目の前の景色はあっという間にがらりと変わったけれど
と、灰色の空を見上げながら思った寒い雨が降った3月の2日目。
あっという間に月日は流れ、毎年であれば3センチぐらい浮いてもおかしくないぐらいに浮足立つ季節。ああ、ようやく春が来る、と。
それが、今年は少し違う。
年明けからあっという間に世間が自粛ムードに包まれて、少しずつ息苦しさを感じている。
どこかで気分転換を……と調べても調べても「3月1日から休業します」の文字が並ぶ。今はしょうがない。そう言い聞かせる。やるべきこともたくさんあるし、整えるべき時期だから、と。
それでも。
ゆっくり呼吸がしたい、そう思って頭に浮かんだのは沖縄の海だった。
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那覇から2時間ちょっと、「タピックスタジアム」が出来上がって盛り上がっていた大都会名護よりまだ向こう。観光地にはほど遠い。
何にもない、しかないところ。海と空以外は。
宿を出て15秒。あだんのトンネルを抜けて、白い砂浜を抜けると目の前に海が広がる。
夏に来たときよりも、どこか優しい色をしていて、柔らかくて。「おかえり」って言ってくれている気がする、うっかりすると泣いてしまいそうになる、そんな不思議な場所。
海が目の前にある生活をすると、見慣れて、見飽きてしまうんだろうか、といつも思う。だって、隙あれば海を見に行っていたから。毎朝大好きな景色が広がっていて幸せだったから。
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東京よりも夜明けが遅くて、よく眠った……と思う7時頃ににわとりが鳴きはじめて、どこかで犬がはしゃいでいる声がする。朝日が顔を出す前、空が白み始める。雨上がりの空にオレンジと、ピンクと、少し紫がかった雲と。刻一刻と様子が変わっていく。
風がふわっと吹いて、雲が切れる。隙間から虹が見える。どんどん雲が流れていくと、大きくて、向こうに見える水平線に虹の始まり。それから、少し時間を置いてもう1つ、もう一回り大きな虹がうっすらと。
うまくできすぎた時間を、ただただ眺めていた。前日に会った人がぴんとした耳の犬を連れて言葉を交わしているうちに、ゆっくりと消えていく。
その頃にはすっかり水色と白の世界に変わっていった。
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幻想的な虹も、満点の星空も、フクギの下で寝ている猫も、鮮やかに咲き誇っていた桜も、もちろん記憶をたどりながらくしゃくしゃの笑顔でむかえてくれるおばあも。
世界って優しい、思っている以上に。
そんな使い古された様な言葉を心の底から言いたくなるぐらいには、私はずっと穏やかな気持ちでいた。
だからこそ、この世界をもっと身近にしたい。
例え日常にならなくても、大切な場所のままでもね。もっと近くにする方法はきっとあると信じたいし、そういう場所を増やせたら。
自分をふわりとさせたり、フラットに戻せたり、一息つけたりするような。
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久しぶりに訪れた美ら海水族館でテンションが上がって、調べたすみだ水族館はやっぱり3月前半は休館。
まあ、でもね。
今のうちに行きたいところややりたいことをためておくタイミングなんだ。きっと。
2月の旅行で、ときめきとため息が止まらなかった「Fくん」の話はまたいつか。
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