悪筆
はるか昔の思い出、看護学生の頃のおはなしです。
☆☆☆
ちんたら授業どころではない。
卒業式の送辞を読むことになりました。読むのは別に構いません。ただ、発表原稿を作成して、式辞用紙に墨で書くなんて、嘘~。
小学校から短期大学まで、得意科目の成績はダントツ、それ以外は普通でした。その為、総合的には中の上あたり、答辞や送辞を読む役とは無縁でした。
それが看護学校では優秀でした。高卒の若い学生さんが大半でしたが、記憶の容量は負けていても、要領は負けていなかったあたし、常に成績はトップでした。年の功です。
戴帽式のお礼の言葉を述べるとき、はじめてカラクリを知りました。まさか!発表原稿を自作して、式辞用紙に書かなくてはいけないなんて!てっきり、学校が用意してくれると思い込んでいました。
発表原稿を作るのは容易でした。これまでの諸先輩方のものを参考にちょいちょい。でも問題は、あたしは字が超絶下手!ということでした。
ボールペンで書くのも苦手なのに、式辞用紙には墨で書く必要がありました。そんなの、無理に決まってます。
「あたしが書こうか?」
いるんですね、小学生の頃から習字を習っている人。仲良しだった同級生が見事な文字で書いてくれました。
そして次は卒業式の送辞です。なんと、別の同級生が「次はあたしに書かせて」と名乗り出てくれました。書道の師範の資格を持っているという彼女、自分の書いた文字がけ送辞として残るのが嬉しいと言って、更なる達筆で書いてくれました。
今も、あたしの名前の送辞が残っています。後輩はその送辞の文字の美しさに驚いていることでしょう。
ただ、卒業式当日、最初に予約した美容院の髪型が気に入らなくて、急遽、別の美容院に行ったものだから、打ち合わせの時間がなくなりました。
髪型なんてどうでもいいって?どんでもないです。もし髪型が決まらなかったら欠席する覚悟でした。
どうにか髪型は決まったけれど、それ以外はドタバタでした。答辞はただ読めばいいものではなくて、前後に何度も"礼"をしなくてはいけません。焦ると"礼"をする順番が分からなくなって、あれ?あれ?あ~れ~?
でも、大きく深呼吸して、余裕をみせて乗り切りました。なんて、同級生にも教職員にも内心の焦りはバレバレでしたけどね。
卒業式の後、今度こそボールペン字を習おうと思ったのですが、もう送辞もないし、今も悪筆継続中です。