【新しい産業組織論(小田切宏之)】 第3章練習問題

 第1~2章に続いて、小田切宏之「新しい産業組織論」(有斐閣)(以下、小田切(2001))「第3章 寡占市場の均衡・経済厚生・利益率」の練習問題を解きました。小田切(2001)の練習問題を解き始めたきっかけは、別記事にまとめているので、ご興味があればぜひ読んでみてください。

1.小田切(2001)第3章の概要

 現実の市場を見ると、完全競争ほど企業数は多くは無いが、独占企業ばかりでもありません。多くの市場は、複数の企業が競合する寡占だと思います。その寡占の代表的なモデルとして、先ず生産量決定型寡占モデルの解説をしています。生産量決定型寡占モデルを拡張し、「製品が差別化されている場合」や「企業の費用構造に格差がある場合」も紹介しています。
 その後、市場構造と利益率の関係を実証する方法を紹介して、「市場支配率仮説」と「効率性仮説」という相異なる仮説を提示しています。
 最後に、集中度と社会的厚生の関係を示すため、「産業改善可能性指数」を紹介しています。

 練習問題は全部で4つになります。第1~2章同様、新たな概念や仮説の理解を問う問題が出ています。新しい問題の傾向として、経済学で頻繁に使われる数学を用いた問題も出題されています。数学は、苦手な方は、田中久稔「経済数学入門の入門」(岩波新書)尾山大輔・安田洋祐「改訂版 経済学で出る数学」(日本評論社)に取組むと良いと思います。

2.第3章 練習問題の解答

 解答の都合上、各練習問題をいくつかの小問に勝手に分けているので、原文とは表現が異なります。

【練習問題1】

(1)「推測的変動」とは何を意味するか説明しろ。

 寡占下の企業の利潤最大化の最適化条件は、限界収入(MR)と限界費用(MC)の一致である。寡占では各企業は他の企業の反応を考慮して行動するため、各企業の限界収入(MR)は「①他社の生産量」と「②自社の生産量変化に対する他社生産量の反応」に依存する。自社の生産量が1単位変化したとき、他社が何単位の生産量を変更するかの自社の予測を「推測的変動」と呼ぶ。

(2)推測的変動が大きいほど均衡生産量が小さいのはなぜか説明しろ。

 推測的変動が大きいと、自社の生産量を変えた際に他社の生産量が大きく変わり(=「報復行為」)、市場全体の生産量も変わるため価格の変動も大きくなる。各社は、利潤を確保するために報復行為を恐れて、高価格を維持するので自社の生産量を小さくする。結果として、各社の生産量の和である均衡生産量も小さくなる。

(3)また、推測的変動が、-1の場合、0の場合、1の場合の均衡はそれぞれ何に当たるかを説明しろ。

 小田切(2001)によると線形モデルで対称的な推測的変動(λ)を含む生産量決定型複占モデルの均衡は以下の通り。

Q=2S/(3+λ)

P=c+(1+λ)bS/(3+λ)

λ=-1のとき、(Q , P) = (S , c)となり、線形モデルの完全競争均衡に一致。

λ=0のとき、(Q , P) = (2S/3 , c+bS/3)となり、線形モデルのクールノー均衡に一致(λ=0をクールノーの仮定と言う)。

λ=1のとき、(Q , P) = (S/2 , c+bS/2)となり、線形モデルの独占均衡に一致。

【練習問題2】

(1)線形モデルで対称的なクールノー均衡では、企業数が大きいほど産業生産量が増加し、完全競争均衡に近づくことを証明しなさい

小田切(2001)第3章練習問題

【練習問題3】

(1)プライス・コスト・マージン(PCM)とは何か定義しろ。

価格から限界費用を差引き、価格で割ったものを限界PCMと呼ぶ。限界費用の変わりに平均可変費用を使う場合を平均PCMと呼ぶ。線形モデルの場合、限界費用は平均可変費用に一致するため、限界PCMと平均PCMは同じになる。

(2)マーケット・シェア(S)やハーフィンダール指数(H)とPCMはどのような関係になるか、生産量決定型寡占モデルに基づいて述べろ。

 小田切(2001)の定理3④より、以下の関係式が成り立つ。

小田切(2001)第3章練習問題②

 そのため、マーケットシェアとPCMは正の相関関係にある。

 定理3⑥より、以下が成り立つ。

小田切(2001)第3章練習問題③

 そのため、ハーフィンダール指数とPCMもまた正の相関関係にある。

【練習問題4】

(1)市場集中度と利益率の相関を説明する2つの仮説、「市場支配力仮説」と「効率性仮説」を比較しろ。

 「市場支配力仮説」とは、大きなシェア・高い集中度が、企業に市場支配力を与え、企業間の共謀を容易にするため、企業に高利益率をもたらすという考え方。「効率性仮説」は、より効率的な企業が低価格や高品質の製品を販売してシェアを拡大するとともに高利潤を得るため、シェアと利益率に正の相関が生じるという考え方。加えて、企業間の効率の差が大きくなれば、シェアの差も高まり、産業の集中度も高まると考える。

 「市場効率仮説」はSCPパラダイムの考え方に沿っており、市場構造(S)が市場成果(P)を決定する因果関係にあると解釈できる。「効率性仮説」は、市場行動(C)の結果として市場行動(S)や市場成果(P)が相関すると解釈される。

 両仮説の考え方の違いは、競争政策のスタンスにも影響を与える。「市場効率仮説」の立場では、シェアの拡大や高い集中度は望ましい経済厚生をもたらさないため、積極的に競争政策を行う方が良いと考える。一方、「効率性仮説」の立場では、企業が効率的な運営を行った結果、シェアの拡大や高い集中度を実現したと考えるため、積極的に競争政策を行うことには疑義を持つ。

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