6年生の卒試の現実
6年生になると、卒試が始まります。
わたしの場合、卒試は1年を通して計4回あり、基準を満たしたものに卒業資格と国家試験の受験資格が与えられるというものでした。
卒試には再試験があり、再試に合格すると、たとえ本試で不合格でも卒業資格と国試の受験資格が与えられますが、不合格の場合、留年となるか追加卒業(卒業資格は与えられるが、国試の受験資格は与えられない)となります。
卒試と国試の合格可能性の関係
国公立大学では卒試が形式的なもので、ほとんどの人が卒業できるといいます。
一方、私立大学では卒試は選抜試験と化しています。成績下位層、もしくは半分より下を留年もしくは追加卒業になるように、卒試の合格基準の設定をします。
成績上位もしくは平均より上の学生だけに国試を受けさせて、一定の国試合格率を担保しようとしているのです。
では、卒試に落ちてしまう私立大学の成績下位層、もしくは半分より下の層の全員が国試に現役合格できないと言えるのでしょうか。
答えは否、です。
なぜなら、卒試の問題(科目による)には、国家試験レベルをはるかに超える難易度、もしくは国家試験の頻出範囲、傾向を大幅に無視した問題が数多く出題されるからです。
また、知識本位の作問がされる傾向にあり、思考に重点を置いていない。
国試本番で出もしない詳しすぎる知識を試す。
思考問題でも、作問者の思考過程が国試で求められる思考過程と異なることがよくあり(十分にブラッシュアップされる環境が整っていない)、国試を解けても卒試の思考回路に順応できないと正答できない。
もちろん、大学、科目により、国試に沿った出題をするか、大幅に逸れるかはまちまちです。
国試に受かる実力を持った学生の何割かは卒試に受かる実力を持っている。
そして、残り数割の学生は国試に受かる実力を持っていながら卒試はパスできない、という現象が起きます。
それとは別に、そもそも国試に受かる実力を持っていない学生もいますが、ほとんどの場合は卒試の早い段階で不合格者に含まれるでしょう。
ではどうやって卒試に合格するかは後ほど書くとして、卒試に対する心構えをお話ししていきます。
まず、卒試が難しいからと言って、国試に受からないのではないかと悲観しないこと。上記の理由で、卒試は出題者の思考回路に順応できた人、卒試に求められる過多な知識量を暗記できる人に有利に作られています。
国家試験合格に求められるのは、スーパー暗記マンになることや、完全無欠の超成績優秀者になることではありません。
日常診療で遭遇することを、6年生相当の最小の知識量で、真っ当な思考回路で、診断、治療できる姿勢です。
そして、歯科医師になるにあたっての必要最低限の常識を持つこと(例えば、この神経を損傷するとこういうことが起きる、急性時の痛い時に痛い治療は避けるなど)です。
学内順位だけで、国試合格の実力がないと思わないでください。
単に、卒試は学校を卒業するためのものです。
さて、卒試の内情を少しお話ししたところで、卒試がどう進んでいくか、お話しします。
卒業資格と国試受験資格
私の大学では、卒試A、卒試Bがあり、
卒試Aは数回行われ、累計の得点率(必修、一般、臨実)が一定以上を卒試A合格とし、国試の「出願資格」wが得られます。
ここで再試も不合格の場合留年が確定します。
本試が夏頃、再試の合否発表が10月ごろで、ハロウィンが来る前には第一段階の脱落者(留年組)が決まります。
卒試Bは一回だけでその一回の得点率(必修、一般、臨実)が一定以上を卒試B合格とし、国試の受験資格と卒業資格が得られます。
本試は11月初め(卒試Aから約1ヶ月)、再試は12月中旬でした。
卒試Aに合格したが卒試Bの本試、再試に不合格の場合、国試の受験資格は与えられず、国試後に大学が実施する追加卒業試験を受験することになります。
1年間の周りの雰囲気の変遷
4月〜無事6年生に進級したこと、病院実習のない解放感、国試に合格するぞというやる気が教室中(のほとんど、一角には多留している6年生のグループがおり、元気はない)にみなぎる。
成績優秀者に急にお友達(?)が増える。
講義の休み時間には友達(?)同士で、疑問点の討論、勉強の進み具合のマウンティングが繰り広げられる中、賢い人はたくさんの新しい友達(?)から逃げるため、仲のいい友達と散歩に出かけたりする。
放課後は自習室に通う者、賢いお友達(?)を囲んでグループ学習をする集団、旧来の友とグループ学習をする集団、さっさと帰る者に大体分かれる。
〜夏前
卒試が始まる。春頃には多かったグループ学習者も微減。
グループ学習でお友達(?)の指導を行っていた賢いお友達も離脱する者が現れ始める。卒試の国試との水準の差に気づき、賑やかだった教室内も心なしかトーンダウン。でもまだみんな元気。
多留の6年生のグループは8割方出席せず。中には働きに出ている人もいるらしい。出席している6年生も、何人かは途中退出。
朝テストの必修(学内オリジナル問題)が8割を毎回超えないことに若干不安なものの、周りの楽観的な雰囲気もあり、気にしない。
マッチング用の病院見学に行き始める。卒試、病院見学、授業の復習、卒試対策、国試対策で体力的にはややきついがメンタルは元気。
自習室を使う人は自分の机を教科書、ポストイットなどで思い思いにデコレーションし始める。
みんな、まだまだ大丈夫と思っている。
夏すぎ〜
夏が終わって若干焦り始める。
マッチング登録、卒試Aの3回目(最後)、des模試が始まる。
土日は病院の採用試験を受けることも。
過労で教室は年相応の落ち着いた雰囲気に。
卒試Aがなんとなく受かりそうな人には表情の余裕が見られる。(そんなに元気はない)
本試の発表があり不合格者が出るも、絶望的な雰囲気は薄い。また頑張ろうね!という感じ。
9月ごろに卒試Aの再試があり、留年組(仮)が生まれる。
いわゆる留年のメンバーの一部はこの段階で仮決定する。
卒試Bに合格すれば出願できるが、卒試BはAと難易度が桁違いであるため、なかなか大変である。
まだ学年の多数は卒試Bの正式な受験資格があり、卒業、国試合格する道があるので、どんよりとはしていないが、どことなく留年組に同情する空気が漂う。
秋〜冬
慢性的な疲労、卒試Bの対策(国試範囲を逸脱)、国試が近づくことへの底知れぬ不安。休み時間に開催される討論グループは1、2組まで減少。
体力温存のため、休み時間がきても着席率アップ。
卒試Bの本試終了。
卒試A,Bの不合格者は留年となるため、本試後は留年者の落ち込み様が伝わってきて、物哀しい雰囲気に。
卒試Aを合格、卒試Bを受けたものの半分は不合格。
ほとんどは領域別での不合格で、必修落ちは少数だった。
かくいう私も、常に86%台だった必修で一問足りず卒試Bでまさかの本試不合格。領域は上位で合格。
成績はわりと上位だったため、なんで自分がという絶望で毎日泣きながら、心身限界まで勉強し、不眠症が始まる。
予備校の出張授業も始まる。これは今年国試を受験することを前提に話が進んでいくので、受けられないと確定した人にとっては精神的になかなかキツいものがあるだろう。
ここで、卒試Bの合格者は国試受験が決まるので、喜びを抑えられず教室で、研修先の話や国試対策の紹介、国試の会場までどうやっていくか、ホテルどこにするかなど、遠足が決まった子供のようにはしゃぎ始める。
私は教室で、自分もするはずだったその話が聞こえてくるのが精神的に苦痛だったので、イヤホンでガンガンの音楽を流しながらひたすら勉強していた。
冬〜
卒試B再試験の結果発表。再試験の合格基準は本試験と大幅に異なり、必修8割以外は領域別(総論、各論)の偏差値が基準値以上を合格とするとあった。
合格偏差値は受験するまで非公表であり、発表されたものも、明らかに合格者を絞る意図を感じられるくらい高いものであった。私の領域別はどちらも8割を超える得点率でいて、各論が基準偏差値より少し上だった。それでも、ギリギリ合格した。卒試が国試より難易度が高いオリジナル問題が多く出題されることを考えると、明らかにやりすぎである。
本試合格者でも、再試不合格になったものは多くいた。
卒試Bの本試験の合格基準は必修8割、一般、臨実で73%だったこと、再試で85%くらいとった私がギリギリだったことを考えると、必修ならまだしも、本試から再試の間、1ヶ月の間に10点以上、ましてもともと65%くらいで落ちた学生に至っては20点弱も引き上げないといけないとなると、かなり非現実的な話である。
卒試B本試験不合格者のうち、再試で合格したのは9%くらいだったと思う。
当日、頑張ろうねと言ってくれたそこそこ仲の良かった前の席の子は落ちた、というより、あの再試教室にいたほとんどは落ちた。
不合格者の数は年によって微妙に違うのに、再試の合格率は微減傾向にあったことから、なるべく本試に受かった学生だけを受けさせたい意図が伝わってくる。
直前期〜
国試組(半分弱)と、追加卒業に備えて勉強する者、無気力になる者、来なくなる者など、
私も国試組に復帰して、卒試の勉強から解放されたことで国試の勉強一本に絞れるはずだったが、再試の勉強中(1ヶ月間)一切の国試勉強を中断し、卒試対策に専念していたため国試の傾向の肌感覚、勉強の仕方の感覚を失っていた。
暗記重視の卒試の悪影響で、やることなすこと全てを頭に叩き込もうとする悪い癖がついてしまい、修正するのに三週間くらいはかかったと思う。
このとき、過去問やdesの出張講義での難易度をよく見て、ここまでの知識だけで考えるにはどうしたら良いかをひたすら意識した。
この頃には教室はかなり静かで、笑い声もそんなになく、半分くらいの人は休み時間に机に突っ伏していたと思う。
冬休みに入ると、学校まで遠かったのと、体力温存のため自宅学習していた。
国試前〜
1月に入ると、ちょくちょくdesの直前対策講座が学校に来てくれて、受講した。
国試を受けれない子はそもそもこの講座をとっていないことが多く(申込みが卒試Bの再試の前だった)、またとっていても気まずくて来なかった子もいたのかも知れない。
なので、教室はほぼ国試受験組だけで、わりと和やかな雰囲気だった。
卒業することの大変さを実感した身としては、この場所にいること自体幸せであり、前向きだったがやはり国試の感覚を取り戻すのに苦戦して、よし、行くぞと思えたのは国試の3日前くらいだった。
ホテルの予約、下見(要らなかった)、タクシーの手配、往復便の予約、当日の持ち物リストなど、勉強以外にやることも多く、再試のあとで過労と達成感で燃え尽き症候群になっていたところに脱線する材料が重なり、なかなか身は入ってなかったと思う。
以上が卒試の1年間の流れでした。新6年生の方には恐怖を与えてしまったかもしれませんが、これが現実でした。
もう二度とあの苦しみは味わいたくありません。
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