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京大生の本棚part.6〜凪良ゆうさん「流浪の月」〜

「汝、星の如く」が私的大ヒットだったので、同じ作家さんのこちらの作品も読みました。
この作品は本屋大賞受賞作でもあり、映画化もされています。

画像引用元:https://st.crank-in.net/sgtk/news/99546


 いや~、誰にも理解されない純情を描くことにおいて凪良さんの右に出る者はいないのではないかと思いました。というわけで、あらすじと感想を書いていきます。

あらすじ


 傍から見たらちょっと変わっているけれど、愛情豊かな家庭でのびのび育った少女・家内更紗。しかし父が病気で亡くなり、母は恋人ができて家を出て行ってしまい、伯母に引き取られることに。しかし毎日のように伯母の息子・孝弘からの性的いやがらせを受け、彼女の心はすり減っていく。
更紗は「家に帰りたくない」という思いを強くしていった。
そんな時、いつも更紗が友達と遊んでいる公園にちょくちょく現われる青年・佐伯文から声をかけられる。
「うちにくる?」
その言葉は更紗にとって恵みの雨のように降ってきた。文は一切変なことをせず、更紗に居場所を作ってくれた。
しかし世間はこれを「誘拐事件」と呼んだ。

 誰にも分かってもらえなくても、それでも貴方のそばにいたい。
 恋愛でもないし、家族愛とも違う。この関係は、この感情は、何と呼べば良いのだろう。

…というのがあらすじです。
この作品を読んで、特に心に残ったことを3つの要点にまとめます。

①「善意」「正義感」という刃


 「事件」が解決してからも、更紗は苦しみ続けます。でもそれは、「誘拐」されたことではなく、周囲の「心配」「気遣い」によってです。
 ーー大変だったね、傷物にされちゃったのね、etc.。
 これは、当事者二人にとっての「事実」とはかけ離れたものです。


 更紗は、従兄弟からの嫌がらせから逃げたくて、自分の意志で文についていきました。
文は、更紗の尊厳を奪うようなことはカケラもせず、それどころか衣食住すべての面倒を見てくれ、自分の生活リズムを強制する事もせず、居場所を作ってくれたのです。
 こういう言い方はしたくないのですが、「誘拐」した側とされた側が異性であったのも災いしたのでしょう。
 更紗がどんなに「文は優しかった」「何一つ変なことはされていない」と訴えても、「洗脳されている」「ストックホルム症候群」と断言される始末。
そればかりか、あることないこと書かれて「醜悪な源氏物語(紫の上を引き取った光源氏)」とまで言われてしまいます。
 「善意」「思いやり」「気遣い」は、時として刃になります。
 更紗は、諦めたのです。否定すればするほど「善意」という名の刃でグサグサと傷つけられることを悟り、受け流すことを覚えてしまいました。

バランスを取ることを諦めた人。


 思い込みというものが、本人の意見も聞こうとせずに決めつけることがいかに人を傷つけるか。それをまざまざと描き出しています。

 本人が「思いやり」のつもりでも、相手が「それは違う」と思ってしまったらそれは優しさでも親切でもありません。ある種のいじめとも言えます。
 相手が話したがらないのに真相を聞き出すことは勿論やってはいけませんが、断片的な情報(人にしか分からない事情や背景もあるでしょうから)しかないのに断定することは傲慢ですし、残酷ですらあります。

 一線を引いて、立ち入らないことが優しさになることもあるのです。

②デジタルタトゥーの恐ろしさ


「デジタルタトゥー」とは、

デジタル情報(文字や画像、動画など)がSNSやブログ、検索エンジンを含むインターネット全般に公開され、将来の自分にとって不利益な情報が残り続けてしまうこと

引用元:https://www.softbank.jp/sbnews/entry/20230118_02

です。
 この物語では、文が逮捕される映像と、その文の名前を泣きながら呼ぶ幼い更紗の映像がそれに当たります。

 更紗は、「行方不明女児」として名前や顔写真がニュースなどに出ていたため、職場で「もしかして…」となることも少なくありませんでした。
 つねに「あんな目にあったのにしっかりしている子」というレッテルを貼られるのです。

画像はイメージです


 文も翻弄されます。文は「事件」当時19歳と未成年だったにもかかわらず、ネットの特定厨によって本名や家族についても暴かれてしまいました。

画像はイメージです


ひっそりと第二の人生を歩もうとするものの、この過去が邪魔をするのです。不幸中の幸いと言うべきか、文と関わる人全員が気づく訳ではありませんが。
 しかし、「ばれたらどうしよう」という恐怖の中で生きていかなければならないのもまた別の辛さがあります。

③「一人でいること」は不幸とは限らない


 筆者が今期楽しみにしているドラマの一つ「いちばんすきな花」でも出てきますが、私たちには「二人組」を作らされる機会が多くあります。

結婚や恋人関係だけでなく、学校でも「誰か選んで二人組を作って下さい」と言われることがありましたよね。
 でも、うまく二人組を作れない人も存在します(筆者もそうです)。なんかあぶれてしまったり、「他の人が良かった…」となったり。

 そういうときは、無理をして二人組にならなくても良い。一人でいるという選択もあるんだよ、そしてそれは不幸ではないよ、と肯定してくれるのです。特に好きなのは、この文章です。

「ひとりになることがずっと怖かったし、今も怖いままだ。なのに今、同じくらい自由な気分だ。(中略)構うことはない。ここはわたしだけの場所で、誰もわたしを見てはおらず、わたしはひとりなんだから。」

「流浪の月」より

 誰かと一緒にいると安心するけれど、その人との関係生について悩むこともある。一人でいると孤独で怖いけれど、自由で気が楽。どちらにもそれぞれ長所と短所両方がある。
 だから、どちらが優れていてどちらが劣っているという話ではない。  

 落ち込んでいるときに飲むホットココアのように沁みました。

あとがき


 この本の表紙に映ってているのはアイスクリームです。おいしそうですね。
作中でアイスクリームがちょくちょく登場します。

 筆者はこれを「あえて『ちゃんとしない』こと」の象徴かなと思いました。

 これについては色々ご意見あると思うので、
皆さんもぜひ実際に読んでみて、考えていただきたいです。

 この作品は、ストーリーが難解というわけでも、ものすごく伏線回収があるという類いの作品でもありません。

 しかし、もしあなたが「周りから理解してもらえない(理解しようとしてくれない)」、「なんか生きづらい」「ぼんやりとした不安がある」そう思っているのならぜひ手に取ってほしいです。
 きっと、寄り添ってくれるはず。

 最後までお読み下さり、ありがとうございました!
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