第七期ゲンロンSF新人賞梗概の感想
こんにちは、ゲンロンSF創作講座第六期受講生の牧野です。今年もゲンロンSF新人賞の時期になり、講座サイトに梗概が投稿されました。梗概に感想がほしいと思ってる方もいると思うので、ほんの少しだけ役に立てるように感想を書きます。ほんとにほんのすこしだけです。私は小説は本体がおもしろければそれでいいと思ってるので、梗概でぱっとしなくても小説さえおもしろさが炸裂していたらそれでいいと思います。なので、この感想は気休め程度に見てください。小説がおもしろければそれでいいです。
去年の受講経験からの観点でいうと、最終候補に残った作品はどれもセールスポイントがあるものだと大森さんが言っていました。新人賞受賞作としてゲンロンの雑誌に載って商品として売るので、ここにきて商品的価値が問われてきます。作家の方それぞれスタンスがあると思いますが、気にしたことがなかった人は、読んでくれる人のことを喜ばせるのを気にしてみるといいかもしれません。でもほんとは書く人の自由です。
梗概一覧は下のページに載ってます。
朱谷『遺されたもの』
AIを使って作品を完成させるという今時のテーマの作品。でももうちょっとフックになるポイントがほしいかも。私が小説すばるAI特集とか読んだので、印象が埋もれてる感。うまくまとまってるが、とがってる作品とならべられたときに不利そう。
みよしじゅんいち『鱗禍』
自己複製子でバイオハザードみたいな話。自己複製子でやばいことになるのがおもしろい。科学部分は最高なので、人間ドラマ部分が実作でおもしろいかどうか。
雨露 山鳥 『旧名沢スカイランドの観覧車について』
観覧車が人と植物の異種交配の子供だったという話。鉄を生み出す植物の設定がおもしろい。ただ、人間の意図を読み取る知性で色々作れるというのが都合がよい感。設定部分と、人が観覧車とのミックスだったというオチの嚙み合いも気になる。法螺話にはなっているのでその法螺話を読者に信じさせればGood。
藤 琉『聖武天皇素数秘史』
陰陽師で素数バトル。組み合わせと単語の見た目がおもしろい。ただ、単発のおもしろさで終わってる感があるので組み合わせた時の物語の飛距離がほしい。
岡田麻沙『【ユーザーテスト報告書】プロトタイプ「ニンゲン」』
超越者が人間に乗り移って生活する実験の報告書。梗概が作品になっているので、これを実作にした時にどうなるか。超越者あるある的な小ネタが読みたい。物語の終盤に人間の物語へとねじれていけばSF的な飛距離が出せそう。
瀬古悠太『ふたりの一等星』
死んだ姉の脳を移植したロボットとともに宇宙ミッションする話。ストレートな話なのでとにかくキャラの魅力が重要になる。宇宙兄弟の月面ミッションの話を超えられるかどうか。
やらずの『壊胎』
地球外来植物によって発展する世界で娼婦の取り調べをする話。娼婦仲間への恋心グッド、すばらしい。植物の秘密がすぐに分かりそうなのに知られてないところがケア必要そう。
夢想 真『隣接世界』
読んだことないけどティンダロスの猟犬みたいな話だなと思った。そのまますぎるので変えたほうがいいかだけど、現代版にできるならありかも。
真崎麻矢『永い夢の途上』
書きたいものがたくさんあって伝わらなくなりそうなので、書きたいものの中から読者に伝わってほしいものを抜き出して要素をしぼったほうがよいかも。映画のおすすめをきいたら10本おすすめされた感じなので、ほんとに見てほしい1本をえらぶみたいなイメージ。
広海 智『政治家業はAI影武者と二人三脚! どうかわたし(達)に清き一票を!』
AIを使って選挙に奔走する話。うまくまとまってるけど、AIがおもしろチャットbot程度の扱いなのでSF的飛距離が足りず、セールスポイントが弱いかもしれない。タイトルが文章で覚えられない。短いメインタイトルをつけて今のをサブタイトルにするなど変更が必要そう。
蚊口いとせ『一任された身体』
寄生虫を脳にすまわせて認知症になる前の行動を母にさせる話。とにかくいやーな感じでグッド。最後もグッド。すらーっと話が進むので、読者を驚かせるみたいな、体がふわっと浮くような(読者の感覚の話)ポイントが一箇所後半にほしい。
ゆきたに ともよ 『へびむこいり』
宇宙蛇みたいなのに娘が種付けされる話。伝記物っぽいのだが、おもしろさのポイントがどこにあるのか梗概だと分からなかった。最後ギャグっぽいオチなので、中盤も笑えるように膨らませるといいのかも。
木江 巽『ミスターボトルシップ』
悲惨な事件の生き残りの老人のもとに警備会社から主人公が派遣されていく話。選択肢が提示されないと何をやればいいかわからなくなる、という部分がおもしろいが、それが物語に活きているのかどうか梗概だと分からない。セールスポイントがほしい。
渡邉 清文 『新しい殻にも言葉は残る』
世界観がかなり濃密でおもしろそう。あとはストーリーをおもしろくかけるかどうか。ちゃんと書けたら飛距離が出そう。タイトルがこれでいいのかどうか気になる。
岩澤康一『アンバベル』
おもしろそう。梗概だと飛距離があと一歩足りないので実作で押し込みたい。
文辺 新『フォーク、コミット、マージ』
人生を分岐させて結果を確かめたいという欲をテーマにしたのはSF的にかなりよさそう。ただ、主人公がバーチャルの存在なので、生身の存在である読者からするとその欲望がうまく満たされず肩透かしを食ってしまう感がある。
大庭繭『まばたきに触れて』
大庭さんのこれまでのテーマをたくさん乗せたような話。全然参考にならない直感の話として、要素が一個多いせいでカクついてるかもしれない。とにかく好きなもののディティールを書き込めればグッド。
宮野 司『ダディな日』
風刺を夢オチでやるという感じで、新人賞としては物語パワーが足りないかもしれない。キャラの魅力とかストーリーの起伏とかがほしいかも。
森山太郎『1分子漫画家』
ワームホールというSF設定でアニメを作る話で、すごく大きいSF設定から期待してしまうストーリーと、アニメを作るのに四苦八苦するというお仕事小説なところがずれてしまって不満を持ってしまう。お仕事小説であればキャラが困難に立ち向かうというところがおもしろポイントであるが、SF設定はそれを増幅させるために使いたいところ。
中野 伶理『那由多なゆたの面』
とにかく終盤のシーンの恍惚の感覚を、納得とカタルシスと飛距離を持って書けるのかどうか。序盤、中盤からその終盤のカタルシスを高めるために一歩づつ地盤を固めるように書きたい。強そう。
国見 尚夜『我が子のためなら』
精神世界に入って秘密を知るという、インセプションとかパプリカみたいな話。精神世界のイメージが建造物になってるというのを小説で納得を持って書くのが難しそう。ちゃんと書けたらいけるが、飛距離が出るかどうか。
小野 繙『エイリアン・ナイト』
アラビアンナイトファンとしてかなり期待。梗概でおもしろい。
矢島らら『テンセグリティの吸血鬼』
テンセグリティらしさを物語と接続できるかどうかが肝心。ただの謎の球体で物語が成立するのならテンセグリティじゃなくてもいいかも。
谷江 リク『形式言語と区分機のユートピア』
色々事件がおこっておもしろい。倫理を形式言語で記述するというのの説明部分がいかに納得とおもしろさを持って書けるのかどうかが重要そう。ウィトゲンシュタインみたいなのを期待してしまう。
鹿苑牡丹『SOMEONE RUNS』
一人称小説として書けたらかなりおもしろそう。小説自体が、主人公が出力したものであるというメタフィクション部分がむしろ邪魔になりそう。構造としてはぎゅっとすまとまるんだけど、そのせいでフィクション感がまして飛距離がでないというか。
三峰早紀『波打ちと芝生』
思弁的な世界設定からサイバーな物語がはじまってかっこいい。ニューエイジ感があっていいのでこのかっこよさと神秘感を爆発させてかけるかどうか。修行シーンとかほしい。梗概だとシェインが誰だか分からなかった。タイトルの芝生がなんなのか分からなかったが、もっとタイトルにサイバー感がほしい(安直だが『ウェーブ』とか)。
池田 隆『ナミとナキ』
ソフトウェアオブジェクトのライフサイクルと同等の小説パワーが出せたら傑作になる。ナミとナキがどっちがどっちか覚えられないので、名前を全然違うものにしたほうが分かりやすいかも。
多寡知 遊『旅する猫と、詐欺する男の噺』
タイトルがスペースオペラっぽくない気がする。二人で困難を乗り越えるようなエピソードがほしい。そうしないと絆が深まらない。
坪島なかや『今はいない滅びゆく神へ』
物語のおもしろポイントが梗概だと分からなかった。新しい人類みたいなのが生まれてくる理由の説明がほしい。
以上です。