恩師の形見
今年の1月末、私は悲しみに暮れておりました。
私の大好きな大好きな、恩師の高部紅佑先生が逝去されました。
昨年11月、恩師の高井紅鳳先生が逝去され、すぐの事でした。
私は二人の敬愛する恩師を立て続けに喪くしました。
その頃、こんな記事を書いていました。
私が易の勉強を始めたのは随分昔、20代の頃でした。
易との出会いは高井紅鳳先生とご縁を頂いた時から始まります。その後、高井紅鳳先生から紹介され、高部紅佑先生のお教室に通い始めました。
お教室の生徒さん達は、ご年配の方ばかりで、若い方が一人いましたが、お教室の生徒さん達は、途中から入って来た私に、本当にこの子、勉強する気あるの?というような、訝しい目を向けておりました。ド派手な格好に濃いメイク、毒々しい色のネイル、ピンヒール、生意気な態度、何処を如何見ても、易経を真面目に勉強するような風貌ではなかったと思います。ですがそんな私を見た高部先生は、
「あなたには何かを感じる。ちゃんと教えなければならないわ。」
と、仰いました。周囲は高部先生のそのお言葉にドン引きしました。
初日のお教室は珍紛漢紛。易なんて全く知らなかったですし、しかも途中から入りましたので、先生が仰る事も、生徒さんが仰る事も、全くわかりません。
同業の占い師さんから嫌われるのは慣れてましたから、お教室の方から嫌われるのも慣れていましたし、好かれようとも思いませんでした。お教室は午前の部と午後の部があり、午前中は気学や算命学、姓名判断等のお勉強、午後は易のお勉強という流れでした。
お昼を挟むので生徒さん達は、高部先生を囲みランチを、という事になるのですが、私は一人、喫茶店で時間を潰していました。
午後の易の勉強が終わった後も、高部先生を囲みお茶の時間があったのですが、私はさっさと家に帰りました。何とも愛想のない、可愛げのない新米でした。生徒さん達から嫌われて当然です。
ですが高部先生からは不思議ととても可愛がられました。お教室に入ってすぐの事、高部先生からお電話を頂き、
「私はあなたを初めて見た時、何故かわからないけどあなたには易をしっかり教えなければならない、何かそんな使命を感じたの。途中から入って来たから易の事なんて何もわからなくて当然。これから個人的に電話であなたにしっかり教えますから。」
と、高部先生から電話で『易占の神秘』という本をみっちり教えて頂きました。
その事が、運命術学会で問題視されるようになり(高部先生が私を依怙贔屓している、と)ですが有り難い事に、問題視される頃には私は十分、高部先生から『易占の神秘』を叩き込まれておりましたし、後に『易学大講座』も教わりました。
「きっと何かのお導きが私にそうさせたのだと思うわ。あなたは易の世界できっと大成する。そう思って教えたの。」
「こんな私がですか?(笑)先生、買い被り過ぎです。私、人生なんてどーでもいいって思ってる駄目人間ですよ。紅鳳先生から情報入ってると思いますが・・・ 何の志もなくただ生きてるだけで。今夜もこれからパーッと酒飲んで朝まで踊って馬鹿騒ぎしようと思ってるんです(笑)」
と、笑いましたら
「あなたはまだお若い。これからの人。そして大きく変わって行く人。今は投げやりな人生かもしれません。派手な格好だって何だって、易ができればいいじゃない。あなたには素質がある。今は信じられないかもしれないけど、将来必ず愛に満ちた素敵な大人に成長して、あなたを必要とする人が沢山集まって来る。私を信じなさい。」
「この私が?!愛に満ちた?! ないわーーー!(笑)」
と大笑いしながらも、易の勉強を続ける事となりました。
不思議と易経は私に合っているのか面白く、自分の人生に擦り合わせながら読んで行くと、これって下手な小説より全然面白いじゃん!と思えるようになり、友達と遊ぶ約束をしている時、渋谷で待ち合わせの際易経を読んでいたら友達にドン引きされました。気づけば私は寝ても覚めても易経の虜となっていたのです。
月に一度の研究会でも、私には仲良しの生徒さんは一人もいませんでしたから、ポツンと一人で後ろの席に座っていると、必ず高部先生が私を呼び、先生の横に座っていました。
(⬇️27年前の研究会の様子。私の横には高部先生が。私、27歳でした。結婚して随分落ち着いた雰囲気になりました。)
私はわからない事があると遠慮なく高部先生に電話をし、質問していました。
「先生、あの、お教室で先生が、『易占の神秘』と一緒に必ず大事に持って来ていた2冊の謎の本って何ですか?是非教えて欲しいのですけど。」
と、訊ねると、先生は大喜びして
「そんな事訊ねられたのはあなたが初めてだわ!他の生徒さん達は易占の神秘だけ勉強して終わりだった。」
と言いながら、他の2冊の本も教えてくださり、私はすぐにその2冊を購入し、勉強しました。
いつの間にか私の本棚は易の本だらけになり、凡ゆる易の本を読みながら、高部先生に電話をし
「先生、色々な本を勉強してるんですけど、先生の一推し、これは絶対オススメ!って本、ありますか?」
と、訊ねましたら、先生はとても喜んで
「よく訊いてくれたわね!加藤大岳先生の『易法口訣』が、何と言っても私の大好きな本なのよ。ああ、また読みたくなって来たわ。星先生、一緒に勉強しましょうか?!」
と、誘ってくださり、私もとても嬉しくなりました。私は『易法口訣』を求め、毎晩先生と電話で勉強をしました。ベルギーへ引っ越す直前の事でした。
それが私にとって、高部先生から受けた最後の講義となりました。
その後も勿論、わからない事があればすぐに高部先生に電話をし、質問をしておりました。
高部先生もご高齢となり、ある日高部先生にお電話をすると
「星先生、私ももう90歳。あなたに教えることは全て教えたわ。もう寝てばかりで疲れちゃって、易経関連の本、全部処分してしまったの。立ち上がって本棚へ行くのも大変でね。」
と、仰るではありませんか!
「先生、なんて事を!? 私、まだ先生に教えて欲しい事沢山あります、なのにどうして本を全て処分しちゃったんですか!? 大胆過ぎますって!」
と言うと、
「大丈夫、私の頭の中に、まだ易経は入ってます。本は見なくてもわかります。本はね、家に訪ねて来る生徒さん達にあげたりして、なくなっちゃったのよ。私はもう十分易経を教えて来た。今度はあなたが教えて行く番よ。バトンタッチ。あなたはちょっと変わっていて、異端児だけど、それがまたあなたの魅力でもある。ほら、私が昔言っていた通り、人が沢山集まって来てるでしょう?日本国内だけじゃなく、外国からも。もう、あなたには私は必要ない筈ですよ。」
先生ももう90歳。長生きされているけど寝たきりなんだ・・・。いつまでも先生を頼ってはいられない、と、改めて思いました。
翌年、『星マリアのイーチンオラクルカード』が完成しました際、高部先生が一番喜んでくださいました。
「素晴らしいわ!あなたらしいカード。得意な語学も活かして、この、綺麗な臙脂色がまた、星先生らしい。初めて星先生とお会いした時に着ていたワンピースと爪の色。あなたらしさが詰まったカードね。あなたはもう、私を遥かに超えたわ。素晴らしいものを見せてもらった。皆に自慢しなきゃ。」
と、仰ってくださいました。
「いえ、そんな事ないです。まだ、このカードは納得の行かないところもあって、更に今、リニューアル版も考えているのです!其方も完成したら是非、先生にご覧頂きたいです!勿論小冊子にはまた先生のお名前も入れさせて頂きます!今度は日本語の他、英文、仏文でも!」
「まあ、そうなの?それはまた、楽しみにしてるわ。
あなたを育てて良かった・・・ あの時、私が初めて星先生を見た時の勘は外れていなかった。丸でひと目惚れのようだったわ(笑)可笑しいわね。」
そんな高部先生は、今年の1月に逝去されました。
沢山沢山泣きました。 親を亡くすより悲しかった。きっと、私は親を亡くしてもホッとするだけで涙など流さないと思います。ですが高部先生の死は私の中で受け入れ難く、2月は『易占の神秘』を抱きながら、ボーッとする日々が続きました。
漸く恩師の死を受け入れ、YouTubeでも易のオススメの本の中で、高部先生のお話もできるようになりました。
4日程前の事です。突然、高部先生の娘さんからメールが届きました。私は高部先生のご家族につきましてはよく存じませんし、娘さんがいらっしゃる事は存じてはおりましたが、面識はありません。
写真を拝見て吃驚しました。高部先生は、易の本を全て処分した、と、仰っておりましたが、写真の本は30年前、お教室で先生が使っていらした思い出の本『易占の神秘』と、私が後の2冊は何という本ですか、と、訊ねた本でした。本のカバーが懐かしく、お教室を思い出すと共に、先生が、最後まで処分できず手放さなかった貴重な思い出の本を、最後の最後に私へプレゼントしてくださるなんて・・・ もう、涙が溢れて止まりません。
私は高部先生の娘さんへすぐにメール返信をし、本を送って頂きました。
送って頂いた本には、私の名前、そして電話番号等が書かれてありました。
お教室で使っていた30年以上も昔の本ですから、ボロボロです。高部先生にとってはこの思い出深い本だけは手放せなかったのでしょう。しかもその思い出深い貴重な本を、最後の最後に私にプレゼントしてくださるなんて・・・胸がいっぱいでもう、幸せ過ぎて、嬉し涙が止まりません。
高部先生も私と同じように、卦毎に付箋を付けていらした事、私と同じくノートを取るのが苦手で本に直接書き込む癖があった事、本に高部先生が残された懐かしい文字がびっしりと書かれていて、とても嬉しく勉強になります。
もう一冊、先生がプライベートで勉強していらした『易占の神秘』も頂きました。
私にとって、大切な大切な宝物であり、高部先生の魂が込められた形見です。
こんな貴重な本を、私のような出来の悪い弟子が頂いてしまって良いものかとも思いましたが、これからも、易学界の異端児として傾きながら、私らしい易経を伝えて行けたなら、と、改めて思いました。
あなたはあなたらしく、易を伝えて行けば良いのよ。
易占の神秘に始まり、易占の神秘に終わる。
高部先生、最後の最後に素晴らしいプレゼント、ありがとうございました。
高部先生は高井紅鳳先生同様、心より敬愛する大好きな先生でした。
高部先生に少しでも近づけられるよう、今後も精進致します。
さて、リニューアル版『星マリアのイーチンオラクルカード』の編集、頑張ろ!