【芸術部 NY】アート業界と気候変動
Good Morning & Good Evening !
あぁー♪♪
いつか、ニューヨーク - 東京間をプライベートジェットで行き来したいわ~というラグジュアリーなライフスタイルを思い描いている芸術部ニューヨーク支店の石村です。
そんなわたくしですが、アート業界の気候変動に対するムーブメントを知り、色々な意味で心が痛みました。今日は、その心の痛みを皆様にも共有しようと思います。
※こちらの記事は、アーツイニシアティヴトウキョウ(AIT)のレクチャーを基に、独自に内容を再構成してお届けしております
アートセクターの地球温暖化防止への責任
産業としてのアートは、持続不可能なビジネス習慣に満ち溢れている
芸術は、歴史的にエコロジーや自然をテーマにしてきた文化形態であるにも関わらず、産業としてのアートは持続不可能なビジネス習慣に満ち溢れているという事実。
アートフェアやイベントでアーティスト、ギャラリー、個人コレクターは年間を通じて集まりますが、それは飛行機での旅行に大きく依存します。国際的なアートフェアが、プライベートジェット機を運航する企業と提携していることからも伺えるように、アート界のエリートは、プライベートジェットを移動手段として利用し、1機あたりの搭乗率の低いプライベートジェットは、最も二酸化炭素排出量の多い旅行形態です。
加えて、作品は、陸路、空路、海路で世界中に輸送されていることからも、アート業界が排出する温室効果ガスは、地球に大きな影響を及ぼしていることを示しています。
しかしながら、産業としてのアートは、そのビジネス習慣が土台となっているため、サステナビリティについての討議には不快感が高まっており、これまで業界全体として、温室効果ガス対策で他の産業に遅れを取ってきたことが指摘されています。
そういった背景がある中、気候変動の取り組みについて、最も目立つパイオニアである英国のテートは、2019年に気候変動非常事態を宣言。その内容は2023年までにテート全体のカーボンフットプリントを10%削減することを目標にしたもの。
結果、パンデミックの影響もあり、2023年最終的には60%の削減を達成。(偶然とは思えない時運)
Covid-19をきっかけに、気候変動への影響が小さ過ぎて対策を打つに値しないという認識を持っていたアート業界のリーダーたちは、自分たちの業界がどれほど気候変動について影響しているか、向き合わざる得ない状況となりました。
アートセクターの温室効果ガス総排出量
世界のアートセクターの年間の温室効果ガス排出量を纏めてみました。
年間の温室効果ガス総排出量は、公共的な美術館が圧倒的なトップ。これは、世界中にある美術館の規模を踏まえれば、当然の結果かもしれません。展覧会の設営に使う資材や、海外からの美術作品の借り入れ、空調管理などが、温室効果ガスの排出量を押し上げている要因だと考えれらます。
驚きだったのは、作家のスタジオでの制作活動が、商業的なギャラリーの2倍以上の温室効果ガスを排出しているということ。スタジオでの長時間の制作に伴う電力消費、陶器を焼き上げる窯業などには、大量の二酸化炭素が排出されていることが想像できます。参考
気候変動への警鐘を訴えるアクティビストの活動
温室効果ガスと切っても切れない関係にある化石燃料。(石油や天然ガス、石炭といった地下に埋まっている燃料資源)化石燃料から熱や光、動力などのエネルギーを得るために燃焼させることで発生する大量の二酸化炭素は、地球温暖化を促進させる温室効果ガスの一種です。
2023年9月15日、この化石燃料プロジェクトに多額の投資をしてきたプライベート・エクイティファーム コール・バーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)とニューヨーク近代美術館(MoMA)の関係を非難するアクティビストの行動がありました。(記事)
実は、KKRの共同設立者であるクラビス氏は、MoMAの理事長であるマリー・ジョゼ・クラビス氏の配偶者。そして夫妻は、MoMAに多額の寄付をしており、MoMAには、夫妻の名前が付けられた展示スペースもあります。
この行動は、2018年に写真家のナン・ゴールディン氏が率いたメトロポリタン美術館への抗議活動を彷彿とさせます。どちらも根底にあるのは、人の命や地球環境などを犠牲にして得た汚い資金で、芸術施設が運営されていることへの抗議と言えます。
訪れるたびに豊かな鑑賞体験を通し人々に感動を与えてくれるMoMAの運営には、自然と共に暮らしてきた人々の生活や、地球環境の犠牲の上に成り立っていたことを突き付けられた気がして、本当に心が痛みます。
アーティストからアートセクターへ。広がる気候変動へのムーブメント
深刻化する気候問題について、作品を通して訴え掛けてきたアーティストの活動は、世界のアートセクターとしての取り組みになりつつあります。
Gallery Climate Coaliation(GCC):ギャラリー気候連動
その中の団体の一つ、Gallery Climate Coaliation(GCC):ギャラリー気候連動(以後GCC)は、ロンドンを拠点とするギャラリーやアート関係者によって2020年に創設されました。
GCCは、アート業界が発展し続けるために、脱炭素と廃棄物削減の実践を促すことを第一目標として、2030年までにアートセクターの炭素排出量50%削減を掲げ、環境サステナビリティに関するガイダンスを提供しており、世界40ヶ国以上、800を超えるギャラリー、アートビジネスセクター、アート関係者で構成されています。(2023年4月時点)
GCCの活動には、有名美術館、国際的なアートフェアも参加しており、気候変動問題がアート業界において大きな課題であることが伺えます。
積極的に脱炭素に努めている団体、企業、美術館は、アクティブメンバーとしてGCCより認定を受けており、日本では唯一、アーツイニシアティヴトウキョウ(AIT)がアクティブメンバーの認定を受けています。(2024年6月時点)
抗議行動があったMoMAもアクティブメンバーとして認定を受けており、分かりやすくアートポリティクスを見ているようで、少し複雑な思いが混ざります。
組織を運営するには資金が必要という資本主義が正義である一面は、アート業界だけ切り離して考えることは、決してできない事実がここにあります。
世界のアートセクターは、温室効果ガス排出量削減に取り組み始めたばかり
アート業界全体として、気候変動へのムーブメントは今後数年間で、さらに高まっていくことが予想され、アーティスト、美術館、ギャラリーをはじめ、芸術に携わるあらゆる人々が、気候危機対策の実践者となることが求められていくと思います。
同時に、人々のライフスタイルの好みに大きく起因している問題でもあり、個々の歩むライフスタイルを即刻手放すことは不可能に近く、簡単に白黒付けられる事柄ではないというジレンマがあります。(ニューヨーク - 東京間をプライベートジェットで行き来したい欲は、依然として手放せそうにありません。。)
そして、それは個人レベルの問題だけではなく、抗議行動があったMoMAにおいても、現在もクラビス氏は理事長を務められていますし、2024年度のMoMAの運営を支援するパトロンとして、ご夫妻のお名前を見つけることができます。
芸術の美しい側面だけを享受し、見続けてきましたが、芸術経済の中心地 ニューヨークでは、不可分の関係にあるその闇についても、目を背けることができません。
それでは、また~♪♪