見出し画像

北海道東川町の天然水と米を使った「クラフト酒」の開発に挑戦。農作物に新たな価値を吹き込む|エクスフード株式会社 代表 髙橋惇平さん

北海道のほぼ中央に位置する、人口約8,500人の小さな町、東川町。大雪山から流れるミネラル成分が豊富な天然水と、その水で育ったお米や野菜が有名です。

東川町の豊かな食に大きなポテンシャルを感じ、2023年に西東京市から東川町に移住して開業したのが「エクスフード株式会社」代表の髙橋惇平さん。「地方の農作物をいかした商品をつくり、ブランディングすることで、地方にある価値を高めていきたいんです」と熱く語ります。

全国各地には、こだわって栽培された品質の良い農作物がたくさんあります。しかし、加工品に使用される際には、そのこだわりは消費者に伝わりません。さらに、いくら品質が良い農作物でも、高値で売ることが難しいという課題もあります。

このような問題に向き合い、「農作物の持つ価値を消費者に伝えたい」という思いから、現在髙橋さんは東川米と天然水を使った新ジャンルのお酒「クラフト酒(サケ)」造りに取り組んでいます。酒造りにかける、その熱い思いについてお聞きしました。

フルーティーさが際立つ!新ジャンルのお酒「クラフト酒」とは

髙橋さんが代表を務めるエクスフード株式会社は、食品ブランド事業と販売促進・マーケティング戦略のコンサルティング事業を手がける会社です。現在、「クラフト酒(副原料として果物を混ぜて発酵させた日本酒)」の開発に力を入れており、2025年1月に販売を予定しています。

クラフト酒の最大の特徴は、北海道産のフルーツやハーブを使用すること。例えば、北海道産のメロンやハスカップを使用することで普通の日本酒にはない、酸味や甘みのある味わいを実現しています。一般的に日本酒のアルコール度数は15%前後ですが、髙橋さんが開発する「クラフト酒」の度数は7〜9%と低め。お酒が弱い人や日本酒が苦手な人でも飲みやすい、新感覚のお酒です。

お酒造りに欠かせないのが、東川町の天然水。大雪山旭岳の雪解け水が長い年月をかけてろ過された、雑味のないまろやかな口当たりが特徴です。さらに、醸造用の米はその水で育った東川米を使用しており、国内自給率100%にこだわった酒造りをしています。

「東川町の最大の魅力は、豊富な天然水とそれを使って育った農作物です。その両方を使用したクラフト酒を通して、東川町の豊かな資源を多くの人に知ってもらいたんです」

酒造りを本格化させるためエクスフード株式会社を設立

髙橋さんが日本酒の開発・販売に興味を持ったのは、今から約3年前にさかのぼります。

2021年当時、大手スーパーの社員だった髙橋さん。担当業務はネットを活用した集客や販売促進企画など、多岐に渡っていました。その傍ら個人事業として、環境に配慮した商品パッケージの制作や低農薬野菜のPRなども実施。食に特化したマーケティングスキルを磨き活用しながら、「価値ある商品を世に広める活動」を続けていました。

「西東京ビジネスプランコンテスト2022」で西東京商工会賞を受賞する(画像提供:エクスフード株式会社)

日々さまざまな食に関する情報をリサーチするなかで、髙橋さんは「日本酒が若い人たちからの支持を取れていないこと」に着目します。

「若い層にも日本酒のおいしさと多種多様な味に興味を持ってもらいたい――そこで目を付けたのがクラフト酒です。果物を使って甘みを出し、アルコール度数を低くすることで、日本酒が持つ”強いお酒”というイメージを払拭し、手に取りやすくなると考えました。ピンクや紫など果物の色が付いたお酒は美しく、若者に興味を持ってもらう要素が詰まっているのではと直感的に思ったんです」

前々から、自身の日本酒ブランドを持ちたいと考えていた髙橋さん。長らく食品のPRの仕事に携わる中で食の宝庫である北海道に興味を持ち、偶然に見つけた北海道東川町の地域おこし協力隊に応募しました。

地域おこし協力隊の活動内容は、東川町の観光地の振興を担うものが中心。直接お酒造りと関係はありませんでしたが、天然水とお米が有名な東川町はお酒造りにうってつけの場所だと思い応募し、2023年11月に移住しました。

移住後しばらくは、東川町の観光地振興事業を担う地域おこし協力隊と商品PRサポート事業の2本柱で活動。その後、酒造りを本格化させるため、2024年6月にエクスフード株式会社を立ち上げました。

「継続的に認知してもらう仕組みづくり」が地方の価値を最大化させる

田園風景が一面広がる東川町の雄大な景色(画像提供:エクスフード株式会社)

全国各地には、生産者の想いが込められた素晴らしい農産品が数多く存在しますが、その魅力が消費者に十分に伝わっていないのも事実です。

髙橋さんは、地方の価値が眠っている理由を、「商品のブランディングがうまくできていないから」と話します。

たとえば、野菜が消費者に届くまでには、ホクレンや農協などの仲介業者が関わることが多く、生産者のこだわりや商品の魅力が伝わりきれていません。

「地方で手に入るこだわりの農作物の価値を知ってもらうためには、二つの方法があります」と髙橋さんは言います。

一つ目は「常時販売できるルートを確保すること」。小売店で販売することはもちろん、国内外で取引が行える越境ECを導入し、日本全国や海外からいつでも購入できるルートを確保する必要があります。

二つ目は「消費者との接点を作ること」。生産者のこだわりを取り入れつつ、若い人が興味を持つおしゃれなパッケージデザインを施し、マスメディアやSNSなどのオンライン媒体を活用してPRをすることが大切だといいます。

渾身のクラフト酒がまもなく販売!東川町のファンを増やしたい

(画像提供:エクスフード株式会社)

来年の1月頃、販売を迎える髙橋さんこだわりのクラフト酒。専門分野であるマーケティング知識を活かしてブランディングを行い、SNSやWeb媒体を活用した認知拡大の取り組みにも力を注いでいます。

「クラフト酒のおいしさを知ってもらえたら、東川町の農家のみなさんが丹精込めて栽培した米や果物の味も評価されるでしょう。その結果として、生産者自体の価値も上げられると考えています。

消費者が原料の生産地に興味を持ち、実際に現地に足を運ぶ――クラフト酒がこの好循環を生み出し、地方の魅力に気づいてもらうきっかけになれたら嬉しいですね」と髙橋さんは声を弾ませます。

最後に、今後の展望を聞きました。

「まずは今開発しているクラフト酒の販売を成功させ、多くの方に東川町の魅力を知ってもらいたいですね。現在は酒造会社に製造を委託していますが、いずれは北海道内に自社醸造所を建てて、国内自給率100%のお酒の商品開発を進めていきたいです」

さらに、今後は、持ち運びがしやすい缶入りの日本酒の開発も予定しているのだとか。自由度の高いパッケージデザインが可能となるため、若い層にも手に取ってもらいやすいのではと期待しています。

日本の農作物の品質の良さを世に広めようと、クラフト酒造りに奮闘する髙橋さんの挑戦はこれからも続きます。

(TOP画像:エクスフード株式会社提供)

いいなと思ったら応援しよう!