第2話 嫉妬の念
・・・嫉妬という字は、何故、女偏なのでしょうか・・・。
女偏に矢を放ち、石を投げるという・・・ 恐ろしい字ですよね。
好きも嫌いも女偏。
女はそれほど感情に左右されやすい性なのでしょうか・・・
・・・これからお話する不思議体験は、若かりし頃、彼氏と初めて温泉旅行に出かけた時の出来事です。
有名な老舗旅館の部屋が取れたから出かけようよと誘われたのですが、どうしても、古い温泉宿=霊と連想してしまう私は、何となく気がすすみませんでした。
「・・・そっか・・・、そうだよな、まだ泊まるのは早いか・・・」
と、浮かない顔つきの私を察し、
「・・・じゃあ・・・残念だけど、また今度ってことで宿はキャンセルするか」
という彼氏に
「違うのよ、そういうんじゃなくて・・・ 古い旅館が苦手なのよ、ほら、その・・・ 霊とか・・・」
という私に彼はホッとしたのか大笑いしつつ、
「アハハ、お化けが怖いだなんて、カワイイところもあるんだな! でも、それって俺と泊まりたくない口実じゃないよね?」
と、確認され、まだその頃彼は私の霊感について何も知りませんでしたから、その時簡単に説明しました。
「大丈夫! お化けが来たら俺がしっかり守ってあげるから!」
ということで、思い切って温泉旅行へ出かけることになりました。
お部屋は明るくて風情のある、しっとりとした和室でした。 到着したのは午後4時を過ぎた頃で、外はまだ明るく、霊が出る気配など微塵も感じられず、とりあえずはホッとしました。
「さすが老舗旅館って感じだなあ! 品が良くて、それにやっぱ畳が落ち着くな! 眺めも良いし、こう明るきゃお化けだって出たくても出てこれないだろ。(笑)・・・さ・て・と、ひとっ風呂浴びてくるか! マリも風呂入ってこいよ。この時間ならまだ空いてるぞ。」
と、彼はお部屋に到着して早々に、男湯へ行ってしまいました。
・・・なによぉ・・・ 俺がしっかり守ってあげるなんて言っておいて、さっさといなくなっちゃってさ・・・と、口を尖らしひとりグチグチ文句を言いながら、私も温泉へ向かう準備をしました。
化粧水やクリームなどをポーチから取り出していると、突然、窓から強い突風が吹き込んできて、テーブルの上に置いてあった新聞が飛び、私の背中に当たりました。
それは妙に生ぬるい、湿った風で、何か、生ゴミのような腐った臭いが漂っていました。
気持ち悪いなぁ・・・ と思い、私は窓を閉めに立とうとしたのでが・・・ 何故か立てないのです!
立てないどころか、金縛りに遭ったように身動きがとれず、手も足も、指一本動かせなくなってしまったのです!!
そのうち、部屋中に重苦しい空気が漂い始め、その時、私はあの世と交信してしまっている自分にハッと気づいたのです。
・・・なによぉ・・・俺がしっかり守ってあげるなんて言ったくせに・・・いざという時頼りにならないんだからぁ・・・(涙) と、心の中で彼氏に怒りをぶつけていましたら、背中に何か、冷たい気配を感じたのです。
それは軽くて、ひんやり冷たい手の感触でした・・・・
その手は、背中から私の左肩へとゆっくり這い上がり、今度は右肩にもう片方の手が寄りかかり、背後にいる何者かは私の背にズッシリと圧し掛かってきたのです。
・・・お、重い! ・・・ってか誰? どうしよう・・・ どうすればいいの??? すっごく嫌な怨念を感じる・・・
何とか無理矢理振り払おうとするのですが、体は全く自由を奪われ、如何することもできません。
そのうち、頭がまるで締め付けられるようにグワングワンと痛み出し、それと共に背後に寄り掛かる女の低い呻き声が私の耳元でささやき始めたのです・・・・
「・・・ あのひとは・・・ アナタになんて ・・・ わたさないわ ・・・」
それは、何か嫉妬の念のような・・・ 何ともいえない、鬼気迫る苦しく哀しい叫びに聞こえました。
・・・あの人? って、誰? アタシの彼氏のことかい?? ・・・あの〜、何か勘違いしていらっしゃるみたいだけど・・・
もし彼のことだとしたらアタシもアナタには渡せないや。頼りない男だけど、あれで結構、思いやりがあってイイ奴だったりするし・・・ああ、魔除けグッズはバッグの中なんだよなあ・・・レーザークリスタルだけでも首にぶら下げときゃ良かった(涙)
・・・と、心の中でぶつぶつ呟きながら、兎に角、重苦しく圧し掛かってくる女を何とかしようとしていましたら、
「失礼しま〜す。」
と、仲居さんが来てくださいました。 助かった!と思った瞬間、身動きがとれなかった身体は一瞬にして自由になり、空気は一変し、軽くなりました。
お願いしてあったお水と氷を持ってきて下さった仲居さんに、不思議体験の話をチラッとしましたら、
「霊?大丈夫ですよ。(笑) きっと気のせいでしょう。この部屋で自殺などは聞いたことがありませんし・・・ ただ・・・ 」
と、そこで仲居さんの口調が少し変わり、
「・・・ただね、この旅館のすぐご近所に住むまだお若いお嬢さんが、つい最近亡くなったそうなんです。そう、この部屋のすぐ下あたりのお家。原因はわかりませんけどね・・・ 」
そう言いながら、仲居さんは突風が吹き込んで来た窓の外へ目をやりました。
「・・・それではごゆっくりどうぞ・・・ 」
という言葉を残し、去っていく仲居さんの背後に、青白い表情で不気味に微笑む女の影がチラッと一瞬見えたのは、気のせいだったのでしょうか・・・・?
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