見出し画像

「朝顔」は誰か

 心の奥底にしまった罪悪感に触れるような、ざらりとした心地。
 夏が来て、この曲が聞こえてくると、胸騒ぎがしてしまうのです。

 私立恵比寿中学の「朝顔」
 2018年に夏の大型ライブ「ファミえん」のイメージソングとしてリリースされました。

 爽やかで明るい曲調なのは勿論分かっています。でもこの曲を聴く度に胸がざわめくのがなぜなのか、自分の思いを整理するためにも書き綴っていきます。
 読み進めるうちに大変ネガティブな、不愉快な気持ちになること間違いなしで、あまり面白い話でもないと思うので、無理して読み進めずとも大丈夫です。本当に一個人の思いの書き殴りです。


何がそう思わせるのか

 胸騒ぎの理由、それはまず歌詞です。
 紐解きます。 

「蛍光灯の光だよ」

 アパートのベランダ、深夜に朝顔が咲いてます。
 ねえ、太陽じゃないんだよ、これは蛍光灯の光だよ。
 だまされてるとも気づかないで、それでも、綺麗に綺麗に綺麗に、
 咲いてくれて ありがとう。

https://www.uta-net.com/song/254140/

 曲の入り。メンバーによる語りです。
 そもそも「深夜に朝顔が咲いている」状況自体、普段なかなか見かけるものではありませんが、想像には難くありませんよね。そんな朝顔に語りかけるような歌詞です。
 聴く度に考えてしまうのです。この「朝顔」って何の比喩なんだろう、朝顔に語りかけているのは誰なんだろう…。

この曲を歌うのは、青春をアイドル活動に捧げるアイドル・私立恵比寿中学のメンバーたち。たくさんの観客、場合によってはサイリウムを持ったファミリー(オタク)たちが見守っている。
 サイリウムの光、ファミリーからの愛を受けて咲く、アイドル。しかしその光が人工的であるように、愛も表層的。アイドル(idol)=偶像である、自身が作りあげた「アイドルたる私」を愛してくれているだけ。
 朝顔はアイドル自身。蛍光灯の光を受け、深夜に咲き誇る。太陽に照らされているわけではない、だまされてると気づかないふりをして、咲き続けるアイドルである自分自身や仲間への「ありがとう」…

 …いやいや、そんな絶望ある?
 少し視点を変えてみます。

この曲を聴くのは、青春をアイドル活動に捧げてくれているアイドル・私立恵比寿中学のファミリー(オタク)たち。ステージで歌って踊る様子はきらきらと輝いているようで、さながら太陽のよう。
 でもその太陽は、あくまでアイドル(idol)=偶像によるもの。作り上げられたものにすぎない、人工的な蛍光灯の光と同じ。そんな光を浴びても、ファミリーはいっぱいの笑顔を咲かせている。
 朝顔はファミリー。蛍光灯の光を受け、深夜に咲き誇る。太陽に照らされているわけではない、だまされてると気づかないで、笑顔いっぱいに咲き続けるファミリーへの「ありがとう」…

 …こちらの方がしっくりくる気がするものの、それにしても後ろ向きな気持ちになりますね。
 こんなことを考えるから、胸騒ぎなんてしてしまうんです。


「私の痛みを吸って咲いたような」

 以下はサビの歌詞です。ここまでたどり着く前にAメロBメロで「23歳になったら結婚しよう、と話していた小6の頃の約束を思い出す」「夏祭りのくじ引きを何度引いても当たりが出ない」というエピソードを挟みます。

 今宵も朝顔 元気に
 ベランダで笑ってんだ
 私の痛みを吸って咲いたような

https://www.uta-net.com/song/254140/

「朝顔」=アイドルである私は今日も笑っている。本当の私が抱える心身のつらさ、自己犠牲、涙の日々…「痛み」全てを糧にしてステージに咲く…

 …やめて!そんなこと!やめて…!!!
 視点を変えないと!!!

「朝顔」=ファミリーは今日も笑ってくれている。本当の私が抱える心身のつらさ、自己犠牲、涙の日々、「痛み」全てを超えたステージを見て笑顔を咲かせている…

 …どちらにせよ厳しい。。

…「私」って、やっぱり…

 さらに歌詞はこう続きます。

 約束を破ります
 私 まだまだ咲くね
 太陽はいつも 心の中にあるから

https://www.uta-net.com/song/254140/

23歳で結婚なんて、アイドルを続ける以上、障壁が大きすぎる。小6の夏休みの「約束を破ります」。私はアイドルとして「まだまだ咲くね」。本当の光、愛を届けてくれる「太陽はいつも 心の中にあるから」…

 …「朝顔」がアイドルだろうが、ファミリーだろうが、この歌詞に出る「私」がアイドルを続ける1人の女性だとしたら…心の奥がぎゅっと捕まれたような気持ちになって苦しくなるのです。これを歌うメンバー…どうしたら彼女たちは幸せになってくれるの…?こんな歌詞を歌わせたのはどうして…と、ひとりでどんどんネガティブな気持ちになっていくのです。

影のないメロディー

 ※以下、素人なので誤りご容赦ください※

 サビはCメジャー(ハ長調)、いちばん最後のメロディーはGメジャー(ト長調)、それ以外はEメジャー(ホ長調)かと思われます。いずれも濁りのない、明るい、元気な、開放的な音階です。曲中の転調も劇的な印象はなく、歌詞の中でいうと「残念賞」「you're so cute」と伴奏が薄くなる部分で、または曲中で自然に変わっていきます。
 コード進行も調べてみましたが、からっきし分かりません。有識者に教えて頂きたいです。サビについては初心者でもギターで弾きやすそうな進行だなと思いました(小学生のころの記憶をたぐりよせ)。
 とても聞きやすい、耳に入りやすいメロディーだと思います。だからこそ、そんな曲にこの歌詞を乗せる?!それでバランスを取っているつもり?!の気持ちになってしまうのです。複雑な思いです。

救いはあるのか

 …ないと悲しいだけのですが、あるのではないかなと考えています。

 約束を果たします
 変わるけど変わらないよ
 今の自分を真っ直ぐに見つめていよう

https://www.uta-net.com/song/254140/

 約束を「守る」ではなく「果たす」なのです。「小6の夏休みの約束」そのものを順守するというよりは、あの時の記憶…言葉、景色、温度、関係性…そういうもの全てをひっくるめて、「約束」を忘れずに遂げるような印象(あくまで印象)。「結婚しよう」そのものは忘れていない、でもいつかその思いを持ち続けたまま果たすよ、という想いを感じます。

 いちばんの救いに感じるのは「変わるけど変わらないよ」
 ファミリーにとっては、成長する私立恵比寿中学のメンバーの姿と重なるような歌詞ですよね。私もそう思います。それと同時に、アイドルとして成長しながらも本質的な部分、「私」としての姿も変わらないと歌ってもらえているような気がして、そうであってくれ、心の太陽を見失わないでくれ…と願い続けることしかできなくなるのです。


 …など、あまり景気の良い雰囲気ではない文章を書き殴ってしまいました。

 夏が終わる前に、書き残せて良かったです。



 一個人の解釈なので、これが正解なわけないと思っています。あくまで参考まで、というか、こんな風にざわついている人がいるんだな、と思う程度にとどめてもらえるとありがたいです。

 私立恵比寿中学の皆さん。
 いつか卒業する日が来ても、全員、ずっと幸せであってください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?