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本場アメリカのCSA(地域支援型農業)を解説してみる
私は去年の夏に2週間、CSAが盛んに行われているアメリカ東海岸の有機農場で農業研修を行なった。その経験から、CSAについて解説してみようと思う。
CSAの3つの特徴
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CSA、Community Supported Agricultureとは、消費者と生産者が互いに支え合い、農業のリスクと恩恵を共有することで、持続可能な農業と地域社会の発展を目指す農業経営モデルを指す。
①農業生産のリスクを農家と消費者が共有する
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農業は、天候や病気に影響を受けやすく、生産量がどうしても安定しない。市場価格は収穫量によって大きく変動し、農家の経営を難しくする要因となっている。そんな不安定なビジネスにも関わらず、農機具や種子など、初期投資で必要な資金は大きい。
では、農家と消費者が共に出資者となってリスクを共有すれば、農業経営はもっと安定するのではないか。そんな発想から生まれたのが、CSAの特徴である、事前支払いシステムだ。消費者は1シーズンの野菜料金をまとめて前払いする。毎週分配される野菜の量は豊作の時は多くなり、凶作の時は減少する。
このシステムによって、消費者は旬の野菜を低価格で受け取ることができ、生産者は計画的に作付けをし売れ残りなく消費者に届けることができる。両者にとってメリットのあるシステムなのである。
②ピックアップ方式の直接販売を行う
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CSAはもちろん市場を通さない直売方式を取る。その中でも、農場に毎週決まった日時にCSAメンバーが農産物を取りに来るピックアップ方式が主流となっている。直売によって、農産物価格に占める農家の取り分の割合を増やすことができる。また、直売は配送料がかさむため、農産物の価格が同じでも結果的に高価になってしまうことが多いが、ピックアップ方式では配送料がかからない。
もちろんピックアップ方式を採用していないCSAもたくさんある。だけど、私はピックアップ方式がコミュニティとしてのCSAを形成するためのキーポイントだと思う。
日常的に農家と消費者の交流が行われる
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CSAの理念的な大きな特徴は、生産者と消費者がそれぞれの立場を超えて、農業を運営する点だ。消費者はただ野菜を買いに来るだけでなく、ピックアップの際に農家と雑談し、作物の出来やおすすめの料理法を共有しあう。CSAメンバー同士の交流も生まれる。畑の片付けや収穫など農作業の繁忙期には農場に来てボランティアを行うこともある。
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私が農業研修をした農場では、Spring CSA, Summer CSA, Fall CSAの3シーズンのプログラムを用意している。その中でも野菜の種類が一番多い 、Summer CSAに入る人がやはり多い。Summer CSAの典型的な受け取り野菜は、10種類程度の野菜が紙袋2個分になるくらいである。メンバーは毎週金曜日に、農家によって紙袋に詰められた野菜を受け取りに農場を訪れ、同時に野菜を売っている直売所でも自分のほしい野菜を追加で買っていく。
金曜日の農場は、午前中は野菜を準備しながらおしゃべりする農家達の声で、そして午後は野菜をとりに来たCSAのメンバーで賑やかだ。CSAメンバーはただ野菜をとりに来るだけでなく、農家と野菜の出来について歓談し、他のメンバーとも近況報告とレシピの交換で盛り上がり、ついでに畑の様子も見ていく。
この農場の運営はCSAが前提としてあるからこそ成立しているものが多い。市場が求めるような食痕ひとつない“ぴかぴかの野菜”を大量に生産することは、農地生態系の安定性に配慮した有機農業では無理で、農薬などを多用した管理か、自然と隔離した栽培をしない限り不可能に近い 。CSAのメンバーは有機農業を理解して加入した人たちのため、少々野菜の形や色が悪くても、味が美味しければ問題なく消費者に届けることができる。農場のリンゴには黒い斑点があるが、「硫黄を散布すれば斑点はなくなるけれど、誰も気にしないし、散布するのは嫌いだからしない」と農家の方は話す。一方で、病気に強い品種などの新しい野菜を、売れ行きの心配をすることなく育てられるのもCSAの強みである。
この農場では、加入するときのチェックリストに、「馴染みのない野菜や得意でない野菜にも挑戦することを歓迎しますか?」と言う質問がある。ただ自分が食べたい野菜を買うのではなく、野菜を育てる困難も共有し、農家のことも考えて野菜を買う。そんな姿勢がCSAメンバーにはあるのだ。また、CSAメンバーはただ前借金を払い、野菜を受け取りに来るだけでなく、土に積極的に触れることを推奨されている。CSAのシェアには、花とハーブもあり、CSAメンバーは上限を守りながら、フラワーガーデンとハーブ園で自ら、自分の好みのものを収穫し持ち帰ることができる。また希望者は農作業にも参加でき、筆者の滞在中も1週間に一回の頻度で農作業をしに来ているメンバーが数人いた。
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CSAで作り出されるコミュニティはただ単に、CSAメンバーとの農産物を介したやりとりにとどまらない。農場の納屋と直売所の横には、きれいに手入れされた芝生のスペースがある。そこが、ある意味その地域の広場のような場所になり、自然と人が農場に集まるのだ。たとえば、1週間が終わる金曜日の夕方は、農家達がビールを持ち出しキャンプファイヤーが始まる。農場の外からもポツポツと人が集まり、農家と一緒になって火を囲む。その木々とフラワーガーデンに囲まれた広場は、農場の虫を目当てに集まる鳥が飛び交い、結婚式も行われるほど、絵になる場所である。きれいな自然が人を惹きつけ、栄養たっぷりの野菜が胃袋をつかみ、有機農業がコミュニティを作る。
土に支えられ、土を支える人間と自然のコミュニティなのだと思う。
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