日報 3月22日 隣室の音楽が聞こえた頃
記入者:明明
二段ベッドの上と下には、
壁にぴったり耳を押しつける二人の女の子。
二人は物音一つ立てず、じっと耳をそばだてている。
「……これ、なんだろう?」
上の女の子がつぶやく。
「……わかんない」
下の女の子が小さく答える。
「なんか、楽しそうだね」
「そうね。きっと楽しい気分なんだよ」
二人の女の子は笑って、それから布団に潜りこむ。
二段ベッドの上の女の子は、ミンミンの妹です。
昔からどこへ行くのも一緒でした。
ぶったり蹴ったり、つねったりのケンカもしました。
朝起きぬけに、ミルク9割のカフェオレも一緒に飲みました。
ことば遊びとか、音に合わせて飛んだり踊ったり、
とにかくいろんな遊びをしました。
夜寝る前、時々隣人の部屋から音楽が聞こえてきました。
聞いたことのない音色に、ちょっぴり怖い思いもしました。
「あ、今日も鳴ってる」
それくらい当たり前になってからは、
音楽の調子を楽しむようになりました。
大音量で異国の音楽を聞いている時は、
「きっとリフレッシュしてるんだな」と思い、
しっとりとした音楽の時は、
「物思いにふけりたいんだな」と思いました。
小さい頃、夜眠れないことが多かった。
真っ暗で何も見えないところから何かが出てきそうで、
ありもしないことを想像しては、お腹を痛めていた。
暗闇は、何も見えないし、音もしない。
何もかもが真っ黒に吸い込まれていくみたいで、怖かった。
だから、静かすぎる夜、
隣室から聞こえてくる音楽が面白くて、
人が過ごしているという気配にホッとして、
それで安心して眠れる日があった。
今、「苦情」の一言で簡単に物事がなくなってしまう時代にいます。
そうやって他人の粗を探し、他人の評価ばかり気にすると、
いつか世界は“無音”になっちゃうかもしれない。
ミンミンは甘ちゃんなのでね、
自分の楽しみをしっぽり味わう人の行為は、
「うん。それ、とってもいいですよ」と微笑みかけたくなるのね。
人間のささやかな賑わいくらい、
家族を眺めるようなまなざしで見守っていたいです。