【新しい産業組織論(小田切宏之)】 第2章練習問題
第1章に引き続き、小田切宏之「新しい産業組織論」(有斐閣)(以下、小田切(2001))の練習問題を解きました。小田切(2001)の練習問題を解き始めたきっかけは、別の記事にまとめているので、ご興味があればぜひ読んでみてください。
1.小田切(2001)第2章の概要
「第2章 独占による経済厚生の損失」では、先ずミクロ経済学の偉大な発見の1つであろう「厚生経済学の第1定理」の簡略な証明を行い、完全競争下の社会的余剰の効率性について説明しています。完全競争均衡との比較で次章以降の各モデルの帰結の効率性を議論するため非常に大切です。
次に、独占市場下の企業行動を通じて、独占均衡が効率性の観点で完全競争均衡より望ましくないことを示しています。実証的な観点から独占均衡による損失を測る方法についても言及しており、先行研究を紹介しています。
最後に、固定費に注目して、均衡には関係しないけども企業の参入・退出に影響を与えることを説明しています。そして場合によっては社会的余剰の最大化という観点からは過少参入になる可能性があることを示しています。
練習問題は全部で4つになります。重要な概念が新しく出たので、その理解を問う問題が中心になっています。さらに、図を用いて均衡の状況を説明する問題も出ています。図の使用は、自分の考えを直観的に他者へ伝える有効なツールでもあり、経済学では頻繁に使われるので得意になっておくのが良いと思います。
2.第2章 練習問題の解答
解答の都合上、各練習問題をいくつかの小問に勝手に分けているので、原文とは表現が異なります。
【練習問題1】
(1)パレート最適とは、どのような資源配分の状況か定義しろ
ある資源配分Aから別の資源配分Bに移るときに、他の人の効用は変わらずに、少なとも1人の効用を改善する(パレート改善)余地が無い状況のこと
(2)需要曲線と限界費用曲線(あるいは水平和の供給曲線)の交点がパレート最適な生産量(Q_c)と価格(P_c)の組み合わせであることを社会的余剰の概念を用いて説明しろ
社会的余剰(W)は社会的厚生レベルをはかる指標であり、消費者余剰(CS)と生産者余剰(PS)からなる。定義より、CSとPSは、それぞれ生産量Qの関数CS(Q)とPS(Q)とみなせる。同様に定義より、CS(Q)とPS(Q)をQで微分した場合の一次導関数は以下のようになる。
CS'(Q)>0 、 PS’(Q)<0
そのため、Q<Q_cの場合
CS(Q)<CS(Q_c)、PS(Q)>PS(Q_c)
更に、Q>Q_cの場合
CS(Q)>CS(Q_c)、PS(Q)<PS(Q_c)
となり、生産量をQ_cから変更した場合、社会的余剰(W)はパレート改善しないため、生産量Q_cと価格P_cの組合わせはパレート最適といえる。
※厚生経済学の第1定理を考えると自明ではあるか。
完全競争均衡が存在すれば、それはパレート最適な資源配分を達成する
【練習問題2】
(1)完全競争の企業はプライス・テイカーとして価格を受容し、独占企業はプライス・メイカーとして自ら価格を決定する。この違いが何を意味するか説明しろ。
完全競争市場では、企業数が十分に多く、1企業の生産量の変化が市場全体の供給量に影響を与えない。そのため、企業は、市場価格を所与(プライス・テイカー)として、生産量によって決まる限界費用と所与の市場価格を考慮して利潤最大化を図る。
一方で、独占では、企業が1社しか存在せず、1企業の生産量と市場全体の供給量が一致するため、企業の生産量に応じて市場価格が決まる(プライス・メイカー)。そのため、企業は、生産量によって決まる限界費用と市場価格を考慮して利潤最大化を図る。。
【練習問題3】
(1)独占による厚生の損失とは何か。図で説明しろ。
小田切(2001)に従い、線形モデルを考える。完全競争均衡は、下図のE点になる。完全競争下の社会的余剰(W_c)は三角形ABEの面積と等しい。一方で独占下での均衡生産量は、独占企業の限界収入(MR)と限界費用(MC)が等しくなるまで生産されて、均衡価格はその量における需要曲線上の点になる。すなわち、独占下の社会的余剰(W_m)は、四角形ABCDの面積に等しい。W_cとW_mには以下の関係が成り立つ。
W_c = W_m + 三角形DCEの面積
独占による厚生の損失とは、完全競争均衡から独占均衡に移った場合の社会的余剰の減少分、すなわち三角形DCEの面積のことを指す。
(2)なぜ、それが社会にとっての損失なのか説明しろ。
独占均衡(D点)から完全競争均衡(E点)に移ることで、生産者余剰は減少するが、その減少分以上に消費者余剰が増加する。その増加分は、生産者余剰の減少分に加えて、三角形DCEの面積も含む。結果として、生産者余剰と消費者余剰の総和である社会的余剰が増加する。その増加分を市場参加者が享受出来ていないため、市場全体(=社会)にとっての損失と言える。
【練習問題4】
(1)X非効率性とは何か、説明しろ。
完全競争下の企業と異なり、独占企業は競争圧力が無く、費用最小化条件を満たしていない可能性がある。そのため、最小化した場合の費用から追加的な費用を「X非効率性」と呼ぶ。具体例としては、必要以上の労働者や豪華な事務所、調度品等が考えられる。
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