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土曜の夜に呆然とする

土曜日、朝6時半に目覚ましが鳴る。金曜の晩、早起きする気満々でこの時間にセットするけど起きられた試しがない。トイレに行きまたベッドに入り惰眠をむさぼり、起き出すのはだいたいいつも8時をまわっている。

起き出すと言っても、子どもたちとベッドでふざけあってだらだらしてしまうので、朝食は9時前になる。
朝食を済ませてから、子どもたちは宿題やら勉強にとりかかる。
下の息子が「漢字がわからないから教えてほしい」と言う。
「漢字ってママが教えるもんでもないよ。おぼえるだけじゃん。辞書もあるじゃん。」と返すも、「ひとりじゃできない」と言う。甘えん坊なのである。

読み上げて、書けなかった字を抜き出し、音と訓、それぞれの熟語を覚える。
「照」と言う字については、「日が照る」しか例文がなかっなから、「火照る」とか「照明」「日照時間」などを例に出す。「日照時間」について、赤道直に近い場所とそうでない場所の太陽の動きに話しが及び、地球と太陽の絵など書き始め一体なんの勉強だったのかわからないけど、息子は楽しかったみたいだからよしとする。

そうこうしているうちに、耳鼻科の時間だ。
子どもたちはアレルギー鼻炎だから、春と夏は耳鼻科通いする。
自転車で駅前の耳鼻科に行く。上の娘は自分で自転車に乗り、下の息子は私の後ろに乗せた。息子はさいきんデジカメにはまっていて、乗っている間も写真を撮りまくる。
気になったモノがあるたびに自転車を止めてやらなくてはならない。お花や葉っぱや、前を走る姉の姿を撮っているようだ。
「カメラは小さい世界も撮れるんだよ。」
息子はそう言ってさっき撮った写真をめいっぱいズームして見せてくれる。隙間に生える雑草だった。ほんとだ。お花みたいな葉っぱでおもしろい。
今週咲き始めていた藤の花があちこちで紫の花を垂らしている。淡い紫と濃い紫が重なり合っていて、花にボリュームが出てきた。風はまだかすかに冬の名残りがあるけれど、陽射しにはもうしっかり夏の強さがある。自転車をこいでいると、ちょっと寒くてちょっと暑い。気持ちいい。

耳鼻科の先生は友達のおじさんみたいに気さくで、手際よく診てくれるからすぐ終わる。

帰宅したらもう1時近かったから急いでパスタとスープを作り1時過ぎに遅めのランチにありつけた。食べているとケータイがなる。出ると息子のお友達で、かわいい声で「○○くんいますか?」と言う。一緒に遊ぼうとのことで、息子は、パスタの残りを10秒くらいでかきこんで、あっという間に家を飛び出した。遊びいのちなのである。いいことだ。

賑やかな息子がいなくなると、家はとたんに平和になる。上の娘は絵を描いたり小説を書いたりするのが好きで、いつも机に向かって何かを書きつけている。小説を書いて、自分で挿絵も描いて本を出したいみたいだけど、「今度見せるね」と言いつつまだ一度も見せてくれたことはない。私もあえて見ないでいる。別にかくれて見ようと思えばいつだって見れるけどそういうことは絶対にしない。

私は、先週から始めた床の水拭きに取り掛かる。水に重曹とミントオイルを数滴たらす。ミントの香りが爽やかで掃除後とてもすがすがしくなる。床の水拭きはツイッターでやっている人たちが口々に「空間の質が変わる」「気の流れが良くなる」「浄化される」と言うので、先週やってみたら確かに気持ちいい。素足で歩くのが気持ちいいだけじゃなく、心まで掃除されて晴れやかな気分になる。これを習慣にしてみることにした。
日ごろずぼらな私がめずらしくこの丁寧な作務をこなしていると、インターホンがなり、息子が友だちを連れて帰ってきた。

子どもたちが友だちを連れてきてくれるのは、うれしい。私が子供のころ母は、私が家に友だちを呼ぶのを嫌がった。掃除しなきゃならないし用意が大変だし疲れるという理由だったと思う。
私は、よく友達の家に行ったし、おやつを出してくれて気さくに話しかけてくれる友だちのお母さんが羨ましかった。どうしてうちのお母さんはこんなにへんくつなんだろうと不思議で仕方なかった。
子どもは家に友だちを呼びたいものなのだ。
家がとっちらかっていても、お母さんがたいして化粧してなくてもどうでもいい。
友だちにお母さんを見せたいしお母さんに友だちを見せたい。
私はそのピュアで自然な思いにたくさん応えたいと思っている。「平日ママは仕事でいないけどママがいる日はいつでも連れてきていいよ」、と子どもたちに伝えている。

「こんにちは~!せまくて散らかってるけど気にしないでね。」と言うと、その子は「う~ん、ちょっとものが多いけど狭くはないよ。」と部屋を見渡しながら応える。素直でよろしい。ちょっとぽっちゃりしたかわいい男の子だ。

私が雑巾がけに戻ると、あっちでドドドドー、こっちでドドドドー、上の娘も混ざり家中でかくれんぼ、おにごっこ、ボール蹴りに布団遊びが繰り広げられる。さらに「ママー!動画撮って!」「これ見て!」しょっちゅう呼ばれる。さっき雑巾がけした場所にもうおやつのクズが散乱している。もはや心を整える作務どころじゃない。
雑巾がけは終わったけど空間の質とか気の流れとか、よくわからない。でもこうやって子供たちがキラキラわらってその声が家中に響いてるんだから、それでいい。


さて、一週間分の買い物に出なければならない。平日フルで仕事だから、買い物は一週間に一度、土曜日と決めている。一週間分の献立を決めて書き出して、買い物に出る。
その献立の選定に毎回苦労する。あれも作ったしこれも食べた、う〜ん。そこにいた息子の友だちに「キミが一番好きな料理ってなに?」とたずねてみる。「一番はいっぱいあるなあ!焼肉!」
「へえ!それから?」
「牛タン!」
「うんうん、あとは?」
「ラーメン!」
「昭和のサラリーマンみたいだなー」
かわいい。あんまり参考にはならなかったけど。
それでもなんとか献立を決めて買い物に出る。車で10分ほどのスーパーと八百屋に行く。
一週間分買って雑貨も含めてだいたい15000円前後になる。

年下の男子たちの相手に疲れた娘が助っ人で買い物に付き合ってくれた。頼んだ野菜を手に取ってきてくれるし荷物も持ってくれて頼もしい。
スーパーで、娘が牡蠣が食べたいというので買った。

一時間半ほどして帰宅したらもう、5時。大量の荷物を冷蔵庫に詰め込み一休みしたらあっという間に6時だ。今日は、まるでヘルメットを被ったみたいにボンッと膨らんでいる息子の髪を散髪すると決めていたから、バリカンで散髪する。子どもたちの髪はうまれてからずっと私が切っている。
息子の髪は3ミリから5ミリ、7ミリ、9.11.13.15と後ろと耳から上は2ミリ単位でグラデーションして刈り上げて、前は2センチの空き刈りと決めている。最後耳周りをハサミで整えて、首筋をピチッと刈るまで20分くらいだがその間、息子があっちが痒い、チクチクすると暴れるので、こちらもなかなか落ち着いて刈れない。
それでも今回は、上手くできた。息子は旦那似のコシのある直毛で、切りたては上質な絨毯みたいになめらかできれいだ。いかにも触りたくなるその仕上がりをひと撫でする。私の大好きな感触だ。
子どもたちと旦那が風呂に行っている間に急いで夕飯を作る。これから作り始めるのにもう8時近い。なんてこった。急いでお好み焼きを焼き、カツオのたたきに千切りの新玉ねぎと手作りポン酢をかけ、娘セレクトの牡蠣を酒蒸しにして岩塩とレモン汁をかける。味噌汁を用意する。和なのか洋なのか、わけのわからない組み合わせだ。それもいつものこと。
8時半過ぎでようやく夕飯にありつく。今日も美味しい。全て食べて片付けて、ベッドを整えて子どもたちを寝かせたらもう10時。そこからやっとお風呂に入る。我が家の洗濯とお風呂掃除は夜で、それは旦那がやる。それくらい、やってもらわないとね。

土曜日はもう何年もこんな風に息つく間もなく過ぎて行く。大好きなコーヒーは今日は飲めなかった。一週間で一番目まぐるしくて朝から晩までが飛ぶように過ぎる。そして子どもたちが寝たあとに、この存在したといえばした、しなかったといえばしなかったような、怒涛のように過ぎた一日を思い、呆然としている。今日というこの日はなんだったのか。ずっと何年か経った後に、このころの土曜日もちゃんと私の人生の一日だったと思えるように、書き残してみる。

明日、日曜日はなにもしない。ただぼーっと全てを休む日。


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