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はじまりは模擬裁判 -なかったことにされちゃうんじゃないかと思って-

「証拠不十分により不起訴!」

 15、16年前、法学部(専攻は政治)の学生だった私は、裁判員制導入前で頻繁に行われていた模擬裁判のワークショップに何度か通った。(裁判員法は2004年に成立し2009年に施行された)
 そのワークショップは大学の授業ではなく、NPOが主宰するものだったので、他大学の大学生たちが20人くらい集まっていたと思う。裁判所から派遣された指導する立場の人がいたような気がする。自発的に参加した理由としては、単純に「裁判員裁判てどんなん?」程度の軽いノリだった。その模擬裁判では取り扱う事件が一つ用意され、クジで役職が決められる。裁判員たち、裁判長、検察官、弁護士、容疑者、容疑者に付き添う刑務官、書記官、傍聴人などに振り分けられた。私は傍聴人を引き「なんだハズレか」と思った記憶がある。今となればハズレなんてあるかい、と思うのだが。
 記念すべき最初の模擬裁判は、ひったくり犯による強盗致死事件だった。おばあさんのハンドバッグを若者が奪い逃走、奪われた際におばあさんは転倒して頭を打ち死亡した。その後、近くの路地で財布を抜かれた状態のハンドバッグが見つかり、駅近辺で挙動不審な男を職務質問して逮捕したと言うものだった。男は8万円を所持していたが、バッグから抜いたであろう財布は持っていなかった。しかし、事件の目撃情報から、男の身なりが一致し、逃走ルートにも該当した。たしか、前科もあった設定だったと思う。
 「おあばさんかわいそうだな」「この男サイテーだな」とか、検察による状況説明を聞きながら思っていたが、確かに男が犯人である物的証拠はなかった。その後のあまり具体的なやりとりは覚えていない。そして、「あ、本当に言うんだ」と思ったのが冒頭の言葉である。ちなみに、それは裁判長役の大学生がセリフ通りに発しただけだ。
 模擬裁判で学んだのは、やはり、感情に流されてしまうというのがこんなにも簡単なことなのかということ。物的証拠もなく状況証拠も乏しく、「そうだったかもしれない」というあやふやな記憶による証言で「決めつけ」るのがどんなに危険なことか。身を以て考えることができたのは貴重な経験だった。
 その後、実際の裁判を傍聴しにも行ったが、そこで声をかけてきた裁判マニアのおじさんのマウントが気持ち悪すぎて二度目はなかった。なので、傍聴マニアにはならなかった。その代わりと言ってはなんだが、大学1年から継続的に参加していたワークキャンプやボランティアで色んな国と地域に滞在し、留学とも違う一筋縄ではいかない異文化交流に嵌っていったのである。これが裁判と直接結びつくわけではないが、そういった大学時代〜20代のうちに自分が遭遇した様々な事件や事故が今の自分に結びついていくのである。それらはまた別の機会に紹介したい。

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↑ハタチの夏。恐怖に怯えたシドニー・キングスクロスの街角

 大学生の当時はジャーナリストをふんわりと目指していた(ふんわりでできる仕事じゃないことくらい薄々気づいていた)のだが、紆余曲折あり今は劇映画やドラマを作る仕事をしている。脚本を書くのが好きだし(まだこれだけでは食えない)、何ごとも創作に活かすということを日々行っているわけで、事件やそこに生きる人物や世相への興味は、今の仕事の中核と言っても過言ではない。あくまで脚本なので、実際にあった事件をそのまま描こうとは思わないが、人物のリアル、複雑に絡む事情、などは本当に参考になる。脚本だけじゃなく、映画を観る時の考察力に大いに貢献しているとも思うし、興味というのは人を作るんだな、と思う。
 あの最初の模擬裁判から、本当にたくさんの事件、事故を調べた。世間を震撼させた殺人事件から、新聞でいう1段未満の記事になるかならないか程度の事件まで、自分なりの琴線に触れたものを追いかけている。と言っても、ネットで調べ、ルポを読み、2chやSNSでの関連コメントを追っていく程度だけど。でも、それなりに、ニュースの視点とは別の感覚を持つ事件も多々あり、文章として書き起こして残しておくのも悪くないな、と思った次第である。

 とんでもなく当たり前のことだけれど、世の中には本当に色んな人がいて、事件、事故、自然災害、日々世界で起きている色んなことは、全ては記録されているようでされていない。人にとって二度目の死が本当の死、というが(一度目は肉体、二度目は自分の存在が忘れ去られた時)、事件や事故もきっとそうだと思う。そしてそれらが孕む社会の歪みみたいなものには、忘れてはならない何かがあるんだと思う。忘却の彼方へ行ってしまった事件や事故からは何も学べない。実際には被害者や犯人にも家族や友人がいるから完全に忘れ去られるというのはなかなか難しく、あっても何十年も時を経て起こりうることだとは思うけれど。

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↑4tトラックでハイエースごと吹っ飛ばされた21歳の冬。

 メモ程度になる可能性もあるし、事件ウォッチャーの端くれでしかないのだけど、-なかったことにされちゃうんじゃないかと思って-というタイトルと共に、今の自分の考えや感覚と共に気になった事件や事故などを書き残せたらな、と思う。
長くなったので今日はこの辺で。

※使用する写真は全て自分で撮影したものです

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