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大老・井伊直弼を訪ねて⑥ 村山たか⑴〜(滋賀県彦根市) 2022年9月8日

NHK大河ドラマの第1作目は、井伊直弼を巡る物語『花の生涯』1963年に放映されたもので、残念ながら私は観ていない。

井伊直弼は、彦根城の目の前にある埋木舎という小さな屋敷で人生の3分の1を過ごした。そして藩主となり大老となり、雪降る朝に脱藩浪士によって首を斬られてしまう。

真っ白で無垢な部屋住みから、赤備えの家臣として幕府を守ろうと必死に生きた。彼をたとえるなら、一体どの花なのだろう。

春の訪れを知らせる椿の花。寒さに耐えて鮮やかに花開き、ポトリと落ちる。散る様子はまるで斬首だと江戸時代には忌み嫌われた。

私は遅咲きの大老・井伊直弼を知ろうと、滋賀県彦根市を訪れた。居所『埋木舎』でまだつぼみの椿だった彼は、茶道を愛し、この花をどう捉えていたのだろうか。

椿でもうひとつ。『花の生涯』に登場するヒロインは『村山たか』という。この人物なら私にも聞き覚えがある。井伊直弼の歴史のひとつ、安政の大獄を蔭で支えた女スパイの名前だ。

また連想してゆき‥『椿姫』というフランス小説がある。

高級娼婦が青年の誠実さに惹かれて2人は結ばれる。彼女は愛を知り、将来を守るために身を引く。そして青年に対する愛を死ぬまで貫く。たかを高級娼婦、井伊直弼を青年に見立てた椿の花。

『村山たか』には、他にも『可寿江(かずえ)』『加曾閉(かそべ)』の名がある。彼女の自筆に「可寿江 53歳」とあるので『たか』とは井伊直弼による愛称かもしれない。近江の多賀大社に所縁がある。

近年見つかった井伊直弼の恋文『たか』と含めた和歌を詠んでみよう。

名も『たか』き 今宵の月はみちながら
君しをらねハ 事かけて見ゆ

(君と見る十五夜は美しかった。
けれど、今見る月も日常も欠けてみえる)

井伊直弼が埋木舎に入ったのは1832年。恋文はその10年後に書かれ、27歳になった部屋住みは愛人に宛て「寂しい」との心情を綴っていた。

三味線と茶道・華道に通じ、和歌を嗜み、美貌と教養を兼ね備えた、村山たか。6歳年下の井伊直弼をたちまち魅了する。

私は「井伊直弼はなぜ、たかを側室にしなかったのか?」疑問に思った。

独学ながら歴史を辿ってゆくと、中年になっても離れられぬ!と縁を繋ぎ続けた2人に見える。井伊直弼が藩主になった後には引き取れぬはずなどない。他に町人の娘を側室として迎え入れてるし、芸者を側室にするなら養女にしてしまえば良い。

私はこのような仮説を立て、考えてみた。

なぜ?なぜか… 井伊直弼よりも上の立場の者が阻むのか。なるほど、おそらく「源氏物語」に通じるものがあったのだろう。

村山たか⑵ へと続く。

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