SF創作講座第7期第1回提出梗概感想

こんにちは、まきをです。最近お腹まわりが気になり出したので炭水化物と甘いものを控えるようにしています。いわゆるダイエットですね。英語のDiet(ダイエット)には食事制限という意味のほかに国会という意味があります。国立国会図書館はNational Diet Libraryです。なんだか、国によって食事制限されてそうな味気ない雰囲気が出てしまいますよね。ぜひとも図書館には肥えていてもらいたいものです。

さて、SF創作講座に提出された梗概への感想を書きたいと思います。
第1回の課題は「宇宙、または時間を扱うSFを書いてください」です。宇宙SFを書くか時間SFを書くか、はたまた両方を登場させるのかは作者に委ねられています。

作品は講座に通ってない方でもこちらから読めます。

https://school.genron.co.jp/works/sf/2023/subjects/1/

私の理解と勉強も兼ねて勝手ながら荒いあらすじをつけました。間違えてる部分やまとめすぎな部分があると思いますがご容赦ください。

人間一人分の感想なので参考程度に見てください。

朱谷 月の時計

あらすじ:
戦争で少女を殺したことをトラウマに持つ老人は月に移住する。過去への一方通行のタイムトラベル技術によって、トラウマを拭うため老人は過去へ旅立つ。老人は少女を戦火から救い、月での生活に使っていた時計を渡す。時間が経ち、かつての少女は月へ旅行に行くと老人からもらった時計に似たものが売っている。老齢になった少女は、あの老人に会うためにタイムトラベル技術によって会いに行き、老人を許す。少女の世界ではタイムトラベル技術は一方通行ではなく、未来へと帰っていくのだった。

よいところ:
タイムトラベル先の世界のタイムトラベル技術が元世界とは違っているという設定。助けられた少女側が同じようにタイムトラベルしてくるところ。タイムマシンのおもしろさは同じ場面に戻ってくることがその一つにある。

気になったところ:
月の時計および月で生活していることが物語的に活きてない感。タイムトラベルと月面の生活の二つの要素が独立してる感。

みよしじゅんいち 鏡像宇宙

あらすじ:
月の天文台で働く主人公は、地球の天文台の職員とボードゲームに興じる。形成が不利になったのでタイムリープ装置を使って元に戻す。そのとき天文台の警報が鳴る。六千兆個の天体が同時に爆発した。爆発は巨大な平面の上でなおも続き、ゆっくりと回転している。爆発は半年以内に地球に到達するだろう。別の宇宙との境界が平面であるとの仮説から、宇宙同士が対消滅していることが分かる。世界はパニックに陥る。そこで主人公は警報が鳴る瞬間にタイムリープして警報を止めることにする。

よいところ:
宇宙を舞台にした幾何学的な描写が素晴らしい。平面や回転といったイメージやすい単語をうまく使っている。

気になったところ:
タイムリープの設定がゆるく、ストーリーに落ちをつけるためのとってつけた感がある。ストーリー構造は時間SFなのだが、やりたいのは宇宙が幾何学的に破滅していく方っぽい気がするので後者に振り切ったらよいのではないか。
思いつきのような仮説から真実であると確信するまでの経緯がない。たとえば、うっすらと見えるものとして鏡像の宇宙を登場させ、ビジュアル的な納得度を高めたらどうか。

雨露山鳥 法華経異聞

あらすじ:
仏教帝国が銀河系を支配する時代、釈迦の弟子である舎利弗は宇宙の果てを目指して解脱をしようと考えるが、釈迦AIはそうではなくブラックホールを利用せよと解く。ブラックホールへ飛び込んだ舎利弗は全てを思い出す。ブラックホールの先は別宇宙であり、釈迦AIは全ての宇宙を救うべく弟子たちを利用していた。大乗仏教の真髄を味わった舎利弗は満足感を味わう。

よいところ:
おもしろい。輪廻転生と別宇宙が組み合わさった設定のおかげで宇宙SFなのにループもの的な時間SFにもなっている。ループとしては今回の一回分しか描かれないわけだが、これまで、そしてこれからも無限に繰り返していくことへの想像が広がる。

気になったところ:
ブラックホールの角速度を大きくすると裸の特異点が現れるというところの理屈が分からなかったけど、おもしろいので問題ない気もする。

白方葵 炎天下

あらすじ:
祖父の葬式で地元に帰っていた悠一は和雄と名乗る男を見て二十数年前を思い出す。
悠一と友人の貴史は廃工場の裏で見つけた不思議な生き物にジョーと名付ける。ジョーに指先を吸われると記憶が一週間飛び、ジョーは大きくなる。ガキ大将の和雄にジョーを奪われるが、和雄の様子がだんだんおかしくなる。和雄の家に行くと大きくなったジョーがいて悠一と貴史はジョーを奪って廃工場へ行く。空には無数の銀色の生き物がいて、ジョーはそれに合流する。
現代の和雄は、あの生き物はいなくなってしまったという。それから悠一は時間感覚がはやくなり物忘れがひどくなる。視界の隅に銀色のものが映る。

よいところ:
銀色の得体の知れない生き物を愛でる和雄の不気味さ
炎天下というタイトルの通り、暑い夏の感じで実作を書いてほしい

気になったところ:
最後の落ちが、ストーリーラインとの論理的なつながりが弱くて納得度が低い。

藤琉 ヤりたいだけじゃん?

あらすじ:

新種のウイルスにかかったミイナは概日リズムが月と同じになる。
霊と月の民が戦っているのを目撃し、昔セフレだったくろちん(霊)と出会い霊の拠点である井の頭公園へ行く。月の民は東京へ入植するために戦争を仕掛けてきて、ミイナは概日リズムが月と一緒になったので月の民が見える。
ふとした瞬間ミイナはくろちんと触れ合い犯されそうになる。抵抗するとくろちんはごめんと言って去る。
ミイナは月の民との調停交渉に向かが、月の民の将軍と面会した瞬間気を失い、目覚めると月にいて月の民と幽霊に囲まれている。幽霊のくろちんから告白され受け入れるが、くろちんは消える。月は霊が宇宙へ帰る場所だった。
ミイナは目を覚まし、霊が宇宙へ帰る場所を東京に作ることを提案し、将軍は合意する。

よいところ
書きたいことがあふれてる。創作するにおいては大事。

気になったところ
あふれてる書きたいことの整理がついてない。ただ、そのまま突き進んでもいいのでは、とも思う。
アピールポイントに書いてある「もし24時間周期ではない律動を持つ人間がいたら」という着想は、実際そういう人はいるわけであまり有効じゃなさそうではある。さらにそれに対する回答が「月の民が見える」といのは、問いと回答の論理的なつながりが弱い気がする。「もし月の民がいたら」に対する回答として「概日リズムが同じ人には見るこができる」だったら、つながってる気がするので、問いと回答が転倒してるように感じる。
また、「人間が月の資源開発(環境破壊)を進めることで失うものがあるとすればなんだろう」に対して、どういう回答が用意されたのか、私の読解力では分からなかった。「成仏できる場所」というのが答えだろうか?

岡田麻沙 信ずるに足る末裔

あらすじ:
タイムトラベルが普及した時代、自らの末裔らによるマルチ商法が社会問題になっていた。
認知症の母が末裔のマルチ商法にやられ、末裔ミュートパッチを母に導入するか悩む。

よいところ:
設定がすばらしい。ひきもある。タイムトラベルがあったときに発生する社会問題として作り込まれていて、人間性を描くために広大な余地のある設定で、こういうのをどんどん書けば一冊できそう。

気になったところ:
現状は話のあらすじではなく設定の作り込みに終始してまっている。設定はおもしろいので、ぜひ実作を書いていただいて、設定とストーリーの違いを体感していただきたい。

廣瀬大 青猫奇譚

あらすじ:
ドラえもんが使った道具の数とのび家での経過時間の整合性がつかないことに気づき、過去が並行世界的に存在していることが分かる。
植物を擬人化できる道具で大木と話したドラえもんは、世界がシミュレーションであることを知り、大木は時間に関する真実を語り、ドラえもんは停止する。

よいところ:
チャレンジしたいことがあるところ

気になったところ:
SF創作講座で二次創作をすることについて。
チャレンジに技術が追いつないないことを自覚しており、かつそれを自信なさそうに提出しているところ。読む側としては、作者が自信なさそうにしているのをわざわざ読もうとは思わないので、虚勢でいいので自信を持って書いてほしい。
世界の真実を賢者みたいな存在が語って終わるので、ストーリーに動きがない。

瀬古悠太 アインシュタイン・タイム

あらすじ:
体感時間を延長させる時間剤が開発された未来。レイは、かつて愛する我が子を看取る際に金がなく時間剤を使えなかった後悔から、非合法な時間剤を使い無為な日々を過ごしていた。ある日捨て子のミアを預かったレイは、ミアのまわりだけ時間が早く過ぎることに気づく。ミアは製薬会社が作った人工的に作られた子供で、研究室から逃げ出したのだった。二人は逃亡劇の末、ミアがレイを救うために時間剤を自らに打ってなんとか逃れる。ミアは時間剤の影響で体質が消えていることに気づく。
二人は一緒に暮らしはじめる。

よいところ:
SF映画みたいな展開

気になったところ:
梗概を書くうえで省略した説明がいろいろある。たとえば製薬会社が人工的に人間を作るのは大問題な上に会社としてもリスキーなはずで、それを読者に納得させるためにはどういうふうに書いたらよいのかなど。小説を成立させるために必要なケアがいろいろありそうなので、実作を書くときに読者が納得できるように書いてほしい。
話の筋としては王道展開でまとまっていて、レイとミアのキャラクターがちゃんと書ければおもしろくなるはず。応援しています。

やらずの 窒息

宇宙にある都市では太陽光や水、空気といった資源が有限である。ファーリンは、地球では空気が無料なのだと話すが、私にはピンと来ない。体の中に根を張る違法な植物「肺華」をファーリンと私は育てていて、クラブで遊んだりする。
母は父を殺したがっているが、殺さず、私は自殺未遂をする。
やがてファーリンはオーバードーズで死ぬ。
私は母を殺そうとするが、母が肺華を吐き出し、私は笑う。

よいところ:
梗概で小説の雰囲気が伝わる。このいきおいで実作書いてください。純文学よりっぽい話なのだけど、空気が少ないというSF設定が主人公が抱える問題とダイレクトに繋がっていてSFになってる。

気になったところ:
梗概だと、母が肺華を吐き出したのがなぜなのか分からなかった。それと主人公は肺華はまだ飲んでないってこと? このへんは実作だと解決してると思うので多分問題なし。

夢想 真 SUGOROKU

あらすじ:
未来人の双六ゲームのコマにされたサラリーマン間垣純平は同じくコマにされた同僚の赤石恭子とともに、殺人鬼に襲われるコマに止まり殺人鬼から逃げる。逃げ切ったが、振り出しに戻される。

よかったところ:
ゲームみたいな設定が楽しい。タイトルもいい。

気になったところ:
特になし。実作を書いたら読みます。

真崎麻矢 油絵具は羊皮紙から薫る

あらすじ:
花坂サナギはある惑星に不時着し、王族リュークから帰るための手段と引き換えに依頼を受ける。女王の長男りゅを説得して、女王の生誕祭で演奏するための、亡くなった長女が作りかけだった曲を完成させることだった。部屋から出てこない長男と絵画のやり取りでコミュニケーションをとって、家族構成やその星の種族への理解を深め、長男にアドバイスをして曲を完成させ、生誕祭は成功する。しかし、家族構成に違和感があったサナギが邪推したりして、長男を傷つけたのではないかと落ち込むが、女王は「絵画探偵」という役割をサナギに与え、サナギはこの惑星で活動することになる。

よかったところ:
キャラ立ちしてる。お話が頭の中で見えてそう。設定よりストーリーがちゃんとある。

気になったところ:
キャラの名前がみんなリュで始まって覚えられないので、もったいない。家族構成と出自を勘違いするところがよく分からなかった、しかし十分な文字数のある実作を書けば問題ないはず。

羽澄 景 顔は見えない

会社をクビになったミユキは、占い師から「50年後に運命の相手と出会う」と告げられる。家に帰るとポストに宇宙旅行が当選したという封筒が入っている。5年の宇宙旅行から帰ってくると地球では50年が経過しているという。運命のように感じられ宇宙旅行に行くが、占い師も当選も仕込みの嘘だった。ただ五年を待つために幻聴と幻覚が聞こえてくる。五年後ようやく地球に帰ってくる。

よかったところ:
梗概だと話のテンションがつかめないが、森見登美彦、みたいな感じだったらおもしろそう。

気になったところ:
誰が何のために主人公を困らせたのか分からない。
アピール文に書いてある「どのような状況下であれば怪しい話を信じ込ませられるか」「助けも来ない空間に一人ぼっちになってしまった場合、人はどうなってしまうのだろうか」を達成できているかどうかでいうと、いまいち足りない気がする。失職して、占い師に言われた後であれば、宇宙旅行当選を信じるかと言われると、いまいち足りなく、「怪しい話を信じこんでしまう」という路線で行くならもっと突き詰められそう。
ひとりぼっちになってしまった場合、どうなってしまうのか、についても幻聴と幻覚が聞こえてくる、というありきたりな回答になっているので、ほんとうにその二つから着想したのであればもっと考えれられるはず。応援しています。

広海 智 楽園の羊飼い

小惑星の地球への衝突が判明してから二十数年、一ヶ月後に衝突が迫るが解決策は見つからない。天文台で観測をする青年イヤドと少女ヨナ。
ある朝イヤドは暴走車にはねられ、目覚めると天文台で、ヨナがいる。イヤドははるか過去、二千年前を思い出す。イヤドはユダでヨナはヨハネだった。ヨナは四次元に生きる霊的存在だった。
小惑星の衝突は神からの宗教的な試練だったが、今回の衝突では魂の向上が得られないので、ヨナはイヤドに衝突の阻止の協力を請う。ヨナの時間干渉によって、目覚めたイヤドは軍の小惑星の任務に参加し、何度も時間を繰り返して試行錯誤する。実は小惑星を止めるのは不可能で、小惑星は地球に衝突する。
二千年前に目覚めたイヤド。ヨナは国を作るのではなくイエスに憑依して歴史をやり直すと語る。

よいところ:
舞台がいい。キリスト教の雰囲気と科学の雰囲気がいい感じで両立してる。オチもいい。

気になったところ:
暴走車にひかれるのは梗概で読むと陳腐に読めてしまうが、実作だとどうなるか。
ヨナがイヤドに協力を求めつつ、自分でそれを阻止していたところ。

維嶋津 ユーレイ団地と、落書きの宇宙

あらすじ:
裏山とユーレイ団地で僕と直哉は、汚い身なりのおもしろい老人守屋と出会う。守屋は世界の外との通信機を作っている。
直哉と守谷はどんどん仲良くなり僕はつまらない。夏祭りの日に担任に直哉と一緒じゃないのかと聞かれた僕は守屋のことを話してしまう。担任は目の色を変え、僕と担任はユーレイ団地に向かい、泣いている直哉を助けるために守屋を撃退し、守屋は警察に捕まる。
後日、僕と直哉は仲直りする。

よいところ:
子供時代のわくわくと、何も知らないがために巻き込まれてしまういやな感じが出てる。

気になったところ:
けっきょく守屋が何者で何をしていたのか分からなかった。直哉に対して性加害したと読んでしまったのだが、警官と守屋のセリフを読むに、装置に関係する何かをしようとしていたのではないかとも思うが、いかに。

蚊口糸瀬 お裾分けの精神

あらすじ:
マンション内で冷凍保存した時間をおすそわけしあうご近所関係に巻き込まれるが主人公は一向に使わない。
そろそろ人間関係的に使わないとまずい、となって開けてみたら穴が空いていて時間が抜けていた。

よいところ:
ご近所付き合いのディティール

気になったところ:
時間を冷凍保存するという設定がせっかくあるのに、いつまでも使われないところ。であるならば、普通の冷凍カレーとかでも話は成立するので、時間SFならではのギミックを使ってほしいと読んでる側としては思う。

雪谷ともよ 夢をのぞく

あらすじ:
母親と二人ぐらしする高校生の夢子は、母が悪夢を見ることを気に病んで夢見アプリのモニターを母にさせる。悪夢が消せて外から夢を覗くことができる。夢子が過去の出来事を見ている母の夢をのぞくと、現実が夢の続きへと変化している。夢子は何度も現実を改変するが、ついには自分の名前すら変わってしまい、開発者の才野ともみあいになり、病室で目覚める。うなじには夢見アプリのための金属シートが貼ってあった。

よいところ:
現実が現実でなくなっていく怖さ

気になったところ:
夢見アプリを使うと実は過去改変が起きる、というのが一読して分かりづらかった。結末も、どうして主人公の側に金属シートが貼ってあったのか読み取れなかった。全部夢オチなのだろうか?  結末を宙吊りにした上で読者に読ませるのは納得度がけっこう必要かもしれない。

木江 巽 ファンシークロスとこの部屋の僕

あらすじ:
広がりつづける部屋で暮らしている僕とマキさん。マキさんは部屋の果てを目指し、僕はその姿を想像する。

よいところ:

ボルヘス、山尾悠子の作品、最近でいえば漫画の「タテの国」など、無限に広がってる空間を舞台にした幻想的な暮らしを描く作品。のんきな雰囲気がただよっている。

気になったところ:
この作品はロジック的に読むものではないと思うが、梗概だけで読むとやはりロジックが気になるので、実作では「ロジック的に読むものではない」というのを納得させてほしい。

渡邉 清文 アーティフィシャル・ビースト

あらすじ:
レイと銀葉08は惑星調停官であり、仕事でも私的にもパートナーである。ある惑星に急行せよと指令があり向かうと、違法着陸した民間船が救難信号を出していた。生態系への接触は禁止されていて、保全と救助を両立させる必要がある。遭難船を探索すると人間の死体があるのみ。船外に言葉を話す凶暴な生物があらわれ衛星軌道へ避難する。生物の正体はこの惑星の生き物を元にした人工生物だった。遭難した船の持ち主は生物を違法に交配させるカルテルだった。レイはあの生物すら生態系とみなし静観を主張するが銀葉は殲滅を主張し意見が対立する。銀葉は地上へ向かうが時すでに遅し、レイも後からやってくる。レイを銀葉はさとし、しかしカルテルの技術をすでに入手していて私たちの子供を作ることが可能だと告げる。

よかったところ:
名前がいろいろかっこいい。生き物に対する倫理観で対立するところがキャラクターの最大の見せ場になってる。

気になったところ:
最後は機械と人間の子供を作るということであってますか?

koichiiwasawa 失われた記録と最後の数々

あらすじ:
世界は神々によってプログラムされていたことが判明した世界。スリーは1973年のモロッコへと亡くなった現地の人の姿を借りて派遣される。プログラムのバグによって途絶えた世界線の取材のためだ。同じく派遣されたナインと共に移動し、ホテル滞在中アトラスの大巨人が空に出現する。災害の中、体を借りた人の母と出会い目が合う。空からクジラが降ってきて、任務は失敗し、記録は廃棄される。

よかったところ:
異国感

気になったところ:
梗概だけ読むと世界も主人公たちも超然とした感じで共感できず、何がどうなったとしても興味が持てない感があります。多分、ストーリー構造とか感情の変化のためではない設定が多めだからなのかもしれない。

文辺新 要石

あらすじ:
生成AIが生み出すゲームに共通して登場するウーフニックというキャラクターを追うビーバーは謎の組織に捕まり、深追いしないよう脅され、日常へと戻っていく。

よかったところ:
時間を巻き戻して街に何が起きたのかを推理するという作中のゲームがおもしろそう。これだけでも読みたい。

気になったところ:
捕まるところのリアリティが気になる。詐欺容疑で逮捕されたのに警察ではないとはどういう感じのやりとりなのだろうか。警察ではないのなら詐欺容疑ではなくただ拉致すればよいだけでは。
おそらくSCP的な世界の真実に触れてしまった怖さみたいなのを出したいのではないかと推測するが、現状ウーフニックがただただ何なのか分からず謎の人たちに監禁される話になってるので、もうちょっとどういう条件でどういうときに出現するのかという、実験調査パートみたいなのがほしい。
ボルヘスを知らない読者からするとタイトルと内容がリンクしないので、実作にするならそのあたりを書く必要がある。実作書いたら読みます。

諏訪真人類 ver∞

地球を目指してやってくる生物群を大蛇が丸呑みし、大蛇は地球すら丸呑みにした。大蛇の体内は時間が無限で、人類は破滅と再生を繰り返しバージョン無限へと至る。人類は光の方へと向かって蛇の中から外に出る。
実は宇宙は池の水たまりで、最初にやってきた生物は池の中にいる魚で大蛇は蛇だった。

よかったところ:
最後に出てくるおじさんがしょうもなくて気が抜けるところ

気になったところ:
宇宙の大構造と小構造が相似していた、というオチはよくありそうで、意外性はあまりないと思った。登場人物が誰視点なのか分からないので、小説にするときに新たにキャラクターを作るなりする必要があり大変そうだと思った。もしかしたら、登場人物が出てくるとかではなく、創世神話みたいな感じをイメージしてるのかもしれない。

大庭繭 まばたきほどの永遠

あらすじ:
三十年前に博士が亡くなった無人島に取材にやってきた男の前に二人の女があらわれる。一人はメイと名乗り、メイは一人を奥様と呼ぶ。実は奥様は亡くなる直前の博士が生み出した、共に心中するための人造人間であり、使命を果たすべく男と共に崖から身を投げる。

よかったところ:
すばらしいので実作を読みたいです。ストーリーがよいのはともかく、梗概の段階で小説的な語りも意識されていてすばらしいと思いました。

気になったところ:
男が島に取材にやってきた経緯

宮野 司 冷たい棺

あらすじ:
宇宙葬を扱う葬儀屋で働くムワンは、父とそりが合わず、そりの合った祖父が死んだのをきっかけに家を出た過去を持つ。
ある日ムワンのもとに父の遺体が運ばれてくるが、母に電話をすると父は自殺したという。実家に帰ると父はすでに遺灰になっていて、父の二つの遺体があらわれ謎が残る。
実は、葬儀屋に運ばれてきた方の遺体は祖父のもので、宇宙へ行きたいと生前願っていた祖父のために父が仕組んだことだったのだ。

よかったところ:
家族の死体が送られてくるとギョッとする

気になったところ:
父はなぜ死ぬ必要があったのか。父が死なずとも祖父の遺体が取ってあったのならそのまま宇宙葬に出せばよかったのではないか。
また、祖父が死んだときに宇宙葬できなかったのはなぜなのか。
アピール文に関して、「父と子の物語」「仏教の宇宙観」というキーワードを挙げられているが、あまりそういう感じもしなかった。父はすでに死んでいて、親子のやり取りがないのがその原因かもしれない。解決方法としては回想シーンを入れるというのがあるが、これいかに。また仏教の宇宙観についても、ストーリーの中で宇宙葬と仏教は絡んでない感じがする。
私の話になるが、棺桶型のタイムマシンで死体が送られてくる話を書こうとしてうまくいかなかったことがある。書こうとしてることが似ていて共感を覚えた。

森山太郎 トケイ=官能小説

あらすじ:
時刻が認識できなくなった世界で、小説投稿サイト「官能小説家になろう」の投稿機能だけは時間通りに投稿できた。AM7時とPM5時に投稿しているネット小説家の黒野の小説が世界の新たな時間の指針となった。
ライバル小説家アタリがあらわれ…。

よかったところ:
ばかばかしくておもしろい。

気になったところ:
ばかばかしくておもしろいがしかし、実作でこのテンションは持つのだろうか。
梗概というのはストーリーを最後まで書くものなので、最後まで書いてほしい。
失われたのは時間認識なのか、時刻認識なのか、機械的にはどうなってるのか、その辺の設定を詰めるとボロが出るので、ばかばかしさで乗り切る必要があり、そうなるともっといきおいがほしい。

中野 伶理 星々に捧ぐ絵

あらすじ:
宇宙の脳の相似性と脳の活動をダイジェスト化した値、脳値(BV)というアイディアの導入によって宇宙研究が進歩した近未来にて、宇宙の創成の研究を行うタミラ。タミラは娘のリリーと旅行に出かけ、中国の山地で遭難しかけ、村人ゾエに助けられる。村の人々は絵を描く文化があり、ゾエが絵を描く際のBVに宇宙の現象と共通点があった。
ゾエは渡米し、タミラと絵の研究をするが次第にゾエは社会化されてしまい、原初的に持っていたBVの法則性からかけ離れていく。
また、ゾエが連絡をとっていたこともありゾエの村人の人々も観光客ウケする絵を描くようになってしまっていた。
ゾエは帰国するが、娘リリーが最初にゾエが書いていたような絵を描き、娘を実験対象とするべきかどうか悩む。

よかったところ:
人間が社会化すると失われてしまう原初的なものが何なのか、というチャレンジがよい。うまくいかなかったり悩んだりするところがよい。

気になったところ:
BVを研究するという、ところまでは納得性があるが、BVが宇宙と相似になっているという部分の納得度が薄くて、蛇足に感じてしまった。お題に何とか答えようとしている感じがあるので、お題には背いてしまうが、BVの研究が役に立つ分野がもっと小さいものの方がよいのではないかと思ってしまった。
ケンリュウの結縄っぽい感じがするので、結縄における縄とDNAの関係性ぐらいの相似している感がBVと宇宙の関係性にもほしい。

むらき わた 永遠の子

あらすじ:
ワームホールを超えて惑星の資源を採掘するアンリは率先して時間の進みが遅い星へと出向き、英雄視されていた。百年以上も前にワームホールが閉じてしまった事故にあったリサという採掘師をアンリは尊敬していた。事故の後にリサと彼女の娘との交信記録はまとめられて本になっていた。
あるときアンリは見慣れないワームホールを見つけ、リサのいる惑星だと思い飛び込む。リサは生きていて、地球に連れて帰る。
アンリはリサが娘の足跡を追うのを手伝い、ひ孫のケントと出会う。
アンリは過ぎた時間や失った人間関係を取り戻せないことを知り、採掘師を続けたいのか分からなくなる。

よかったところ:
全体的にロマンティックで、結末もよい。リサが生きているという意外性もよい。

気になったところ:
全体としてまとまっていて読後感は素晴らしくある程度のレベルは達成していると思うので、重箱のすみをつつくような意見になりますが、後からタイトルを見てどういう話だったのか思い出せなかったのがもったいない気がしました。タイトルと内容にもう一つフックがあればさらによいと思います。ですが、全体としてはかなりよいと思います。

カトウ ナオキ 地図のない都市

あらすじ:
ワープゲートにより宇宙進出した人類による内戦が終結した。
戦争の間に百年にも渡り更新されなかった地図を最新化するため、フィルは3つの惑星を巡る。

よいところ:
おそらく風景画のような小説。うまくいったら素晴らしい。

気になったところ:
実作書くのを応援しています。

国見 尚夜 The Day before WWIII ?

あらすじ:
青年山田の元に百年後から来たという女性ツムギがあらわれ、百年前の事件がきっかけで第三次世界大戦が起こると言う。ツムギの腕には山田がつけているものと同じ腕輪がついていた。
次に山田の元にツムギの婚約者であるカイドーという男がやってくる。しかしカイドーはツムギに拒絶されている。
事件となる国際会議の日、山田と未来を変えようとするツムギをカイドーは拘束しテレビ中継を見る。
テロリストが会議を占拠するが、そのうちの一人が全員をなぎ倒し、マスクを取ると、それはツムギだった。実は拘束されていたのはツムギの姉だった。カイドーは失意のままに去っていく。
差出人不明の手紙が届き、山田が持っているものと同じ腕輪が届く。
第三次世界大戦は8月15日に勃発するらしく、答えが分からぬまま当日を迎える。

よいところ:
梗概だと伝わらなかったが、作者の頭の中にあるはず…

気になったところ:
全体としてシリアスなのかコメディなのかトーンがつかめなかった。
冒頭、何かを知ってる人が次々に現れて説明だけして去っていくシーンが続き、設定の開示をされているようで退屈にならないか気になる。全体的に設定が現実の出来事としてではなく言葉の上で説明されるだけなので、ビジュアルとかで説明した方がよさそう。例えば第三次世界大戦が起こると言葉で言われてもピンとこないので、無理やり一瞬だけ主人公をタイムスリップさせたりなど。このままだとタイムスリップしているというよりも、何かを演じている詐欺師が二人あらわれたような感覚がある。
主人公が物語にインタラクションするシーンがなく、傍観してるだけに見え共感しづらい。
キャラクターの行動の動機が分からないので実作を書くときは色々説明が必要そう。
結末がどういう意図での宙吊りなのかがつかめなく、ただ宙吊りになった感覚がある。腕輪の意味も読み取れなかった。

小野 繙 放屁

あらすじ:
オナラが忌み嫌われる村で育った遙と、もみじもみじはオナラがたくさん出る体質で寿命が短いと言われている。村の外からやってきたユタカはもみじに一目惚れし、結婚騒動が起こるが頓挫する。ユタカは、オナラと寿命は関係ないことを告げる。
オナラで死にたくないというもみじのために、オナラと寿命の関係がないことを伝えるために遙は放屁する。

よかったところ:
実作を書く気概があるところ。おそらく実力はあるのではないかと推測します。アピール文でも書いてあるように第一回でこれを出すのはいかに!?

気になったところ:
私自身ギャグの書き方は分からないのだが、もっとクリーンヒットするようなギャグがほしい、かもしれない。
アピールポイントに、SFを書こうとすると納得度が低いのでこの方向性で行くと書いてあるのだけれど、SF感は低くても問題ないと思うが、課題には答えないと評価されづらいのでもったいない。安直な考えだが、このコメディ感を残したまま別の惑星を舞台にしたりでもよいのではないか。

八島らら 生命のパズルのお手入れ時期です。

あらすじ:
小学生の頃に震災に遭った定雄は、浮かぶ一軒家を目撃する。
38歳になった定雄は歯科医になり、客としてきた老婆に見合い話を持ちかけられ、森の奥の一軒家に向かう。その家はあの浮かぶ一軒家に似ていた。
家の中には人体を模したオブジェがあり、その臓器は家の家具と結合しているらしい。
みやこを紹介された定雄は一目惚れして、老婆から家を継ぐのなら交際を許すと言われ、契約書を書く。家の中で奇妙な現象があいつぎ、老婆を問い詰めると、オブジェの臓器は震災で瀕死になった人から取り出したもので、みやこは犠牲者の胎児だったが老婆の星の技術で育て上げていた。老婆の狙いは家を維持することだった。
契約を破棄した定雄はミヤコと逃げるが、陰嚢を取られ、ミヤコは子宮が取られる。

よいところ:
意図的かどうか分からないが、おかしな話で寓話っぽい

気になったところ:
臓器と家具が結合しているというのはどういうことなのか。老婆はなぜ、わざわざ人間たちに家を継がせるのか。現代において、後継ぎとして子をたくさん産んでほしいという欲望を初対面の老婆にさらけだせる定雄のキャラ造形、および定雄から求婚されてすぐに受けいれるミヤコのキャラ造形。現代の話として読むと違和感がある。

佐藤玲花 人工幽霊

あらすじ:
時間を売買できる時代。イチは母殺しの罪で死刑となり、死刑執行になるまでの時間を延ばすために全財産を使って一年を買った。
しかし罪悪感から暗い日々を過ごすことになる。月日が流れ、イチは母の幽霊を見るようになり鬱病から自殺を試みるが失敗する。
結局イチは買った時間を売る。死刑執行直前に時間を買って祈り、母の幽霊を見なくなる。

よかったところ:
話としてはまとまってる。実作も書けそう。

気になったところ:
時間を売買するという設定がなくても成立する話なのではないだろうか。
罪の意識で幽霊を作ってたということは、いわば幻覚だと思うので、そういうものを人工幽霊と呼ぶのだろうか。
殺人を犯して鬱病になって自殺失敗し、反省するというストーリーになっていて、直線的でかつ暗い。むしろ気分が悪くなるぐらいの話の方が読みたいかもしれない。

りく ニュースサイトのエンジニア、未来人を探す

あらすじ:
青山と井上はニュースサイトで働くエンジニア。ある日記事が公開される前にアクセスがあるという奇妙な現象を発見し、閲覧者Mについて検討推理をする。
Mは未来人だという推理から、東京駅で該当の人物を捕まえると、Mは三時間後のインターネットにつながるルーターを使って株の売買をしていた。金融庁に訴え、検察官は、その機械を使って未来でMが逮捕されるのかどうか確かめてから逮捕しようと提案する。

よいところ:
不思議な出来事が起こって楽しい

気になったところ:
アピール文で書いてある「9マイルは遠すぎる」を参考にしたのであれば、次々とヒントが出てくる形式ではなく、はじめのヒントが一つだけあって、それだけから推理していくことで未来人がいるということが判明するストーリーにした方がおもしろさが際立つはず。
細かいITの話だが、三時間後のインターネットにつながるなら、アクセスログは記事が公開された時点として記録されるのではないかと思った。クライアント側で持ってる時刻を記録する仕組みなのだろうか?

鹿苑牡丹 マルコフ連鎖とバラの蔓

あらすじ:
ウェアラブルデバイスによってインターネットへの接続が高速化し、ハイコンテクストなコミュニケーションが行われる世界。
吃音を持っている大学生の主人公は、SNSで仲良くしていたA子が同じ大学に進学してくるということで会うことになる。
会話サポートアプリによって表示された文を朗読することで対処しようとするが、会話に楽しさを感じない。やがてアプリはハイコンテクストな詩という形式をとり始め、主人公はしゃべり方を工夫することに楽しさを見出す。告白が視野に入ってくるがアプリが過学習を起こし「LOVE」しか出力しなくなる。
街で見かけるアプリ使用者たちは「LOVE」のみでやりとりし、それをアプリが訳しているらしい。主人公はアプリを手放し、勇気を出してA子との会話を試みる。

よかったところ:
技術を使って外的な解決を試みようとするが、それがうまくいかず内的な解決へと一歩を踏み出す、という物語のパターンをとらえていて、素直で読みやすい。LOVEしか出力しなくなったアプリでやりとりしてる様子がおもしろい。はたして人々はそれでよいのだろうか?

気になったところ:
技術的にはマルコフ連鎖を使っているということなのだろうが、タイトルと内容があまりリンクしていないように思える。バラの蔦は、恋愛のメタファーなのだろうか? 読後に思い出せるようなタイトルにするとグッド。

櫻井夏巳 蛍光家族

あらすじ:
科学博物館の催しで、家族みんなで蛍光塗料を塗りたくって暗闇の中に駆け出したあの夏。
その蛍光塗料は発散も減衰もしない。
世界大戦によって家族を失った私は、死期の近い地球があるこの宇宙で命を終えるか、奇跡的に見つかった人類と文明が存在する宇宙へ移動するか、選択を迫られる。
別宇宙へ移動することを選択したタイムマシンと、私の乗る星間観測船は同時に飛び立ち、光速を超え、あの夏自分たちが発した光を目にする。

よかったところ:
光が届くってつながってるってこと

気になったところ:
主人公はどうして最後船に乗るのか?地球に残って死を待つのじゃダメだった?
欲を言えば、過去からの光が届くという結末と、どの宇宙で生きるかを選択するストーリー構造がもう少しだけ噛み合ってたら、いいなと思いました。多分ワームホールの設定の部分がごろっとした異物感があるので、結末にそれを忘れさせるすがすがしさが欲しく、現状でも出てはいますが、語りで解決できるのではという気もしますが、これいかに。

宿禰 帰還

あらすじ:
公共事業として惑星の開拓が行われ、移り住んだがその後の需要がなく人々は引き上げつつあった。
ミルも担当だった星を引き上げて航宙輸送船に乗るが、一旦別の星へと降ろされた。その星には老人アレクがいて、その妻フィーは医療の必要から地球方面の施設へと行っていた。人格収納器に入れられたフィーの人格は、犬型ロボットに搭載されていた。
アレクは星を去る前に星のいろいろな場所を見に行くが、事故に遭いミルが助ける。
アレクとミルが星から引き上げる段になって、施設でフィーが死んだことが知らされ擬似人格も一週間以内に消される。アレクはそれを阻止するため通信機器を全て遮断しこの星で暮らし続けることを決める。
数年後ミルはアレクがその後どうなったのかを知る。アレクはすでに死んでいて、その信号を送ったがためにフィーの擬似人格も削除されていた。

よかったところ:
最後せつない。老人との交流がいいし、フィー自身は出てこないけど、擬似人格がアレクに寄り添ってる感じがいい。

気になったところ:
擬似人格を消さねばならぬ理由。残しておいてもいい気がするのだけども。

三峰早紀 汚泥をさらう

あらすじ:
服役中の男リュイは志願して、被災した星で土建重機を使って瓦礫を片付けている。
リュイは瓦礫を片付けるうちに不思議な感傷に陥る。

よかったところ:
ディティールを語って感情移入させるところ

気になったところ:
主人公の内的変化、小説の語りのレイヤーで話を解決させようとしすぎている感がある。外的に何かが変わるシーンが欲しい。
最後のシーンは、人骨を見つけてそれが自分だと確信するわけだが、これはそう思い込んだだけなのか、あるいは宇宙がループしてる設定みたいなのが実はあって、ほんとうに自分なのか、読み取れなかった。

taka4 メディア異聞

あらすじ:
古代ギリシャで、魔女の母メディアから生まれた双子のかたわれの女の子。父は国の王女に浮気して、母メディアは王女、父、双子の娘を殺そうとする。女の子は港まで逃げるが、双子のかたわれが殺され、からがら船で逃げる。逃げた先は不思議なアイアイエー島という島で、そこにいた魔女キルケの話では時間が逆に進んでるという。数年後に船でやってきた男イアソンと主人公の女は結婚して島の外に出ていき、双子の娘が生まれる。夫イアソンは国の王女に浮気し、自分がメディアであったことに気づく。王女と夫は殺すことにし、娘たちは夫の元に残すと不憫なので殺すことにする。娘の一人は殺せたがもう一人は逃した。アテナイに亡命したメディアは、若い頃の魔女キルケに出会い、キルケは魔法で人生をやり直すことを提案し受け入れる。再びメディアの娘として生まれた主人公は母に殺されようとする日、双子のかたわれを生かすために自分を犠牲にする。

よかったところ:
実はこの話、ループするたびに殺される双子がスイッチしてるという、振り子みたいなループものになっていてそのギミックがおもしろい。

気になったところ:
主人公と父の名前をどうするか問題。実作でどのように書くのか。自分がメディアだと気づいたあとなのに、知ってる通りに行動するというところ。最初からメディアの主人公感があるので、視点をどう設定するか難しそう。タイムマシンになってる島の物語的な説得力(科学的にどうこうではなく、摩訶不思議なもの感をちゃんと出せるか)。

多寡知遊 宇宙! 冒険! そして金儲け!

あらすじ:
人類が宇宙に進出した時代、一代で財を築いた薫風は子供の頃に見た特撮番組を探していた。薫風の元に兄妹が現れ、ビデオを薫風に渡す。兄妹は遠く離れた故郷の惑星で番組の電波を受信し、旧弊的な宗教社会から逃れてやってきていた。兄妹は薫風のように成り上がることを誓う。特撮番組を最終話まで見た薫風は、その破滅的なオチに脱力してしまう。

よかったところ:
宇宙時代の金持ちが特撮ビデオを探すというアンバランスだけどありそうな感じ

気になったところ:
本来能動的そうな主人公が、ストーリー的に能動的に動くシーンがないのでもったいない。

小林 滝栗 クオンタム・グラフィティ

あらすじ:
コンサルタントとして働く僕=Xは、大学時代の友人である准教授と話したり、宇宙ビジネスに関連するコワーキングスペースに出向いたりして話をする。

よかったところ:
現代版のポストモダン文学

気になったところ:
アピールポイントに書いてある、文体に「ループ量子重力理論」を援用したものを採用する、というのが実作締め切りの二ヶ月間で取り組むには難しそう。

やまもり プロジェクト・フェッセンデン

あらすじ:
部屋の中に宇宙を模した恒星系を作り、生命の発生を研究するプロジェクトで働くジョゼ。同僚のオリバーは担当の惑星にサイクロンが発生し、生物が死ぬのを防ぐために介入して止めようとするが、ジョゼはそれをたしなめる。今度はジョゼの担当する惑星で生命体の集落が溶岩流に巻き込まれそうになり、そちらは介入によって助けることになった。

よかったところ:
未来のお仕事感

気になったところ:
オリバーの担当する星は助けなかったのにジョゼの担当する星は助けたのはなぜ?
シミュレーションの中の生命との関わりを通じて、生命一般に対する知見みたいなものに到達するカタルシスが欲しかった。

戸田 和 還るトキ

あらすじ:
男は死んだ愛犬を森の中で燃やしながら過去を振り返る。
鉱山の治安維持任務に従事していた男は空を見上げて宇宙の仕事につきたいと願った。
鉱山ではパトリオットいう使命感による全能感を得る薬物が流通しており、作業員の作業効率がよかった。
ある日、作業員が反乱を起こしていることが分かり、パトリオットの変異体を飲ませることで鬱状態へと追い込み、作業員は自殺し反乱は治った。男はその時パトリオットを飲んでしまう。
鉱山が閉鎖され、男は戦闘地域へと移るが、すでに中毒者になってしまっている。戦争が終わるが何も感じなくなっている。
男は宇宙空間にある核燃料の保管施設で働きはじめる。パトリオットが流通し、男はパトリオットを使用していることがばれて解雇されてしまう。
地球に戻った男は愛犬に息子の名前をつけて森の中で暮らした。

よかったところ:
薪がパチパチしているシーンから回想で軍事会社の話に行くのはすんなり読めるし雰囲気がいい。

気になったところ:
薬物依存患者が長年隠して薬物を常用してたけど、ついに職場でバレて解雇され、カウンセリング受けながら森で犬と暮らしました、という話で、プロット的には驚きがない。薬物の設定も出てくるが、効用としては興奮剤で、現実の薬物と変わらなさそう。薬物と宇宙の設定を出したからこそ辿り着ける結末に行った上で、主人公が抱えてる何らかの問題を外的・内的に解決するカタルシスがほしい。
タイトルはどういう意味なのだろう。

光村 玲 Space Selfy.

あらすじ:
宇宙飛行士になる夢が叶わなかった谷田部テラは惑星探査機の操縦者として働いていた。ある日探査機の電子回路に自我が芽生え宇宙を美しいと感じるようになった。別の自分がそこにいるかのように錯覚を覚えるテラ。本来は電子回路を修正しなければいけないがテラは葛藤する。探査機は重労働から苦しみを感じ始め、テラは反省し電子回路を元に戻す。
テラは別の自分ではなく、自分自身が宇宙に行くため、もう一度宇宙飛行士を目指す。

あらすじ:
かりそめの自己実現が破綻して、もう一度チャレンジに向かって踏み出す、というストーリーが王道的でよい。

気になったところ:
電子回路に突然自我が芽生える理由づけがないところと、自我が芽生えたとどうやって外から判断するのか。
電子回路の自我に対して自分であると錯覚する理由。画面か何かでそれをみてると思うのだけど、ビデオゲームの主人公を操作するときに感情移入するようなものなのだろうか? 自分の体の外のものを自分であると錯覚することはあまりないと思うので、そこの理由をちゃんと書いてあげる必要がありそう。

坪島なかや 宝くじ

あらすじ:
ブラック企業で働いている私は、ある日時間がループしていることに気づく。ループのたび結果が失われてしまうが、小説をいつまでも書き続けられることは幸せだった。
未来にて、過去の人物の時間をループさせるそれを観察することは人々の娯楽だった。それを行うための宝くじがあり、宝くじにあたった人があのブラック企業で働いている人物をループさせる。ループの中で小説が投稿され、それの感想をコメント欄に送ってやり取りする。以前のループの際の話をコメントしてしまい、助けて欲しいと返ってくる。
未来と現在の間のある時点において、亜種人類発生事変が発生し人類と亜種人類は殺し合っていた。ループしている人物は亜種人類の親だった。
半年後、小説が完成し、ループを終了させる。亜種人類の親は人類との初期の対立で42歳で殺されるということだった。

よかったところ:
ループの中で小説を書くというロマン

気になったところ:
過去の人を苦しめる未来の人の倫理観。
ループの設定と亜種人類の設定の噛み合わせがわるそう。話の中では亜種人類は実際に出てこないので、机上の設定感がある。

おまけ

ここまで読んでくださった方に向けておまけを書きます。講座には参加していない私ですが、勝手に課題を提出しました。こちらからお読みいただいて、正直言ってどんなレベルの人が書いた感想なのかさらします。

SF創作講座の課題に応えるときの私なりの取り組み方を書きます。それは、SFマガジンの特集が開催されたとして、読者としてどんな話が載っていたら嬉しいのかをイメージしてお話を書くことです。今回の場合であれば「宇宙、時間SF」特集があったと仮定します。こうすることで、課題として提示されたものに対してどのぐらい応えなければいけないのかを書く側からの目線だけではなく、お金を払って買ってくれる側の目線でチェックすることができます。

今回、受講生のみなさんははじめて梗概を書いたという人や、そもそもお話をはじめて作ったという人もたくさんいると思いますが、アドバイスとして、ぜひ梗概を実作にしてほしいと思います。梗概自体は小説ではないので、小説を書かないとおもしろい小説を書けるようにはなりません。また、梗概を実作にするというプロセスを経てはじめて梗概が持っていた問題点に気づくこともできます。二回目以降に梗概を提出するために、どういう梗概を書いたら実作が成立するのかを知ってほしいです。

勝手にタイトルランキング

内容関係なく、タイトルが素晴らしかったものを勝手にランキングにしました。

1位: 蛍光家族
2位: SUGOROKU
3位: 窒息

他に趣味が合ったのは、鏡像宇宙、楽園の羊飼い、アーティフィシャル・ビースト、まばたきほどの永遠、帰還です。
「お裾分けの精神」はひらがなにして「おすそわけの精神」にしたらもっと良さそうだと勝手に思いました。

以上です、ありがとうございます。

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