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美しい酒器で味わう日本酒(何事もほどほどに)

わたしの家族は誰も酒と煙草、そんでもってギャンブルをやらない。

もちろん、冠婚葬祭で親族や近所の人たちが集まる「おきゃく」の席では、にこにこしながら盃を口につけることはした。

そんな家庭で育つと、酒を飲んで憂さ晴らしするとか、酒を酌み交わして人との繋がりを作るとか、そういう世間一般の常識みたいな習わしが疎くなる。

それでも、短大生になった時は、大人に一歩近づいた気になって、誘われると合コンにも行ったもんだ。

ただ、行ったはいいが、如何せん、未成年。合法的に酒が飲めない年齢だった。それでも大人の雰囲気を味わいたくて、時間が許せば参加した。

お金の心配はしなくても、男女不平等万歳!講義の合間にアルバイトしてお金を貯めた、心やさしい男性の先輩たちが奢ってくれた。

下心丸出しの男性たち。でも、法律と自分の倫理観に護られたわたしは、雰囲気に酔って騒いでも、お酒は口にしなかった。

付き合いが悪いって? ほっとけ。

短い青春を存分に謳歌したい気持ちもあったけれど、その先にある保育士として自律する未来を棒にふる真似はしなかった。

そんな生真面目なわたしが、お酒にハマったのは20代の後半頃だった。

喫茶店で雑誌を読んでいた時、偶然目にした「冷酒」の記事がきっかけだった。

日本酒を冷やで飲む特集だったと思うけど、冷やで飲むと美味しい日本酒よりも、冷酒を飲む美しい器に惹かれた。

さっそく大丸百貨店に酒器を買いに行った。

硝子で作られた美しい酒器。色の入ったものから無色のものまで、さまざまな酒器が並んでいた。

シンプルなデザインが好きなわたし。硝子が繊細にカッとされた酒器を買うことにした。

となると、次は日本酒だ。酒器を飾っておくだけではもったいない。やはり、器は日常で使うから生きてくる。

勝手な解釈で、日本酒も一本、お買い上げ。少し小さめのサイズ。

冷やで飲む日本酒は、美味しかった。ムンと匂う香りが少なくて、果実酒のような香りがした。口当たりもよくて、飲みやすかった。

冷酒にハマったひと夏。

いろんな日本酒を買ってきては、酒器に移し替えて味わった。

そして、紅葉が色づく頃、わたしは胃潰瘍になった。

ハマると、とことんハマりたくなるわたし。ハマらないと見えない世界がある、と信じている。

確かに、初めての胃カメラ。初めての胃潰瘍宣告。何事も、ハマる時には覚悟が必要だ。


#ほろ酔い文学

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