似顔絵_明明_2_4

日報 3月22日 隣室の音楽が聞こえた頃

記入者:明明


二段ベッドの上と下には、
壁にぴったり耳を押しつける二人の女の子。

二人は物音一つ立てず、じっと耳をそばだてている。



「……これ、なんだろう?」
上の女の子がつぶやく。

「……わかんない」
下の女の子が小さく答える。

「なんか、楽しそうだね」
「そうね。きっと楽しい気分なんだよ」

二人の女の子は笑って、それから布団に潜りこむ。



二段ベッドの上の女の子は、ミンミンの妹です。

昔からどこへ行くのも一緒でした。
ぶったり蹴ったり、つねったりのケンカもしました。
朝起きぬけに、ミルク9割のカフェオレも一緒に飲みました。

ことば遊びとか、音に合わせて飛んだり踊ったり、
とにかくいろんな遊びをしました。



夜寝る前、時々隣人の部屋から音楽が聞こえてきました。
聞いたことのない音色に、ちょっぴり怖い思いもしました。

「あ、今日も鳴ってる」
それくらい当たり前になってからは、
音楽の調子を楽しむようになりました。

大音量で異国の音楽を聞いている時は、
「きっとリフレッシュしてるんだな」と思い、
しっとりとした音楽の時は、
「物思いにふけりたいんだな」と思いました。



小さい頃、夜眠れないことが多かった。

真っ暗で何も見えないところから何かが出てきそうで、
ありもしないことを想像しては、お腹を痛めていた。

暗闇は、何も見えないし、音もしない。

何もかもが真っ黒に吸い込まれていくみたいで、怖かった。

だから、静かすぎる夜、
隣室から聞こえてくる音楽が面白くて、
人が過ごしているという気配にホッとして、
それで安心して眠れる日があった。



今、「苦情」の一言で簡単に物事がなくなってしまう時代にいます。

そうやって他人の粗を探し、他人の評価ばかり気にすると、
いつか世界は“無音”になっちゃうかもしれない。



ミンミンは甘ちゃんなのでね、
自分の楽しみをしっぽり味わう人の行為は、
「うん。それ、とってもいいですよ」と微笑みかけたくなるのね。

人間のささやかな賑わいくらい、
家族を眺めるようなまなざしで見守っていたいです。



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