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ビールとは異なるシャンパーニュの“一番搾り”という概念
一般に「一番搾り」と聞けば、ビールを思い浮かべる人も多いでしょう。ビールの一番搾りは、麦芽から最初に流れ出る雑味のない麦汁だけを使用し、澄んだ味わいと豊かな香りを引き出す手法。しかし、シャンパーニュの一番搾りは、単なる雑味の排除ではなく、ぶどうが持つもっとも純粋なエッセンスを引き出すことに主眼を置いています。これは、単なる飲み心地のよさではなく、ワインの真髄に迫る選択といえるでしょう。
今夜は、ドゥ ヴノージュのプランス エクストラ ブリュットを抜栓し、鮨とシャンパーニュをあわせる〝鮨シャン〟を楽しんでいます。エクストラ・ブリュットの持つ切れのある酸とミネラル感が、白身魚の繊細な旨みを引き立て、余韻に澄んだ清涼感を残します。
シャンパーニュ「ドゥ・ヴノージュ」。法律では、二番絞りの果汁までシャンパーニュに使用可能とされていますが、この生産者は一番絞り(テート・ド・キュヴェ)のみを使用します。ぶどう本来の旨みが詰まった、もっともピュアな一番搾りは、雑味がなく、高品質。その透明感のある味わいは、余計なものを削ぎ落とし、本質を際立たせる鮨と響き合います。
これは、鮨におけるヒラメやタイのような白身魚にも通じます。白身魚の握りは、過度な味付けや余計な要素を加えず、魚の持つ繊細な旨みと質感をそのまま楽しむもの。たとえば、ヒラメは熟成させることで余計な水分が抜け、旨みが凝縮される。この工程は、まさに“引き算”の美学。シャンパーニュの一番搾りも同じく、余計なものを取り除き、ぶどうの本質を研ぎ澄ますことで、その純粋なエネルギーを表現しているのです。
ヒラメやタイの握りを口に運び、すぐにプランス エクストラ ブリュットをひと口。シャープな泡とともに、魚の甘みがふわりと広がる。シャンパーニュのミネラルが、白身の淡い旨みをよりクリアにし、消えていく。
“足し算”ではなく“引き算”の美学。濃厚な味わいを求めるのではなく、最小限の要素のなかで最大の表現を生み出す。これは、シャンパーニュにも、鮨にも共通する哲学ではないでしょうか。
一番搾りのように、余計なものを削ぎ落とし、ほんとうに必要なものだけを味わう。その贅沢に、今夜も静かに浸っています。
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