案内でいそがしそう。でも上映時間が迫っている!聞くしかない!
勇気を出してピンチである旨を訴えたら、インカムで連携を取ってくれて、別の方が対応してくれた。電話番号を伝えたら、やっぱりわたしは変な席を堂々とおさえていた。もう1回買わなくてよかった。
充電器の100円ですら出し惜しみするわたしが、いくらレイトショーとはいえ、1500円×2は意味不明すぎ。
笑顔のやさしいお兄さんが、わたしのチケットを発券してくれたとき、時刻は20時37分。
ダッシュでもう一度もぎりのお姉さんのところに向かい、チケットを見せて関所通過。よりによって一番奥の奥のシアターへ広い通路を猛ダッシュした。ぜったいに負けられない試合がここにあったのだ。
息切れしながらわが席へ着席。予告が流れる中、自分の投稿をチェック、ストーリーズシェアもして、すかさず電源オフ。予告中、めっちゃ喋ってるおばさんたちと、「ポップコーンうるさく食べる選手権」でも開催してるんか?っていうお姉さんとのコンボで(田舎の映画館っていいね)とおもったりおもわなかったり。
ここからが本編です
さあ、お疲れさまです。本編に入るまでに3500字以上使いました。完全にあたおかですね。怪物はわたしでした(ネタばれ)。
あらすじ
大きな湖のある郊外の町。
息子を愛するシングルマザー、
生徒思いの学校教師、そして無邪気な子供たち。
それは、よくある子供同士のケンカに見えた。
しかし、彼らの食い違う主張は次第に社会やメディアを巻き込み、
大事になっていく。
そしてある嵐の朝、子供たちは忽然と姿を消した―。
なぜ本編に入るまでにこれだけ文字数を割いたかというと、正直まだ整理がついていないから。「なんで?」が多すぎる。
以下ネタバレを含みます。監督は先入観なしで観てほしいっておっしゃってたみたいなのでこの後はどうか自己判断でおねがいします。
これが是枝監督
いや、これが是枝監督の映画なんですよね。よく知らないのにえらそうなこと言ってるけども。
わたしが持ってる是枝監督のイメージは「結末をちゃんと描かない」
観るひとにゆだねるんですよ。ハッピーエンドなのかどうなのかさえも、観るひと、受け取るひとにゆだねてしまう。(是枝監督の弟子の西川美和監督もそういう撮り方するよね)
だから見終わった後にすっきりしない。
帰りの車の中で「6キロ道なりです」とナビに言われ、ひたすら信号のない不安な山道を走りながら文字通りウンウン唸ってました。
シングルマザー、いじめ、事実を隠蔽しようとする学校、不誠実な教師、性の問題…
いろんな問題が入り交じっていて、いろんな立場からの見え方があって、どこに感情移入すればいいのか最後までわからなかった。
そうだ、感情移入する場所がわからなかったんだ、わたしは。わたしは映画に感情移入しながら観たいという固定概念があるんだなきっと。
物語は、母親・教師・子どもの3つの視点から構成されていて、母親目線ではとにかく不気味というか「は?何こいつ?」と感じさせる描かれ方をしていた教師も実はめっちゃいいやつだったりして。
でも少しずつ壊れていく。ひとが壊れていくのって怖いよね。まともだったひとがまともじゃなくなっていく。いや、保利先生はもともとちょっと変わった人間だったけど、子どもらとってはきっといい先生だったはず。
いじめをしている子どもたちが「ドッキリだって!」と言い張り、シカトしたら「リアクション悪い~!」とまた煽るのも嫌だったなあ。ほんとに、子どもってなんであんなに残酷なの。こんな残酷な世界でじぶんの子どもを産み育てるなんてマジ無理!っておもっちゃったなあ。
誰かにしか手に入らないものは幸せって言わない。
物語の終盤、田中裕子さん演じる校長先生が主人公の男の子へ語り掛ける言葉。
誰かにしか手に入らないものは幸せって言わない。誰にでも手に入るものを幸せって言うの。
これ、どういうこと??ねえ、映画見たひと、あなたの解釈をどうか教えてほしい。
この言葉が引っかかって、ちょっと途中で取り残され気味になってしまった。
帰宅してからTwitterでいろんな方の発信を読んで、つまり「幸せにならなくちゃいけない」「ちゃんと将来結婚して子どもをつくって家族を作る」そういう世間一般的に「当たり前」だと言われるようなものは、幸せじゃないっていうことかと思ったのだけど、合ってるかな?
「当たり前」に男性は女性を好きになり、結婚して家族を作る。逆も然り。「当たり前」に男性が女性を好きになれなければ、幸せになれないなんてことはないんだよ。ひとがひとを好きになる。大切に思う。それだけでも幸せなことだよってことかな。
謎の当事者マウント
だれかが「この映画を観て、単純に”美しい”とか”感動した”っていう感想しか持てない人は当事者じゃないからだ」って言ってたんだけど、そういう当事者マウント取るのはやめてもろて。
自宅の駐車場で遊んでいた孫をはねて死なせた祖父母とかさ、もう辛さの極みやん。んでけっこう聞くやんこういう事故。聞くたびに辛さマックスやったけどさ。
面会で「お墓は別々にするって…」って話してる老夫婦よ。たまらんすぎない?きっと、かわいくてかわいくてたまらない孫を事故とはいえ死なせてしまって、実の子どもからも縁を切られる。だれの感情も否定できないからよけいに辛すぎる。その当事者に君らはなれるか?
みんなそれぞれの「当事者」がある。今は違くても、いずれその立場を経験することがあるかもしれない。今分からない、想像できない感情があることを否定しなくっていんだとおもう。
人生なんて美しいことばっかりじゃないやん。むしろ9割辛いことやったりするやん。
だからこそ、ラストシーンが美しくて。わたしは誰にも感情移入できなかったけど、意味も分からずボロボロ涙が出たよ。
現実なのかどうなのかわからない世界が、とにかく美しくてボロボロ涙が出た。せめて若いこの子たちが、大人の顔色を伺うことなく、気持ちを解放させて生きられる場所があればいいなと思った。
怪物は結局だれだったのか
怪物「だーれだ?」
みんな心に怪物を飼ってる。
わたしは
正義の反対は悪じゃない。もう一方の正義だ。
っていう言葉がすきで、じぶんの座右の銘にしているくらいなんだけど、見えてるものだけが正しいと思うのは勘違いやすれ違いを生む。
多様性を受け入れよう!とまでは言わないけど、いろんな人や立場があって、それによってものの見え方が変わってくるということは知っておきたいなとは思う。
知ってると知らないとでは大違いだから。
映画はいつもわたしの知らない世界を見せてくれる。知らなかった価値観を教えてくれる。
「すきか嫌いか」という単純な話じゃなくて、こういう人もいるし、こういう考え方もあるって知れるのはとても貴重なことだし、ありがたいことですよね。
わたしもわたしの価値観をひとに押し付けることがないように、気を付けたい。
役者さんの演技がとにかく素晴らしくて。観て損はない映画だと思います。
あとわたしが言うまでもないことですが、坂本龍一さんの音楽がほんとうにほんとうにすばらしいです。