見出し画像

京大生の本棚 part.2~朝井リョウさん「正欲」~

 ものすごい本を見つけてしまいました。読んだときのインパクトで言ったら今まで読んだ本の中でもベスト10、それも上位に食い込むと思われます。
朝井リョウさん著「正欲」です。今年映画化されるらしいということを聞いたので、「どんなもんじゃい」と興味本位で手に取った結果、打ちのめされました。

 「性的マイノリティの人を描いた物語」とよく言われますが、厳密に言うと「『マイノリティ』という言葉の網からこぼれ落ちた人々の苦しみ」が描かれていると思います。

*可能な限りネタバレは避けていますが、できていないところもあるかもしれません。ご了承下さい。

 ここ数年で、亀の歩みではありますが、恋愛・性的嗜好についての理解が深まってきたように思います(もちろん、人々の意識を根本から変えるのは決して容易なことではないので、表面上の話になってしまいますが)。同性愛、両性愛、ポリアモリー、アセクシャルなどなど。LGBTQという言葉もだいぶ普及しました。しかし、あくまでこの言葉で想定されるのは、対象が「人間」であるということ。

 本作で主に描かれるのは、「水」に性的な意味で興奮する人たち。そう、私たちの周りにありふれている、水です。流れる水そのものに魅了される人、水に濡れた人の衣服に魅力を感じる人など多少の差異はあれど、対象が水なのです。

 その嗜好を持つ登場人物の一人が、こう言うのです。
「多様性って言いながら一つの方向に俺らを導こうとするなよ。自分は偏った考え方の人とは違って色んな立場の人をバランス良く理解してますみたいな顔してるけど、お前はあくまで”色々理解してます”に偏ったたった一人の人間なんだよ。目に見えるゴミ捨てて綺麗な花飾ってわーい時代のアップデートだって喜んでる極端な一人なんだよ」

「多様性」。難しい言葉です。そもそもこの言葉自体が、「受け入れる」側の視点なのだと改めて気づかされました。
「多様性の尊重」「理解がある」という言い方がいかに傲慢か。
口ではそう言っていても、想像可能な範囲よりも自分と異なる人間には線を引いて一線を画す。
自分もそうなっているのではないか、いやそうだ…とドキッとしました。

 もう一つ印象に残ったフレーズがあります。
「みんな本当は、気づいているのではないだろうか。…(中略)三分の二を二回続けて選ぶ確率は九分の四であるように、”多数派にずっと立ち続ける”ことは立派な少数派であるということに」という文。
これは先ほど述べた「自分が受け入れる側だと思っている傲慢さ」と重なります。
 皆誰しも、どこかしらで「少数派」である部分を持っている。なぜその事実に目を向けず、「自分は多数派だ」と確かめて自分を安心させようとするのか。
 …うーーん、結末のなんとも言えない後味の悪さを皆さんにも体感していただきたい。それも、初読で。初読でしか得られない衝撃があります。
すみません、どうにも筆が鈍ってかないません。
安易に勧めることははばかられるものの、いつかきっと、読んでほしい。そう思える作品でした。

 

いいなと思ったら応援しよう!