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コロコロ変わる妊婦の好き嫌い

小さな小さな命を授かった。

まだ数ミリしかない命が、頑張って心臓を動かして生きているのをこの目で見たとき、純粋にうれしくて、「すごーい!!」という言葉しか出なかった。見てはいないけど、きっとあのときの私はキラキラした目をしていただろう。

病院を出たあと、迎えに来てくれた夫となんの恥ずかしげもなく駐車場で抱き合った。すごいね、生きてるよ、おめでとうだねって。

噂には聞いていたけれど、命を授かると不思議な現象がたくさん起こる。
夜はもう冬のような気温なのに、毎日暑くて目が覚めたり、夜中に何度もトイレに行ったり。幸いにも、まだ吐き気をもよおしたり、匂いがだめになったりということはないけれど、寝起きは毎朝胃がムカムカ。そして、とにかく眠い。だるい。体が変化しているんだ生きているんだと、何か反応があるたびに楽しんでいる自分もいる。

今現在、一番大きな変化は『食べ物の好み』だ。
高校生のころ、実家で「梅干し食べたい」とか、「なんか酸っぱいもの食べたい」と大声でつぶやいていたとき、「あんた妊娠してんじゃないの?」と母に冗談を言われたことがあった。今の私はまさにそれなのだ。

食欲がないときは、梅干しおにぎりが食べたくなる。あと、グレープフルーツジュースとゼリーなら食べれる。さっぱりすっきりしたくて仕方がない。一方で、食欲があるときはとにかく味の濃いものが食べたくなることがわかった。

検査薬で陽性の判定が出たとき、東京から遊びに来てくれた夫のお母さんと2人でイタリアンを食べに行った日のこと。普段の私は、ピザはマルゲリータ、パスタはトマトソース系が好きなのだが、その日は自然と避けていた。
「どれ食べたい?」とお母さんに聞かれて指差したのは、アンチョビのきいたパスタやニンニクたっぷりのペペロンチーノ。
「ガツンとくる味欲してるんだね!」と、私の体の変化を一緒に喜んでくれた。

一番驚いたことは、ラーメンだ。
好きだという人が多い中、私はそんなにラーメンが好きではなくて、食べきれないし、すぐに飽きてしまうし、食べたくなるのは本当に年に1回くらいかもしれない。ラーメン好きの夫には申し訳ないが、一緒に食べたことも一度しかない。そんなラーメンを無性に食べたくなってしまったのだ。

夫とショッピングセンターへ買い物に出かけた日。その日は「オムライスが食べたい」とつぶやいた。デミグラスソースがかかったふわとろオムライスを想像しながら、車の助手席に乗ってカフェに向かっていたはずが、突然「オムライス食べたい。なのに気持ち悪い。」血の気が引いていくような感じがしたのだった。

無理をしていくものではないと、夫は自宅方面へと車を引き返し、何か買ってくるから待ってて!!と自宅の駐車場で私を下ろした。

気持ち悪い、でもお腹空いた、でも何が食べたいかわからない。横になって待っていると、いろんな食べ物を買い込んできた夫が帰ってくる。
どれ食べる!!と、希望していたオムライスに、私の好物とろろそば、お豆腐のサラダ、鍋焼きうどん。食卓がバイキング状態になった。

不思議なことに、どんなに気分が悪くても食べ物を目にしたら食べてしまうもので、念願のオムライスを黙々と食べた。

食欲が湧いてきて、お蕎麦をちょこっと食べはじめたとき、さらに私の食欲を刺激する匂いがしてきた。それは、夫の好物、味噌豚骨ラーメン!!!
食べたい!!!オムライスよりも、お蕎麦よりも、目の前で夫が食べているラーメンが食べたい!!!と、一口貰うともう離れられなかった。食べかけのオムライスと、お蕎麦と引き換えに、私は夫のラーメンをほとんど1人で食べてしまった。

しまいには、飲み干してはダメだと我慢しつつも小さなスプーンでスープまで飲んでいた私。そんな私の変化を見て、夫は非常に笑っていた。すごいねって。
もしかしたら、我が子は夫のラーメン仲間になるのかもしれない。スープを舐めながらふと思ったのだった。

それから体調が優れない日は、夫と一緒にラーメンを食べにいくようになり、こうして今食べたいものを少しずつ開拓している。

ラーメンを好きになる日が来るなんて予想もしていなかったが、命が宿るとこんな変化があるんだと、小さなことでも変わっていく自分を愛おしく感じるようになった。今日はこんな変化があったとか、明日はどんなことが起きるんだろうとか。

自分のお腹の中でもう一つ心臓が動いていると思うと、まだまだ不思議な気持ちでいっぱいだけど、どんな変化も受け止めるから、健康に元気にすくすくと育っていってね。


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