SF創作講座第6期第7回「自分の人生をSFにしてください」梗概感想
以下七名の梗概の感想を書きます。私のスタンスとしては梗概がどうであれ実作がおもしろければなんでもよいと思います。実作の完成に責任を負っていない他人からの意見として、参考程度にお読みください。ストーリーを追うのが苦手なので勝手に要約も付けてます。
中川 朝子「内山」
水住 臨「砕言」
織名あまね「惑星チンチロ、3分18秒」
宿禰「ひかげのひと」
柊 悠里「最小粒度が最高に美しい!」
継名 うつみ「Back to work, Girls!」
夕方 慄「ポタラカへとんでゆく」
中川 朝子「内山」
私の理解による要約
勉強も運動もできて見た目もよく学級委員をしている鼻につくクラスメイト内山。卒業とともに内山は転校したが、私の頭の中には内山の影がずっとあった。大学生になった私は内山の卒業文集をAIに読み込ませ、文章の癖を元にSNSの中から内山を探す。内山を見つけて会うことになったが、行けば内山を騙る別人が現れ、内山の略歴を流暢に語る。私は内山に「お前は偽物だ」と言うが、「君こそ偽物じゃないか」と言い返される。帰宅した私は、現在の自分と過去の自分とを照合するが、全く別人になっていることに気が付く。
感想
「他人の実像が自分が望んでるものと違ったということに気がつき、そして実は自分自身もそうだったという話」として読みました。
・ストーリーが平坦なので読者を惹きつけるためのフックとなるポイントが欲しいと思いました。
・SNSで内山を探すパートにドラマが欲しいです。簡単に見つかった感がありました。
・梗概だと、自分の認識が崩壊するという最後のカタルシスが弱く見えました。
・内山の存在をもっと意味深で魅力的にして、内山を探すというミステリーとして書いてもおもしろいかもしれないと思いました。
・梗概だときっかけなく内山を探しはじめてるので、何かきっかけが欲しいと思いました。
水住 臨「砕言」
私の理解による要約
相手が話す言葉を消し去る(口ごもらせる)能力「砕言」を持つ政治家の深川はその能力を発揮して政治家として活動していた。しかしいまだ政治的な地盤の不安定な深川が次の国政選挙で再選を果たせるかは分からず、対立候補で同年代の嶌田がいる。「砕言」を使うことに嫌気が差していた深川は、自分が話す必要のない行きつけのバーに心地よさを覚えている。近々マスターはバーテンに店を譲るという。深川は嶌田との討論会で劣勢に立たせられた上、父が薬物依存だったというスクープ記事が書かれ、深川自身は存在を知らなかった父が実は行きつけのバーのマスターだということが分かる。バーテンが経営不振のバーを押し付けられた腹いせにマスターの身の上を週刊誌に売ったのだった。後日、バーのマスターだった父から手紙が届く。父は元々家庭内ではモラハラ気味で、妻である母に対して「砕言」を使っていた。しかし能力は息子に引き継がれ、息子によって自分から妻への暴言を消し去られて初めて、自分がやっていたことの暴力性に気がついた。父は自責の念から薬物に手を染め、そのまま離婚をしたのだった。同じ轍を踏まないように、と父からの手紙は結ばれていた。深川は「砕言」を封じ選挙には落選してしまうが、さらなる次期選挙に向けて活動する。
感想
「相手を黙らせる能力によって活躍している主人公が能力の暴力性に気付いて封印する話」として読みました。
・伊坂幸太郎みたいな雰囲気で、よさそう感はありました。
・最後主人公は「砕言」を封じるという決断をするのですが、最初の時点で「砕言」に嫌気が差しているので、作劇的に立ち位置が中途半端だと思いました。物語の始まりと終わりで180度スタンスが変わった方が、父からの手紙の効果が増えるし、ラストの落選しても頑張ってるというシーンの魅力が増すと思いました。なので討論会も不利に終わるのではなく、有利で終わって、このままいけば当選するぞ、という段階で「砕言」を封印する決断をさせた方がいいと思いました。
・「砕言」の能力のディティールが梗概からだと分かりませんでした。相手の発言を全部「砕言」したら黙らせられるので討論では圧勝するのではないだろうか、単に念じたら相手を口ごもらせるということなのだろうか、同じ単語を思い浮かべる必要があるのか、など能力のディティールが気になりました。
・タイトルに超能力名を持ってきてますが、作品内容的に「言を砕く」という感じではないし普遍的な単語ではないので、別のタイトルの方がいいと思いました。
織名あまね「惑星チンチロ、3分18秒」
https://school.genron.co.jp/works/sf/2022/students/sickina/6642/
私の理解による要約
2年2ヶ月に一度、地球と火星が最接近し、火星側と地球側によるチンチロの賭けが通信によって行われる。環と楓は火星開拓ドームの労働者で、賭けに参加していた。今回地球側には資産家のギャンブラーが参加していて、環と楓は彼から金を巻き上げようと企み全資産を賭けに突っ込む。火星と地球には通信によるラグがあり、サイコロを振ったとしても相手側のサイコロの目が届くまでは結果がどうなるか分からない。通信待ちによる固唾を飲むような3セットの勝負が行われ、環と楓は見事勝利し全財産が三倍になる。対戦相手のギャンブラーからは次に再接近したら地球で会おうと言われる。
感想
ギャンブル小説として読みました。チンチロの結果がどうなるかという勝負部分のおもしろさが主であって、そこのおもしろさはあると思うので、あんまり他にはコメントないかなあと思いました。カイジのEカードのところだけ取り出したような感じなのかなとイメージしました。一万字前後で収まりそうなので、もしも二万字書くのであれば金を集めるのを苦労したとかいうチンチロが盛り上がるようなエピソードを足す必要があると思います。
・「惑星チンチロ、3分18秒」というタイトルが、おさまりがわるいような気がしました。
・ブロックチェーンの描写がストーリー本筋に寄与してない気がしました。ブロックチェーンじゃなくても成り立つし、ブロックチェーンがインフラとして当たり前になってる世界だったらブロックチェーンという単語も出てこないんじゃないかなと思います。わざわざインターネットという単語を出すことがあまりないように。火星と地球で通信ラグがありすぎるとブロックチェーンが二本に分裂するのでは、とも思いました。
宿禰「ひかげのひと」
私の理解による要約
50代の男である大矢はある日、息子智也の知り合いから病院に来いと呼ばれる。病院に出向くと、昔付き合っていた祐衣という女性に似た女が寝たきりになっていた。実は祐衣と自分との子供であり、佳野という名だという。大矢は妻に内緒で佳野の治療費を払うことにする。佳野はその後死んでしまう。智也伝いで大矢を呼んだのは佳野の妹である直美であった。直美は智也と懇意になろうとするが、智也は拒否する。直美も父の子なのではないかと疑った智也が祐衣、佳野、直美のDNAを調べると全員同じDNAだった。実は三人は単為生殖をしながら色々な男を利用して生き延びる一族だった。智也は直美からその餌食にされそうになり逃げる。智也から顛末を聞いた大矢。しかし実の妻寛子にも知られ大激怒される。
感想
すみません、あんまりおもしろさが分かりませんでした。人間社会に巣食う別種族的なホラーな話なんですかね。怖くはない感じだし描写がのんきなのでコメディ的な感じなのかとも思いましたが、、、。似かよっている人物がたくさん出てきて名前が混乱するので誰が誰なのか分かるように工夫が欲しいと思いました。
柊 悠里「最小粒度が最高に美しい!」
https://school.genron.co.jp/works/sf/2022/students/tarotaro777/6505/
私の理解による要約
1. データ構造を正規化しなくても高速に動作するデータベースが実現し、超巨大なデータセンターが建設され世界のデータが一元管理されるようになった。しかしそのデータベースには利用者を選別し格差を生み出す仕組みが組み込まれていた。
2. クラゲのような生き物が共食いによって存在している世界。体のパーツを21種類の部品から作り上げる生物が出現し、共食いによってしか生存できなかった生物たちは駆逐される。新しい生物たちのある集団は遺伝情報の設計を制限することで集団の秩序を保っていた。しかしその中から遺伝情報の設計の制限を撤廃したいと望む者たちが現れる。
3. 折りたたまれた7次元を属性情報として使うことで3次元空間に存在する素粒子の情報を記録しようという試みがはじまる。しかしそのデータベースの制約に不満を持った者たちによって制約のない別宇宙が作られる。
感想
データベースにおける性能のトレードオフの葛藤をストーリーにしたのかなと思いました。
・別々の三本の話が独立に存在してるように見えるので、何らかの共通点を持つ描写を入れる必要があると思いました。データベースの話、生物でデータベースのアナロジーをやる話、素粒子データベースの話と、データベースの話がずっと続くので、データベースに興味がないと辛いと思いました。私は興味ありますが、むしろ興味があるともっといろんなデータベースの可能性があるのではないかと思いました。
・制約と自由という対比がある話だと思いますが、一つ目の話だと不公平な仕組み自体が悪意的にデータベースに組み込まれているので、話全体の構造からするとずれてしまってノイズになると思いました。
・「自由」側がとにかくいいという話になってると思いますが、実際にはトレードオフがあるわけなので、「制約」側と「自由」側の相互的批判的なやり取りの中でシステムというのは洗練されていくのではないかと思いました。
継名 うつみ「Back to work, Girls!」
https://school.genron.co.jp/works/sf/2022/students/uchang/6635/
私の理解による要約
仕事でメンタルをやられVR心理治療を行っている私は、復讐したい相手の人相をしたパネルを銃で打って感情を風化させるという療法をしていた。しかしなかなか上手くいかず、同じ療法をしている別の患者と復讐の相手を交換するという提案をされる。交換相手の患者の女性は性格が正反対で気が合わないが、彼女がVRで職場の人間たちをやっつけるのを見て気分がよくなる。私も彼女の復讐相手である彼女の父をVR内でやっつけ、彼女も改善が見られる。誰かに痛みを共感してもらいたかったのかもしれない。そして二人は職場に復帰する。
感想
「心療内科で変わった治療をしたら治った話」として読みました。私自身としてはメンタルやられるような職場の人は思い出したくないので、大変な治療だなあと思います。他の患者が介在するという点でグループセラピーみたいなものかなと思いました。メンタルヘルスの治療ってしんどいし長期間かかると思うので少しうまくいきすぎかなと思いました。作劇的には、心理のお話なので、もっとキャラクターの内面に迫るようなピンチに陥った方がよいと思いました。
夕方 慄「ポタラカへとんでゆく」
https://school.genron.co.jp/works/sf/2022/students/yougatar/6626/
私の理解による要約
星々を渡る鉄道に乗って〈じぇねりっく・ぽたらか〉についた〈ぼく〉は、空気が薄い山で高山病にかかる。病院で治療を受けホテルへと運ばれる間、女の子がオナモミという植物を首に向かって投げてきた。女の子の夢をぼくは見る。起きるとおばさんが果物を買って帰ってきたが、話しているとおばさんが女の子に変わっていく。ぼくは女の子と一緒に羊に乗って出かける。ぼくが乗ってきてた鉄道は偽物であり、本物の鉄道は星の中心へと向かうと女の子は言う。そして女の子は竜に変身する。ぼくはオエっと果物の種を吐き出して夢から覚め、地球へと連れ戻される。
感想
童話ですね。童話を読むってなると宮沢賢治とか星の王子さまとかグリム童話とかの古典を読むと思うので、現代で童話を売るということになれば小説よりは絵本にしたほうがよいと思いました。そう考えると、オナモミがどういう植物なのかとか、ポタラカ宮殿がどういう建物なのかとか挿絵があればよいと思いました。童話だという点で、SF創作講座で選出されるかどうかでいうとかなり不利だと思いました。梗概時点で作品として書いてあると思うので、この時点での感想を書くと、それぞれのアイコンの印象が弱いと思いました。竜に女の子が変身するのと汽車が出てくるところが印象に残ってて、それ以外はふわふわしてると思います。