たすけてくれてありがとう
これまでの人生、色々な人たちに助けられて生きて来ました。
人生って辛い事や苦しい事、悲しい事、突発的な恐ろしい事件等が起きますが、そんな時、救いの手を差し伸べられる事程有り難く、心丈夫な事はありません。
今から凡そ40年くらい昔の事です。
10代の少女だった頃、私はブラジルへ引っ越す事となりました。
治安の悪い国ではありましたが、若かった私は現地にすぐに溶け込み、友達もでき、楽しく過ごしておりました。
私は父と二人暮らしでした。
父は出張が多く、その夜も父はブラジリアに出張だったので、いつもは私一人で留守番するか、友人宅(か、父に内緒で恋人宅)に泊まっていたのですが、お手伝いさんのジョアンナが、
「今回の出張は一週間以上だし、町はカーニバル騒ぎで浮かれていて何だかとても心配だからマリアと一緒にいてあげるわ。」
と言って、父の不在中、泊まってくださいました。
父不在の3日目の深夜、私はジョアンナとポップコーンを食べながら、MTVを観ていました。
すると夜中の2時頃、裏口にガチャガチャ、と音が聞こえ、人が入ってくる気配を感じました。
私は振り向こうとしましたら、ジョアンナが
「強盗よ!後ろを見ないで!」
と、私に小声で話しました。
私は怖くなり体が震え、泣きそうになりました。
「奴らは取るものだけ取れば去って行く。絶対奴らの顔を見ちゃダメ。奴らの言う通りにするの、いい?」
ジョアンナは至って冷静です。さすがブラジル人、肝が据わっています。
私はもう半べそかいています。
私は固まったままソファーに座っていると、強盗たちが寄って来て、私やジョアンナに目隠しをしたり手を縛りながら
「何も見ない、声を出さない、静かにしていれば命は助けてやる」
そう言いました。
数人の人の気配がしました。男性の声がします。ガタガタと色々な音がします。
とても長い時間に感じました。
体の震えが止まらず、心臓は破裂しそうなくらいドキドキし、過呼吸を起こしそうになりました。
仕事を終えたのか、男の一人が
「俺らが消えて1時間はそのまま動くな!いいな!」
と、言って、立ち去った様子、静かになりました。
私たちは言う通りにしました。
もしかすると、見張りの男がまだ潜んでいて、私が動いたり騒いだりすると、殺されるかもしれません。
トイレに行きたい、吐きそう、苦しい、心臓が破裂しそう、怖い、助けて!
だけど隣のジョアンナは、私にそっと優しく寄り添ってくれました。どれだけ心強かった事でしょう。
男たちが消えて1時間程して、物音もしなくなってから、ジョアンナは縛られたままでキッチンへ行くと、ナイフかカッターで縄を解き、警察に連絡をしてくださいました。
私の目隠しや縄も解き、
「マリア、大丈夫?怖かったわね、びっくりしたわよね、でももう大丈夫よ、ただ、このマンションは引っ越した方が良さそうね。ポルテイロ(門番)は夜勤もある筈なのに、一体何をしていたのか。もっとセキュリティの良いしっかりした所に越した方がいいわ。」
と言うジョアンナに私は抱きつき、怖くてオイオイ泣きました。
家の中はお金になり持ち運べるものは全て消えていました。当時家電、テレビはとても高価で、日本円で70〜80万円はしましたし、日本人の家とわかれば、良いものが沢山あると思われたのでしょう。
父の部屋のゴルフ道具や当時の現金、クルゼイロをドルに変えたお金、私の部屋もバッグや化粧品、貴金属、クローゼットの洋服まで消えてしまっていました。
連絡を受けた父はすぐに帰宅し、事情を聞いて真っ青になり、よりセキュリティ万全なマンションへ直ちに引っ越しました。ブラジルは治安が悪いので、セキュリティ万全なマンションに住む方が一般的で、一戸建てはどれだけ塀を高くしてセキュリティを整えても強盗に狙われるとのこと、強盗事件がトラウマとなり、未だに安全な日本でも、セキュリティのしっかりしたマンションでなければ住めなくなりました。
あの時、ジョアンナが付いていてくれなければ、私はきっと一人で大騒ぎして殺されていたでしょう。
ジョアンナ、私の命を助けてくれてありがとう。
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