『CROSS DRESSER』Vol.2
◆How to メイク:ファンデーション〈2〉
だいたい私の髭は濃くて硬い。そのぶん髭の剃り跡も広くて青い。そもそも
髭の剃り跡が青いのは皮膚の中に毛根が残っているためで、抜けばなるほど青くはならない。じっさい女装者のなかにはこのメリットを活かし、髭を抜きで処理する人もいる。
いちど私もやってみたが、私のような硬質、高密度、広範囲の髭では、とてもとても間尺に合わない。それこそ最後の一本を抜き終えたときには最初の一本が生えている。
髭の剃り跡を消すにはスポットカバーを使う。これは本来、消すに消せないシミ、ソバカスを隠すためのもので、工程としてはコントロールベースとファンデーションの間での処置となる。
少量を指先につけ、青ぐろい髭の剃り跡が頬の色に近づくまで薄く塗り重ねていく。あとはファンデーションを最初は押しつけるように、のちに薄く伸ばすように塗っていく。
仕上げはフェイスパウダー。ノーカラータイプのパウダーを大きめのパフにまぶし、顔といわず頚といわず、とにかくファンデーションをつけたところにかぶせていく。
◆Nightcap〈2〉
世間は春。私はいつものように散歩にでた。私鉄に乗り終点で降り駅頭の商店街に向かった脚は、靴屋の前でハタと停った。店先にひとやまいくらの靴が文字通り山積みされている。その山すそにころがる白いハイヒール、サイズは24.5、オレンジの値札に赤いマジックで¥980。
私がそのハイヒールを買ったのはまったくの偶然、いわば衝動買いであった。サイズが合う、値段も廉い、しかもそれがいま私の足下にある。いまならなんの苦もなくそれを買える。わざわざ店内に入り、うろうろおろおろ人目を気にして物色する必要もない。それにいざ不用となればそのときは捨ててしまえばいい。店の中には中年の男性店員がひとりいた。
Thanks reading, See you…