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楳図かずおの世界

それはまだ小学校に上がる前、幼稚園児の頃だった。

偶々祖母に連れられて美容室へ行き、そこに置いてあった漫画雑誌を手に取りパラパラ眺めていた際、ひとつの絵に衝撃を受けて釘付けになった。
その漫画を最初から読んでみた。

「おろち」

ドキドキしながら夢中になり一つ一つのコマを吸い込まれるよう追い、いつしか私は漫画の中にいた。

私はおろち。

おろちの視点に立ち、この世の美しさと醜さ、人間の心に潜む正邪をありありと見せられた。

漫画家は

「楳図かずお」

祖母にこの人の漫画が欲しいとお願いした。

両親からは漫画を買ってもらえなかった。
漫画ではなく活字を読めと、家には漫画は一冊もなく、良書と呼ばれる児童文学のようなものばかりがあった。
クリスマスや誕生日のプレゼントも、挿絵程度の付いた活字の本。
お陰で活字の本は今も好んで読むが、私は楳図かずおという漫画家の描く世界観に強く魅せられた。

何故彼は、楳図かずおという人は、人間の正邪を、美醜をここまで亮然と表現できるのだろう。
人間の強さに潜む弱さ、謙虚さに隠れた傲慢さ、恐ろしい程の嫉妬心、そういったものを、私は楳図かずおという漫画家から教えられた。

小学生の頃の私は友達と呼べる子は誰もいなかった。
どうせ皆、自分の事ばかり考えている。
自分が一番大切なんだ。
今はニコニコしていても、いつ裏切られるかわからない。
先生だって、いくら綺麗事を並べていてもいざとなれば私を置き去りにして逃げて行く。
それが人間なんだ。
虐待を受けて育った私は最初に見た人間が化け物のように恐ろしい親だった為、人間の醜さ、愚かさ、弱さ、狡さ邪悪さを嫌という程見せつけられた。
今まで鬼の形相で私へ怒りの感情をぶつけ、怒鳴りながら殴る蹴るの暴行を振るっていた父は、来客があると途端気味が悪い程温厚な人間に化ける。
「マリアちゃん、可愛いわね」と私が褒められると「まあ、そうかしら」と優しい笑顔で私の頭を撫でていた母は、家に帰ると「調子に乗るなブス!」と、ヒステリックに怒鳴り、力任せに鼻血が出る程私の頬を殴る。
何故父は自分の意のままにならない私を殴るのだろう。
何故母は私を憎み嫉妬するのだろう。
大人の理不尽さとそれが齎らす孤独。
その正体は人間の弱さなのだという事が、楳図漫画を読み小学生の頃理解できた。
誰も教えてくれない人の心に潜む闇。
私だって自分可愛さに、自分を守る為にいつ醜い邪念を抱く化け物になるかわからない。
人間とは恐ろしい。
そんな風に考えると人に期待もしなくなり、人と関わるのも面倒になり、私はいつも独りだった。
独りだからといって、全く寂しさは感じなかった。
寧ろ独りは私にとって静寂で心地良いものだった。
私の唯一の友達は占いだった。
家の3階の屋根裏部屋の奥に占い道具や楳図漫画を隠し、両親がいない時を見計らい、独り占いをしたり漫画を読んだ。

そんな私も成長し、大人になり、色々な事を経験し、幸いにも心から信頼できる夫と結婚し、子ども二人を産み育て、孤独を突き破り僅かだが友達と呼べる人もでき、いつしか世の中の理不尽さもそういうものだと受け入れられるようになり、還暦に迫る年になった。良くも悪くも大人になったのだ。
SNSでの誹謗中傷も法的措置を取り蓋を開けてみると加害者の深い心の闇、弱さが見えて来る。成る程、楳図ワールドはあちこちに散らばっている。
そんな時、名古屋で「楳図かずお大美術展」が催されている事を、息子に教えて貰った。私は子供の頃から楳図かずお先生が大好きで、今も本棚には楳図先生の漫画が並んでいる。
子ども達も小学生くらいの頃、私の本棚にある楳図先生の漫画を全て喜んで読んでいた。子供達も楳図先生の大ファンだ。

開催される美術展初日に足を運んだ。

モノクロの世界しか知らなかった私は、カラーの美しい絵画の数々をじっくりと鑑賞し、矢張りこれらの絵は美術品なのだ、という事を改めて思った。

私のイーチンオラクルカードのイラストやデザインを担当してくださった、友人の泉 麗香さんも素晴らしい漫画家さんで、星田妙見宮の見事に美しい大絵巻や仏画、御朱印等を描いていらっしゃるが、楳図先生の絵を一枚一枚鑑賞しながら麗香さんの美術品と重ねていた。

美しい。

涙が溢れる程美しいのだ。

泉 麗香さんの仏画は自然に手を合わせたくなる程の癒しを与えてくださる。
そこが楳図先生の絵画と共通している点であり、漫画と絵画の良いところ、魅力を鑑賞できるという大変贅沢な美術展だった。

漫画というコマ制約に、読者の心を深く沈み込ませる表現力、泉 麗香さんも楳図かずお先生も芸術家なのだ、と、改めて知り鳥肌が立つ思いだった。
50年以上昔、はじめて美容室で楳図漫画を目にした時と同じ衝撃を感じた。

6月10日からこの様に記事にする迄随分時間が経ってしまったのは、楳図漫画をじっくり読み返していたからという事と、胸がいっぱいで上手く言葉にあらわせられなかったのだ。
感動のあまり、絵画一枚一枚をじっくり鑑賞していたら、随分時間が経っていた。
ショップでグッズも求めた。

私は子供の頃自分の母親とさくらの母親を重ねていた。
まことちゃんも大好きだ。
さくらとおろちの小皿。嬉しい。

楳図かずお大美術展、名古屋では8月6日まで開催されている。


漫画や絵は視覚に訴える印象が強く、一度見ると忘れられないものが多い。
改めて漫画って素晴らしい、と、このところ特に思う日々なのだ。


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星マリア🌹占い界の傾奇者
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