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「チ。」という琴線に触れる作品(オタクの活動について)
「べらぼう」「御上先生」と並び私が楽しみにしている三大柱のひとつ、「チ。ー地球の運動についてー」。
毎回毎回刺さる言葉が出て来るので記事作成が追いつかない。しかしここで思ったことや感じたことをもう一度まとめてみたいと思います(「名言集」は過去記事参照)。
アニメを完走したらまた全体の感想を書きます。なお、私はアニメ最新話まで見ているので一気見勢の方はブラウザバック推奨です。
まず触れなくてはいけないのは、ノヴァク・ヨレンタ親子でしょう。
アニメ20話「私は地動説を愛している」を見ながら私は悲鳴を上げました。
ノヴァクはある意味、良くも悪くも素直すぎるんですよ。
前の司教が宇宙論に厳しかったから何の疑問も持つことなく地動説論者を始末してきた。アントニがヨレンタの死を偽装したときも、その背景にある思惑を邪推することなく、そのまま信じてしまった。
時代や身分が違えば、「ちょっとけだるげだけど仕事のできるおじさん」だったはずなのに…
「人を異端と呼び、拷問し、殺すならその理由に正当性があるのか説明できるくらいは調べろ。行動に責任を持て」
というアントニの言葉が痛い。
これ、伏線みたいなものは張られていたんですよね。
バデーニさんが地動説について書かれた文書の石箱を見つけたときに「解釈によっては公表も可能か?」と考えていたり、捕縛されたときに「どの程度異端なんですか?」と質問しようとしていたり。
まあ、担当したのが娘溺愛・異端を絶対許さないマンのノヴァクだったので交渉の余地もなかったわけですが。
ただ、ノヴァクの娘への愛情って「かわいい娘」でしかないというか…
ヨレンタが幾何学に夢中になったり天文の助手になっていることそのものを歓迎するというよりも、「娘が楽しそうだからいいか~」と思っているように見受けられるんですよ。
娘の知的好奇心や、真理を追い求める情熱をどこまで理解できていたかというと怪しい。
ヨレンタが地動説に巻き込まれて死んだ(と25年間思い込んでいて)、異端解放戦線の情報を聞いて突撃するときも、「娘の敵を討つ」とかたく決意していました。
しかしその組織長が実は生きていたヨレンタで、自分たちが乗り込んだことで「本当に」亡くなってしまったというのが苦しい。苦しすぎる。
あのときノヴァクは気づいていたんでしょうか?
爆発の瞬間、「今、一瞬…」と言っていた気がするのですが、もしかして「ヨレンタが見えた」と言おうとしたんでしょうか。あああ…
ノヴァク、悪役ポジのキャラの中でもトップクラスに完成度が高い気がします。
地動説論者を含む異端者を容赦なく葬るけれども、その背景には「大切な娘が生きる世界を守る」という父性があった。
娘が神に対して恨み言を言ったときは、神への崇敬よりも「目の前にいる、泣いている子どもを慰める以上に大切なことはあるだろうか」とC教に対して疑問を持つシーンさえあった。
だからノヴァクにとっては、本当にヨレンタこそが生きる理由、指針だったと言えるでしょう。
だからこそ、ヨレンタが死んだ(嘘)と聞かされたときは生きる希望を失ってしまった。
正直これについてはノヴァクも思慮が足りなかった気がします。
娘が関わっていた人が異端だとされた場合、娘にまで捜査の手が伸びるかもというリスクを一顧だにせず、「娘に異端が近づいた」という怒りで突っ走ってしまった。
あるいは、「自分の娘は大丈夫」と信じていたんでしょうかね。なんかそういうバイアスがあった気がします(なんて言うかは失念しました)。
この作品におけるノヴァクは、「知性」に対峙する存在、もっと言えば裏主人公として描かれているのではないでしょうか。
そしてヨレンタさん。
うっすらネタバレを食らっていたので組織長だということは存じていましたが、あんなに格好良くなられて…
14才と若く、歯が抜けていることで(しかも前歯なので口を開けたら見えてしまう)「まともではない」感を漂わせた女性が一人で生きていくには、想像を絶する困難があったことでしょう。これでもかというほど辛酸をなめてきたはずです。人を殺めることもあったでしょう(本人も言っていました)。
「ついてない、ついてない。そろそろ神様も見放す」とオドオドしていた少女の姿はどこにもありませんでした。圧倒的風格。
ドゥラカに「なぜ本を燃やしたの?」と問い、「その本はおそらく、私の古い友人が書いたものだ」と言ったときに限界オタクである私は泣きました。
ドゥラカが本の内容を音読するのを聞いているときに、オクジーの後ろ姿が見えたことで涙腺がさらに決壊しました。
こんなん感涙に咽ぶしかないじゃん…まさに「文字は奇跡」。
オクジーはもう亡いけれど、彼が地動説に出会った感動は消えない。文字に残すことで永遠になる。彼の残した日記を読めば、今オクジーが目の前に居て、話しかけてくれているように思えるのだと。読書はいいぞ(号泣)。
そして大人ヨレンタさんの御言葉はぐっとくるものが多すぎる。長いですが紹介させてください。
・「人は先人の発見を引き継ぐ。それもいつの間にか、自然に、勝手に。だから今を生きる人には、過去の全てが含まれてる。なぜ、人は個別の事象を時系列で捉えるのか。なぜ、人は歴史を見いだすことを強制される認識の構造をしているのか。私が思うにそれは神が人に学びを与えるためだ。
つまり歴史は、神の意志の元に成り立ってる。」
・「創世記50章に書いてある。『神は、この世にある悪を善に変える』。それが神の意志。神は人を通してこの世を変えようとしてる。長い時間を掛けて少しずつ。とどのつまり、人の生まれる意味は、その企てに、その試行錯誤に、『善」への鈍く果てしないにじり寄りに参加することだと思う。悪を捨象せず飲み込んで直面することで、より大きな善が生まれることもある。悪と善、二つの道があるんじゃなく全ては一つの線の上で繋がっている。そう考えたらかつての憂き節さえも何も無意味なことはない。でも、歴史を切り離すとそれが見えなくなって、人は死んだら終わりだと有限性の不安におびえるようになる。歴史を確認するのは、神が導こうとする方向を確認するのに等しい。だから過去を無視すれば道に迷う」
もうこの台詞だけで充分ですし、私が何か言うのも野暮で蛇足だと思うのですが、歴史好きとしてはもう感動ものの言葉でした。
歴史を知っても、即座にお金になるわけではない。しかし、歴史を学ぶことで人類がどこに向かおうとしているのかを知ることができるのです。
歴史を確認すること、学ぶことはまさに「人間を人間たらしめるもの」とも言えるのではないでしょうか。
「歴史認識は私の選択(けつだん)に関わるから」とヨレンタさん。
父・ノヴァクは異端審問官で、自分は全く異なる道を歩んだこと、そして今の自分が父と対峙したらどうなるか。
考えただけで人生最悪の瞬間で(この言い方からするに、ノヴァクは娘に愛情を注ぐ良いパパしていた事が分かるんですよね…切ない)、混乱して平静を失うだろうと。
しかし彼女は続けます。
「でもその時にこそ正しいと思った選択をしなきゃいけない。きっとその一瞬の選択のために、私の数奇な人生は存在する。積み上げた歴史が動揺を沈めて臆病を打破して思考を駆動させて…いざってときに退かせない。全歴史が私の背中を押す」
若き日、「いざってときに退いたら終わりだよ」と先輩に言われたことに対して自分なりの答えを見つけたんですね…
この直後に騎士団(ノヴァク含む)が襲来します。
ヨレンタさんが空を見上げると、過去の思い出が浮かんでくるところでまた泣きました。よく見ると、大半がオクジーやバデーニたちと研究していたころのものなんですよね…
あの二人との別れが、ヨレンタさんにとって青春の終わりだったんでしょうか。
今でも青が棲んでいる。
松明の明かりで、ヨレンタさんはノヴァクを視認していたように思えます。
まさに「人生最悪の瞬間」、しかし彼女は臆することなく火薬に着火。自分もろともアジトを爆破しました。
まず自死というだけでタブーなのに、爆発するから身体が残らない。つまり、審判の日に復活できない。もちろん彼女はそれを分かった上で決行したのでしょう。
誰にでもできることではない、むしろ尻込みする人が圧倒的多数。相当な覚悟が決まっていないと…
「断じて行えば鬼神もこれを避く」。彼女の覚悟に騎士団も恐れをなして退きました。
芯の強い女性に弱い私は、見事なまでにヨレンタさん推しになってしまっていたのに。
推しが命を散らすのはこれで三人目…そういう定めなのでしょうか。
もうちょっと書きたかったのですが、ノヴァク・ヨレンタ親子を語るだけで3000字くらい書いてしまったので、後日の自分に託すことにします。