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『CROSS DRESSER』Vol.5

本作は女装How toメールマガジン『CROSS DRESSER』をリライトしたものです。

◆How to メイク:アイブロウ〈1〉
目、鼻、口──顔も局部的に見れば男女の違いはあまりない。まして顔は千種万様。女のような豊頬の男もいれば、男のように骨っぽい顎の女もいる。髭や化粧といった手掛りがなければ、顔の一部分だけで男女を識別するのは意外とむずかしい。
 
ただ眉だけは違う。眉には男女の違いがはっきりでる。むろんそれはほとんどの女性が眉に手を入れているからなのだが、まれに見かける人跡未踏の原始林のような眉でさえ、やはり女性の眉は男とは違う。
 
眉を女らしく見せるにはひそみにならい、そのむくつけき男眉を柳の葉のように細くすればいい。はやい話が抜いてしまえばいい。しかしこれは言うは易く行うは難しである。
 
女装者には世間に対する男の顔というものがある。頭髪が三段階に増えるのならまだしも、ある日突然、眉が細くなったのではその世間に対して顔向ができない。へたをすれば眉が生えるまで出社に及ばずということにもなりかねない。眉ひとつのために失業のリスクまで負うわけにはいかない。たかが眉、されど眉である。

◆Nightcap〈5〉
私はむずむずしながらただでさえ尻の落ち着かないスツールに坐っていた。もはや眼前の光景は視れども見えず、頭のなかは机の上を片づけ灰皿を洗い紅茶を淹れてからおもむろにハイヒールをとりだすシーンのリハーサルを入念に繰り返していた。
 
ところがその本番ときたら、もうリハもなにもあらばこそ、私は部屋に入るやいなやズボンを脱ぎ、靴下を脱ぎ、パンツを脱いで――なにもそこまでする必要はないと承知のうえで――ハイヒールを履いた。
 
革靴というのは、たとえ合成皮革であったとしても素足では履きづらい。足の指をすぼめるように根元からまるめ、なんとか履き遂せたときには土踏まずにねっとり汗をかいていた。

Thanks reading, See you…



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