【ワールドトリガー】“平均的”なボーダー隊員に関する考察

1.執筆の動機

 アニメ2期の放送が2021年1月から始まり、TwitterやYouTube等のSNSで「ワールドトリガー」の話題で盛り上がっています。原作やアニメの最新話が公開されるとTwitterでは作品関連のワードがトレンド入りしたり、YouTubeでは考察やキャラ紹介の動画が挙げられたりしています。原作の漫画は月刊誌の「ジャンプSQ」で連載されており、私も大好きな作品のため、毎月の最新話を楽しみにしています。

 ワールドトリガーの魅力の1つには、キャラや世界観についての緻密な設定があります。噂によると著者の葦原大介先生は、キャラや世界観の設定をExcelで整理するほど拘りを持って作り込んでいるようです。その一端が、オフィシャルデータブックである「BORDER BRIEFING FILE」(以下、BBF)に掲載されている各キャラの能力値にも表れています。

 BBFを読むことで各キャラの能力値の詳細を知り、その戦闘スタイルや戦術等の特徴を考察できるため、ファンの中では度々参照されています。例えば、YouTubeの考察動画やネット掲示板では、観点別のランキングや観点間の相関を見る時などに使用されています。

<能力評価の8つの観点とその定義>
  ①トリオン:トリオン能力のレベル
  ②攻撃:敵にダメージを与える能力
  ③防御・援護:味方を支援・防御する能力
  ④機動:移動の速さ、身軽さ
  ⑤技術:攻撃・防御の正確さ、精密さ
  ⑥射程:技術と武器による射程の長さ
  ⑦指揮:状況を見て部隊を指揮する能力
  ⑧特殊戦術:独自の戦法のレベル、使用する頻度

 各キャラの能力値はwikiなどでも公開されており、Excel等を使って手を加えれば誰でも簡単に分析ができます。「ワールドトリガー」好きを自称している以上、このデータを触ってみて、何か考察をしてみたいと思い、今回この記事を執筆しました。

2.疑問の設定 ~“平均的”なボーダー隊員はどの程度強いのか~

 ワールドトリガーでは、異世界からの侵略者であるネイバーへの対抗戦力としてボーダーという組織が存在しています。ボーダーでは、隊員の戦闘技術・戦術理解の向上を目的に複数人の隊員で結成されるチーム同士での模擬戦いわゆる「ランク戦」が開催されています。

 また、ボーダーでは、隊員をA級・B級・C級の3つに区分しており、以下のような位置付けになっています。主人公である三雲修・空閑遊真・雨取千佳は、ボーダー公認でネイバーが暮らすネイバーフッドに行くために、ランク戦で勝利を重ねて遠征選抜メンバーにならなければいけません。

<ボーダーの隊員区分・位置付け>
  A級隊員:精鋭(約30名)
   ※ネイバーフッドへの遠征選抜試験の受験資格有り
  B級隊員:主力(約100名)
  C級隊員:訓練生(400名以上)

 原作の単行本では10巻以降、ランク戦を中心にストーリーが進行し、ボーダーの主力を担うB級隊員の戦闘シーンがふんだんに描かれています。そして、このランク戦を見ているとこんな感想をいだきます。

「あれ、こいつらめちゃくちゃ優秀じゃね?」

 原作の単行本9巻まではネイバーの侵攻に対する防衛戦が中心でした。精鋭である敵との戦闘シーンを描いているため、どうしてもB級隊員がやられ役になっていたので10巻以降の姿がギャップになり、めちゃくちゃ驚かされます。また、ボーダー隊員のボリュームゾーンは中学生・高校生の10代で、仲間達からおっさん呼ばわりされている最高年齢の冬島さんでも29歳です。組織全体の平均年齢が若いにも関わらず、ランク戦での各キャラの冷静な判断力と柔軟な対応力も驚きを抱く一因だと思います。

 アラサーの私以上に恐らく落ち着いて不測の事態に対応しているので、こういう部下が欲しいです。そんな優秀なボーダー隊員の活躍を見ていると2つの疑問が湧いてきます。

 疑問①:“平均的”なボーダー隊員の強さはどの程度なのか?
 疑問②:選抜をくぐり抜けた精鋭「A級隊員」と主力「B級隊員」はどの程度の実力差か?

 この2つの疑問について、BBFの能力値を使って次のようなアプローチで検討したいと思います。

3.検討アプローチ

■対象範囲

①A級またはB級の隊員であること
 ボーダーでは、訓練生であるC級隊員はネイバーとの戦闘を行いません。そのため、ボーダーの主要な戦力であるA級隊員またはB級隊員のみを対象にします。
 ボーダーの戦力には、忍田本部長、林藤支部長、寺島雷蔵チーフエンジニアなどA級・B級隊員以外にも高い戦闘能力を持つ人たちがいますが、彼らは「隊員」と求められる役割が異なるので対象から外しました。

②BBFに能力値が記載されていること
 B級中位以上のキャラは既にランク戦で登場しています。また、単行本最新23巻で遠征選抜試験編に入り、A級の全隊員が登場しています。
 しかし、BBFには、全隊員の能力値は記載されていないので、今回は限られた情報で語りたいと思います。逆にBBFに記載されていることを理由に現役隊員ではありませんが、二宮隊の元スナイパーである鳩原未来は対象に含んでいます。

③ブラックトリガーを装備していないこと
 疑問の中心が「平均的な隊員」のため、例外的な戦力のブラックトリガー所有者である「天羽月彦」や「迅悠一(ブラックトリガー装備時)」を外しています。ブラックトリガーはあまりにも強力で、エリート隊員の迅悠一が「風刃」を使うとA級の第1~3位の隊員でも返り討ちに合うほどに大きいな実力差が生じるので、含めるべきでは無いと判断しました。
 但し、迅悠一はノーマルトリガー装備時の能力値が記載されており、単独A級扱いになるので、こちらは検討の対象に含んでいます。また、ボーダー標準のトリガーを装備していない玉狛第一の扱いにも悩みましたが、ブラックトリガーのようなトリオン量自体の大幅な増加効果は無さそうだったので、検討の対象に含んでいます。

■データ

 元になるデータはwikiにある戦闘員の能力値をもとにしています。以下にwikiのリンクを貼っておくので、気になる方は参照してください。このデータから上記(1)~(3)に該当する全63名を対象に分析を行いました。

■分析方法

方法①:パターン(1)~(3)の対象範囲を設定して項目別の平均能力値・中央値を確認する
 ブラックトリガー等の外れ値は検討に含みませんが、念の為に中央値を見て平均能力値で議論することの妥当性を確かめておきます。

<対象範囲パターンの定義>
  パターン(1):A級隊員とB級隊員の全63名が対象
  パターン(2):A級隊員のみの全23名が対象
  パターン(3):B級隊員のみの全40名が対象

方法②:パターン(1)~(3)ごとにトータルの能力平均値±一定の幅に該当する隊員を確認する
 特定の項目のみに注目することは偏りが生じるので、各項目の能力値の合計をもとに“平均的”な隊員に該当し得る具体的なキャラを挙げてみます。

方法③:パターン(2)とパターン(3)で項目別の平均能力値を比較する
 精鋭と主力の能力の違いを項目別に確認することで、厳しい選抜をくぐり抜けるために大切になる点は何処かを考えてみます。

参考:パターン(2)とパターン(3)の項目別の能力値の分布を確認する
 平均能力値に加えて分布の形状を比較することで、A級隊員とB級隊員の実力の差がどの程度あるのかを検討したいと思います

4.検討結果

方法①:パターン(1)~(3)の対象範囲を設定して項目別の平均能力値・中央値を確認する

画像1

■結果1:平均能力値と中央値の乖離は小さい

 図1と図2によると、平均能力値と中央値のいずれも近い値になっています。外れ値による平均能力値と中央値の乖離はさほど気にする必要はなさそうなので、今回は平均能力値で検討したいと思います。

■結果2:A級隊員とB級隊員のトータルの能力には一定の差がある

 パターン別のトータル平均能力値を見ると、「パターン(1):47.0」「パターン(2):51.4」「パターン(3):44.4」になっています。パターン(2)とパターン(3)のトータル平均値の差は、平均的なA級隊員と平均的なB級隊員の能力の差と言え、その差は「7.0」で約16%程度のひらきがあります。

方法②:パターン(1)~(3)ごとにトータルの能力平均値±一定の幅に該当する隊員を確認する

画像2

■結果3:いずれのパターンでも“平均的”な隊員は各隊で主力になりそう

 トータルの能力値を基準に隊員を抽出したところ、各パターンで複数名の該当者がでました。その結果を図3~図5に記載しています。

 <対象範囲パターン別の抽出基準>
  パターン(1):トータル47.0~47.5の隊員 ⇒ 該当者4名
  パターン(2):トータル51.0~52.0の隊員 ⇒ 該当者9名
  パターン(3):トータル44.0~45.0の隊員 ⇒ 該当者5名

 但し、上記は各項目の合計である「トータル」のみに注目しており、項目別の能力を見ると全項目が中程度の隊員もいれば、各項目の能力に差がある隊員もいます。そのため、各リストの隊員の中から、より平均的と言える隊員を選ぶために、「平均乖離値」という基準を導入します。

 <平均乖離値の定義>
  平均乖離値 = ∑(能力値-平均能力値)^2

 各項目の平均能力値からの乖離の総和が最も小さい隊員(=「平均乖離値」が最も小さい隊員)を、最も“平均的”な隊員とみなしました。各パターンで平均乖離値が最も小さい隊員は以下です。

 <対象範囲パターン別の最小平均乖離値の隊員>
  パターン(1):柿崎国治(オールランダー)
  パターン(2):三輪秀次(オールランダー)
  パターン(3):照屋文香(オールランダー)

 全員のポジションがオールラウンダーになっていますが、今回の基準として使用した平均乖離値では、全項目のバランスの良さが求められます。そのため、バランスの良さを活かせるポジションはどこかと考えるとやはりオールラウンダーになるのでしょう。
 また、柿崎隊から2名が選ばれていますが、これがA級嵐山隊の時枝充が言っていた柿崎隊の安定性に繋がる要因なのかもしれません。A級とB級の平均的な隊員が隊長を務め、B級の平均的な隊員がサポート役に所属しているので、あとはフォーメーションの柔軟性とエースの役割を担える尖ったアタッカーが入隊すれば、一気にB級ランク戦でも上位いけそうだなと妄想してしまいます。イメージとしては、木虎入隊前の嵐山隊に近いかもしれません。

 一方で、A級隊員の平均は、まさかのネイバー絶対●すマンこと「三輪秀次」になっています。三輪は、トリガーの相性の良さや他の隊員との情報共有があったとは言え、作中でも最強クラスのブラックトリガー使い兼強化ツノ付きの「ハイレイン」とタイマンで良い勝負しています。三輪ならどの隊でも、エースや優秀な2番手になれると思うので、そんな三輪がA級の平均と考えると選抜層のレベルの高さが伝わってきます。

方法③:パターン(2)とパターン(3)で項目別の平均能力値を比較する

画像3

■結果4:才能よりも地道な研鑽がA級とB級の差を生んでいる

 A級隊員とB級隊員のトータルの平均能力値の差「7.0」という数字は、全8項目の差を積み上げた結果です。A級隊員とB級隊員の差が生じる要因を知るには、項目ごとの差がどの程度なのかを確認しないと見えてきません。
 そこで、パターン(2)とパターン(3)の平均能力値と中央値の差を計算して、図1と図2に記載してみました。まず、差が小さい項目は「トリオン」と「射程」「指揮」が目立ちます。「トリオン」は、多少の成長はあるが基本的に才能に依存するものと作中で言われています。項目の中でも最も後天的な努力で埋めがたい要素である「トリオン」に差が殆どみられません。トリオンの差が小さくなる理由は、入隊試験の合格条件に一定以上のトリオンがあることを課して才能の無い者が弾かれていること、また雨取千佳や二宮、出水のような才能を持っている人が希少であることが理由として考えられぞうです。
 「射程」は、トリオンより単純で、基本的にA級もB級も同じ規格のトリガーを使っていること、またA級・B級どちらもアタッカーやスナイパーといった射程に特徴のあるポジションが偏って多い訳でないからだと思います。
 「指揮」は、隊長という役割を担う隊員が主に求められる能力になります。A級隊員でも隊長を務めていなければ必ずしも高い必要が無いため、A級とB級の間に差が見られないのかもしれません。

 次に明確に大きな差が見られるのは、「攻撃」「防御・援護」「技術」の3つです。この項目は平均能力値よりも中央値の差が大きくなっているので、A級とB級の差を生じさせる大きな要因になっていそうです。
 ランク戦を勝ち抜くには、対戦相手の隊員を落としてより多くのポイントを得てチームとしての順位を高めることが必要になります。そのためには、高い「攻撃」を有し、多くの隊員を確実にベイルアウトさせられる隊員が所属するチームほどA級になる可能性が高くなります。
 加えて、相手をベイルアウトさせつつも、自分や味方の隊員がベイルアウトになることを避けて生存点を得る或いは対戦相手にポイントを取らせないこともランク戦を勝ち抜くのに必要になります。そのため「防御・援護」がB級よりも高いことが必要になってくるのでしょう。
 そして、ランク戦は1回限りの戦闘ではなく、複数回のラウンドを通じた総合的な結果で評価されます。戦闘を繰り返す中で、高い攻撃・防御・援護を再現する必要があるため、当然「技術」も高くなることが求められるのでしょう。
 勿論、これらの項目も才能に依る部分もありますが、少なくともトリオンより努力での向上の余地が大きいと思います。この辺りには、勝敗は才能よりも継続的な工夫や努力が重要になるという葦原先生からのメッセージが込められている気がして好感を持ちました。

参考:パターン(2)とパターン(3)の項目別の能力値の分布を確認する

画像4


5.おわりに

 ワールドトリガーは大好きな漫画の1つで、まとめサイトも定期的にチェックして他の読者がどんな感想・考察をしているかも見ていましたので、いつか自分なりの感想や考察をまとめてみたいとも思っていました。
 今回、BBFのデータをもとにワールドトリガーについて考えていると、やっぱり良い漫画だなと改めて感じました。今回、記事を執筆している途中でも「ポジション別の平均的な隊員」や「平均的なチーム」等のネタも思いつきました。機会があるときに執筆できればと思います。

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