僕ら何度でも失い続ける。
人と物と正気が波に攫われる夢を見た。
気付いた時には、すでに何も無かった。
自暴自棄になった少女は、喉から家畜の鳴き声のような振動を発して泣き叫び、タバコの吸殻と砂が入り交じった透明なビニール包装を太腿に叩きつけ、左手に濡れたカバンと右手に守られた一眼カメラを抱え、次に来る波と砂地の境で足を止めていた。
脚だけが濡れた僕は、彼女を砂地へと引いた。その全身からは、彼女の生への希望が受動的なものでしかないと感じさせる、動力の葛藤が漂っていた。
生かされたいと呟く上肢。生きたくないと地を噛む下肢。
目が覚めると、彼女の残響だけが耳を支配していた。
彼女を救えたのかは分からない。
救えたのなら、きっといつか、彼女は彼女なりに悲しみを解釈し、彼女なりに昇華する。
彼女はまだ20代前半といったところだろうか。
僕たちは、これから何度でも喪失を経験する。失うものなんて、なくてよいのに。