日報 2月19日 愛しさの源泉
記入者:タラバミント
昨日の休憩時間、ふらりと表に出た。
雪がほのかにちらついていたが、あたたかな陽気だった。
「このまま雪溶けかなぁ……」
なんて思いながら歩いていると、
「ヴイ〜〜〜ン」という高速の機械音が、
僕の鼓膜めがけてとびこんできた。
何事かと辺りを見回すと、その音は、
会社の目と鼻の先にあるパン父ジュニアの家から
聞こえてくるようだった。
彼の家の玄関は開いていて、
僕はぬっと顔だけのぞきこんだ。
部屋の中は、引っ越し前夜のごとく。
彼の数少ない持ち物が乱雑に溢れかえっていた。
それから大小様々な工具箱、
バーコードが貼ってある大量の角材が置いてあった。
その中で、もぞもぞと動く赤い影。
赤いジャージ姿で作業するパン父ジュニアだった。
「やぁ。ちょっとそこ、押さえててくれない?」
僕は「いいよ」と言って、
彼に言われるがまま、事情もわからず角材の端を支えた。
パン父ジュニアは嬉しそうにインパクトドライバーを掲げながら言った。
「これね、ベッド作ってるの」
「なに?ベッドだって?」
僕は空いた口が塞がらなかった。
「明日完成予定だから、また見に来てよ」
言われるがまま、
僕は今日、遅い昼休みに彼の部屋を訪れた。
「やぁ、来たね。ね、どう?」
パン父ジュニアは誇らしげだった。
それもそのはずだ。
彼はベッドを完成させていたのだ。
その構造がまたすごかった。
二段目に布団がひいてあって、手元灯までついている。
そして、一段目がまるまる収納スペースになっていた。
そこはまるで、秘密基地だった。
僕は思わず一段目の空間に潜り込んで、
しばらく、何をするでもなくぼぅっと座っていた。
「いいでしょう?」
と、パン父ジュニアはご満悦だった。
彼は、自分で作ったものをそんな風に愛せる男だ。
自分の目と手がかかっているからこそ、
そのモノへの愛しさが溢れてくる。
僕は彼が友人であることを、
心から誇りに思った。
愛しさの源泉は、みんな持っている。
日頃自分の目と手がかかっているものを、
僕も愛せる人でありたい。
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