「争族」を避けるには遺言書が有効。相続の基本徹底解説!
相続と聞くと、資産家だけの問題だと考えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。
2015年の税制改正で基礎控除が減り、相続税を支払う方が増えたため、相続に関心がある方も増えています。
長い人生の最後のイベントだからこそ、残された家族が円満に手続きできるよう、前もって準備しておきたいですよね。
財産を託す人がきちんと用意しておけば、大切な家族が揉める可能性を軽減できるでしょう。
本記事では、相続の基礎知識や生前からできる準備、遺言書の種類についてお伝えしていきます。ぜひ参考にしてみてください。
相続とは?
相続とは、亡くなった人が亡くなった時点で持っている財産を、配偶者や子供、親、兄弟など、その人と関係が深い人たちが引き継ぐことです。
誰が相続人になるかは、亡くなった人の家族構成によって決まります。
詳しくは、後述する「誰が財産を引き継ぐのか」でお伝えしていきます。
相続手続きの流れ
相続手続きを簡単にまとめると、以下のようになります。
亡くなった人の生まれてから亡くなるまでの連続した戸籍を集め、法定相続人を確認する
相続人同士で誰がどの財産を引き継ぐかを話し合い、遺産分割協議書を作成する
遺産分割協議書に基づいて金融機関や不動産の相続手続きを行い、亡くなった日の翌日から10ヶ月以内に相続税を申告する
これらの手続きは、それぞれの段階で多くの時間と労力がかかります。
大切な家族を亡くした後、10ヶ月という短い期間でこれらの手続きを終わらせる必要があるのです。
中には、普段の生活で経験していないことばかりで、煩雑に感じる方がいらっしゃるのも事実です。
もし、ご自身で手続きをするのが難しいと判断した場合は、税理士や司法書士といった相続に詳しい専門家に相談・依頼するという選択もあるでしょう。
誰が財産を引き継ぐのか?
誰が相続人になるかは、亡くなった人の家族構成によって決まります。
内縁の妻や離婚した場合を除いて、配偶者は常に相続人です。
また、法定相続人の中ですでに亡くなっている人がいる場合は、その子供が相続人となり、これを代襲相続と呼びます。
終活を始めるための第一歩として、ご自身の法定相続人を確認しておくことをおすすめします。
もし、法定相続人以外の人に財産を遺したい場合には、遺言書が必要になるからです。
【出典:日本経済新聞 2021年6月10日】
遺産相続、法律では配偶者に2分の1以上: 日本経済新聞 (nikkei.com)
相続が起こった時の注意点
相続が起こった時の主な注意点として、下記の3点があります。
亡くなった人のすべての財産を特定できないことがある
亡くなった人の銀行口座から預金が引き出せなくなる
相続人には遺留分がある
それでは、順番に確認していきましょう。
亡くなった人のすべての財産を特定できないことがある
取引している金融機関の通帳やキャッシュカードが見当たらないことが原因で、すべての財産を特定できないことがあります。
どの金融機関にどんな資産があるのか分からない状態では、相続手続きを進めるのに時間がかかってしまいます。
また、相続内容を話し合う遺産分割協議後に新たな財産が発覚したら、話し合いをし直さなければいけません。
亡くなった人の銀行口座から預金が引き出せなくなる
相続人が直接銀行に申告した場合はもちろん、町内会の回覧板などで銀行が間接的に亡くなったことを知った場合でも、口座は即座に凍結されてしまいます。
銀行口座に預けている預金残高も相続財産に含まれるため、無断で引き出すことができないようにしているのです。
相続人には遺留分がある
遺留分とは、法定相続人が最低限受け取れる遺産配分のことで、兄弟姉妹を除くすべての法定相続人に認められています。
例えば、法定相続人が子供2人(AとB)の場合、Aにすべての財産を相続させるにはBの承諾を得なければなりません。
「争族」を避けるためにも、相続人の遺留分を考慮して財産配分を決めておく必要があると言えます。
大切な家族のためにできる準備
上記の注意点を踏まえ、大切な家族のために、生前のうちに準備しておきたいことを以下にまとめました。
人生100年時代といわれている現代で、終活はまだ早いとお考えの方もいらっしゃるかもしれません。
ご自身が健康でいるからこそ、できることがあります。ぜひ参考にしていただければ幸いです。
取引金融機関の把握
まず、取引している金融機関を把握することが大切です。
ご自身に万が一のことがあった後、家族が金融機関の窓口へ出向き、相続手続きをする必要があるからです。
通帳、キャッシュカード、印鑑といった金融機関の手続きで日頃から使っているものを整理し、一覧表でまとめることをおすすめします。
また、ほとんど使っていない口座があれば、今のうちに解約し取引する金融機関を減らしておくと、家族の負担を減らすことにつながります。
自宅以外に不動産をお持ちの方は、不動産についてもまとめておくと、財産全体を把握することができ、より分かりやすくなるでしょう。
【出典:日本経済新聞 2021年9月23日】
終活、銀行口座や不動産を一覧表に: 日本経済新聞 (nikkei.com)
どの資産を誰に引き継ぐか考える
次に、どの資産を誰に引き継ぐかを考えていきましょう。
相続の際に引き継ぐ資産には、プラスの資産とマイナスの資産があります。
代表的なものを以下にまとめてみました。
プラスの財産:預金、株式・国債などの有価証券、不動産、ゴルフ会員権など
マイナスの財産:金融機関等からの借入、生前に確定した未払いの債務、葬式費用など
これらの資産を誰にどれくらいの割合で引き継ぎたいのか、生前に考えておき、ご自身の想いとして形にしておくと、相続人同士の話し合いがスムーズになることが多いです。
例えば、
自宅は長年連れ添った奥様に
アパートと金融機関の借入は事業を引き継ぐ長男に
金融資産は奥様と子供たちで平等に
といったように、ご自身の気持ちと相続人それぞれの事情も考慮し決めておくことで、後のトラブルを防ぐことにつながります。
遺言書の作成
残された家族の遺産分割協議をより円滑に進めるためには、遺言書を作成しておくことが有効な手段となります。
どの資産を誰に引き継ぐといった資産の配分に加えて、長年一緒に過ごした家族に対する感謝の気持ちを言葉にして残せるからです。
遺言書を作成しない場合は、相続人同士が話し合いで相続内容を決めますが、揉めることが多いのが事実です。財産を残す人が相続の指示をすることで、相続人の負担を減らせるでしょう。
また、法定相続人以外の人に資産を引き継ぎたい方もいらっしゃるでしょう。
具体的には、内縁の妻や、セカンドライフの際に身の回りのお世話をしてくれた息子の妻などが該当します。
この場合にも、遺言書を作成する必要があります。
デリケートな問題なので、すぐに決断するのは難しいかもしれません。
今までの人生をじっくりと振り返った上で、どの選択が適切なのか、判断することをおすすめします。
生命保険の活用
家族が亡くなった後は、葬儀費用の支払いや相続税の納付などで大きなお金を動かす機会も多く、銀行の口座が凍結されてしまって困る方もいらっしゃるでしょう。
そんな時に役に立つのが生命保険です。
生命保険のメリットとして、以下が挙げられます。
お金に名前をつけて遺せる
誰が受け取るかを契約時に決めておけます。
受取人がスムーズに受け取れる
保険会社に連絡すると、概ね1〜2週間程度で受取人の口座に保険金が振り込まれます。
相続税の非課税枠の活用できる
死亡保険金には、相続税の非課税枠があります。
500万円×法定相続人の人数までの金額であれば、税金を支払うことなく受け取れます。
一方で、デメリットもあります。
中途解約は元本割れのリスクがある
途中で解約すると、解約返戻金が払った保険料を下回ることがあります。
為替リスクがある商品もある
外貨建ての場合は、為替の影響を受けて受け取る金額が変動します。
入院中は契約できない
健康告知のない商品でも、入院中は契約できないため注意が必要です。
上記のメリット・デメリットを踏まえると、生命保険は使わないお金で元気なうちに契約することが重要だと言えます。
生命保険は保険会社だけでなく、銀行や証券会社の窓口でも取り扱っており、商品の種類も豊富にあります。
残された家族がお金の心配をせずに手続きを進められるよう、今のうちに生命保険で準備しておいてはいかがでしょうか。
遺言書の種類
生前にできる準備として、遺言書の作成についてお伝えしました。
遺言書には3種類あり、それぞれのメリットとデメリットも含めて解説します。
自筆証書遺言
自筆証書遺言とは、自分で遺言を書いて自分で管理する方法です。
自分一人で書くことができるので、3種類の中で最も簡単に作成できます。
一方で法律で決められたルールに基づいて作成する必要があり、形式に不備があると遺言書が無効になる場合があります。
また、2020年7月から「自筆証書遺言保管制度」が始まっており、決められた手続きをすると法務局で保管することも可能です。
〇メリット
費用がかからず手軽に作成できる
〇デメリット
紛失や改ざんの恐れがある
無効になる場合がある
原則、裁判所での検認が必要
公正証書遺言
公正証書遺言とは、公証役場で遺言書を作成する方法です。
公証人が本人の意思を確認し、証人として相続人や受遺者ではない第三者2名が立ち会います。
遺言書の原本は公証役場で保管するため、改ざんや紛失の恐れはありません。
自筆証書遺言と異なり、作成するための費用や、公証役場に出向く労力が必要になります。
また、金融機関などで取り扱いのある遺言信託を活用する方法もあります。
〇メリット
改ざんの恐れがない
検認の手続きが不要
〇デメリット
費用かかる
証人2名の立ち会いが必要
秘密証書遺言
秘密証書遺言とは、遺言書の存在のみを証明するものです。
本人が遺言書を作成して封をし、公証役場で自分の遺言書であることを証明します。
公正証書遺言と同じように、証人2名が立ち会います。
また、自筆証書遺言と同様に、裁判所で検認の手続きが必要です。
〇メリット
遺言書の内容を秘密にできる
〇デメリット
費用かかる
証人2名の立ち会いが必要
検認が必要
まとめ
相続税の申告・納付は、被相続人が亡くなった日の翌日から10カ月以内なので意外と時間がありません。
その期間に相続人が相続財産の確定・相続人の確定・相続内容の話し合いをするのは手間ですし、労力がかかります。
それぞれの言い分で揉めることもあるでしょう。
相続人の負担を減らすためには、生前に遺言書の作成をしておくことがおすすめです。
遺言書が残されている場合は、遺言書の内容に従って相続が執行されるからです。
遺言書には下記の3種類があります。
自筆証書遺言
公正証書遺言
秘密証書遺言
今回の記事で紹介したメリット・デメリットを比べて、ご自身にとって使いやすいものを利用するのをおすすめします。