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ものづくりの真髄は「現場」にあり

鮨職人のこだわりは、店の隅々にまで息づいています。その象徴ともいえるのが、ネタを並べる「冷蔵ケース」。今夜訪れた鮨屋では、カウンターに座った瞬間、目に飛び込んできたのは、見事に磨き上げられた冷蔵ケースでした。開業10年を超えるとは到底思えないその輝きは、毎晩一点の曇りも許さず丹念に手入れを続けている証です。

冷蔵ケースという透明な舞台装置は、鮨職人の美学を余すところなく映し出し、並ぶネタの鮮度以上の魅力を伝えています。なかでも目を引いたのは「あおりいかの耳」。薄く透き通るその姿は、鮮度と技が織りなす一瞬の輝きを感じさせます。冷蔵ケースを磨き上げる職人の手が、この鮨ダネの完成度を支えているのだと思わずにはいられません。

そんな繊細な「あおりいかの耳」に合わせたのが、「ミシェル・レィビエ ブリュット・プルミエクリュ」という特別なシャンパーニュ。このシャンパーニュは、多くのノンヴィンテージがステンレスタンクで熟成されるなか、大樽熟成という昔ながらの手法を貫いています。4年使用の大樽でゆっくりと微量の空気と触れながら熟成させた2010年ヴィンテージのベースワインは、NVシャンパーニュには珍しい複雑さと深いコクを持ち、ひときわ長い余韻を生み出しています。

熟成感のあるアーモンドやバニラの香り、そして滑らかな口当たり。熟成がもたらす奥行きある味わいは、大樽の選択から熟成時間の徹底、デゴルジュマンに至るまで、細やかな工程によって実現されています。それはまさに、ものづくりにおける「現場」力の結晶といえるでしょう。

「あおりいかの耳」の繊細な旨味と、このシャンパーニュの豊かな風味が調和した瞬間、鮨とシャンパーニュの可能性の広がりを強く感じます。冷蔵ケースの輝きが鮨職人の姿勢を映し出すように、大樽熟成を選び続ける醸造家の哲学もまた、そのワインの味わいに投影されています。

ものづくりの真髄は、現場にあらわれるといいます。清掃が行き届き、清潔に保たれた現場からこそ、良品が生まれるということでしょう。冷蔵ケースや大樽のような〝ハコモノ〟を通して職人たちが示すのは、道具や環境に対する細やかな心配り。それこそが、美しい一皿と輝く一杯という形でわたしたちに届けられ、特別なひとときを生み出しているのです。

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