愛のメモリー
名古屋での日々はやっぱり寂しい。友達を作りに行こうなんて社交性は俺にはないしだからといってすることもないしどうせ休みの日には一人でだらだら過ごすことになる。なにもすることがないなら掃除でもしよう。
部屋の掃除をしているとダンボールの中から懐かしいものが出てきた。それには俺とひとりの女の子が写っていた。
確かに俺が愛していた女性だ。
学校生活ではけっこう可愛い女の子が何人かいて、クラスの優等生なあの子とか、クールな後輩とか、天然な先輩とかいろんな人との日々を過ごした。廊下で話したり、放課後一緒に過ごしたりして仲を深めた。
沢山の人たちと交流する中で彼女と出会った。
俺の好みのタイプは一緒にいて落ち着く人だ、彼女はのんびりしててちょっとドジなところがあって甘いものが好き。いいね、あと巨乳。
気づけばあの子とばっかり過ごしてた、朝も、昼も、夜も、学校でいろんなことをした、今思えば一瞬だった気がするけど最高の思い出だ。
それから友人にもサークルの友達にも俺は彼女が好きだということを伝えて回った。彼女と会いたい。彼女に会いたい。
だがしかし俺はこの気持ちを伝えることはできなかった。
壊れるほど愛しても三分の一も伝わらない。
たんたかたんを飲んで部屋の隅でうなだれているとチャイムが響いた。
扉を開けると同じアパートに住んでいた後輩が訪ねてきた。
「これ作ってきたんであげます」
A4の紙には彼女と俺がいた。
そうだ、彼女はアマガミというゲームの桜井梨穂子のことだ。気持ち悪いか?これが俺の正常だ。
梨穂子が好きだ、梨穂子が好き、俺は梨穂子が好きだ。でも愛は次元の壁を超えられないと思っていた。でも違かった。
彼女がこないなら俺から行けばよかったのか。そんなこともわからなかった。でもこんなもの作ってくるなんて相当ひまだったんだな彼は。
大学生活はA4の紙一枚で豊かになった。
寂しい夜も俺の部屋には梨穂子がいる。
梨穂子に支えられて俺の大学生活は過ぎていった。
そんな生活にも終わりがくる。永遠なんて言葉はあるけどそんなものはない。
適当に仕事を決めたら名古屋に行くなんてことになってしまったから梨穂子と過ごした部屋も引き払わなくてはならなくなってしまった。
会社から転勤を伝えられて二週間くらいで新しい部屋決めて役所行って手続きしたり水道止めたりやることが沢山あってばたばたしてた。
引越しの業者がうちに来て荷物の量を調べに来た。いろんなものを捨てたつもりだけどそれでも荷物は多かった。
「大きいものはベッドとテレビと姿見ですかね。あとはダンボールに入ると思うんで送りますね」
業者の人が荷物の量を数える。綺麗な部屋じゃないから知り合いじゃない人を入れるのはちょっとやだな。新しく引越す家は綺麗に使おう。なんて思っていると業者から思いもよらない言葉が聞こえてきた
「あれ?梨穂子がいますね」
いや恥ずっ
壁に貼ってある俺と梨穂子の紙を見られた。なんで外しておかなかったんだ。てかなんで梨穂子知ってんのだ。知ってたとしててもお前より絶対俺の方が梨穂子好きだからな。
「あ、いや、あれ、あれなんです、友達がなんか作ってきて、僕が作ったんじゃなくて、友達が作ってきたんです。アマガミ知ってるんですね、いや、あは、へへ」
たぶんあの時の俺は超キモかった。いやそりゃそうだ、部屋にゲームの画面と自分のコラ貼ってんだもん。クソキモオタじゃんか。俺はオタクではない。いや梨穂子は好きだけどね。
恥ずかしくて本当に顔真っ赤になった。
その後のことはあまり覚えていない。
なんて思い出に浸った。
でもこの紙で名古屋での生活も寂しくなくなるな。だって俺には梨穂子がいるから。