『CROSS DRESSER』Vol.15
◆How to メイク:ルージュ
最後に口紅。塗り方は気持ち小さめ。上唇は輪郭のすこし内側、下唇は縦じわを残すくらいでちょうどいい。
上唇は左右の山を描いてから口角とつなぎ、下唇は左右の口角から引いて真ん中でつなぐ。横方向だけでなく縦方向にも塗り重ね濃度を整える。
二度三度、唇をすり合わせてルージュをなじませ、ティッシュを噛む。作り物めいた顔に命が通う瞬間である。
私はリップブラシを使わないと口紅を塗れない。ところが女性はそれを使わずとも口紅を塗ることができる。ときに女性はリップスティックを直接唇につけ、わずか数秒でルージュを引いてみせる。
この先、私がどんなに練習しても彼女たちのように口紅が塗れるようにはならないだろう。女は女であるというそのことだけで、すでにして特別な存在なのである。
口紅関連のアイテムとしては、唇の輪郭を描くペンシルタイプのリップライナー、唇に濡れたような艶をあたえるリップグロスなどがある。リップライナーは口紅を塗る前に、リップグロスは後に使う。
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今回で「How to メイク編」は終わりです。これまで縷々述べてきましたが、メイクは十人十色、正誤はありません。いろいろ試されてみて、ご自身に合ったメイクを見つけだしてください。
さて、次回からは「How to むだ毛のお手入れ編」をお送りします。女装とはむだ毛との終わりなき戦いです。皆さん、一緒に戦いましょう。どうかお楽しみに!
◆Nightcap〈15〉
生前、満州帰りの祖父が「昔は物を動かすだけで金になった」と、いま思えば紀伊国屋文左衛門みたいなことを言っていたが、その「難波の葦は伊勢の浜荻」的商法は現代でも立派に通用する。さしずめこの店などはその所変われば品変わる的商法のショールームだといえる。
私にはお金が無かった。そのスリー・イン・ワンを購うには、有り金全部はたいてもからっきし足りない。ガーターベルトならいまこの場で買えるが、後悔することは目に見えていた。やはりどうせ買うならセクシーなスリー・イン・ワン。しかし……。
結局、迷いに迷い、悩みに悩み、考えに考え抜いたすえに、私は口ゴムの付いた網タイツを買った。これならガーターベルトが無くても履くことができる。とりあえず今日はこの網タイツだけを買い、後日改めてスリー・イン・ワンを買いにくる。先客の二人はすでに帰ったようだった。レジの上にある掛時計を見ると、かれこれ一時間が経っていた。
駅にもどる途中、今度はすれ違う男たちが、どうにも気になってならなかった。
Thanks reading, See you…