学習支援NPOの代表を続けてきて。「声を発すること」で誰でも世の中を変えていける
発信することで、おかしいと思ったことが変わっていく世の中になってほしい。
時代の流れと共に、夫婦共働きをしながら子育てをしていく家庭が増えました。教育の在り方がこれまで以上に問われるようになった一方で、雇用と教育の問題の取り扱いがいつまでも分離したままで、なかなか社会全体で子育てを許容していく文化が根付いていない日本の現状があります。
こういった一つひとつの社会の問題に対して、我々はどのように向き合っていけばいいのでしょうか。今回取材させていただいた井上さんは、そのヒントは「発信すること」にあると考えています。
学習支援へのこだわり
Crèche(クレイシュ)というNPO法人の代表の務めており、子どもへの学習支援事業をしています。大学生時代に初めて学習支援ポランティアに携わってから、もう9年この領域で活動しています。
どうして学習支援という形態なのか?という事業の在り方や、NPO法人として運営していくこと、社会課題についてなど、普段考えています。「NPOの代表」というだけで大層なイメージを持たれますが、不得意なことも多くて弱さも歪みも抱えているような人間です。
井上やすたか
大学在学中の2013年8月より認定NPO法人Teach For Japan関西事業部、NPO法人Learning for All関西事業部で非常勤職員として運営管理に従事。
その後、2016年10月に特定非営利活動法人クレイシュを設立。現在は大阪で無料学習支援「まなびば」を運営。
子どもを家庭内だけでなく、社会全体で育てていく
学習支援事業を続けている動機の一つは、子どもを社会全体で育てる、という価値観が全く浸透していないことへの危機感からです。
学力や生活習慣、コミュニケーションやセルフコントロール等のソーシャルスキルなど、子どもの発達段階に合わせて必要な力は数多くあると思います。大学生時代からたくさんの子どもと関わってきて、「このまま大人になるの?大丈夫か...?」と思うような子どもたちと数多く出逢ってきました。
子どもにとって必要なスキルを獲得するためのサポートができていない。親が子に愛情を注ぐことができていない。「仕事で忙しいから」など、様々な理由で家庭内での関わりを十分に持つことができずに、子どもが辛くなっていく、親もどんどん疲弊していく。そんな悪循環が耐えられなかった。
そもそも、子育てってその家庭内だけで完結しなければならないものなのでしょうか。大変な日々に追われて疲弊していくんじゃ、少子高齢化の改善なんて夢のまた夢で、「子どもを生みたい、育てたい」と誰も思わなくなる。子どものサポートは家庭内の親だけがするものではなく、地域のコミュニティや教育機関、民間の塾など頼れるところはたくさんある。それを、「価値観、文化レベル」で世の中があたりまえになるように育んでいく必要があるなと。
あとはそこまで深くないのですが、誰もやってなくてやりたがらない領域なので、「だったら自分たちがやるしかない」と思って続けてきたら今に至ります。
これまで様々な活動を行ってきたのですが、自然と頑張り続けることができたのが子どもへの支援でした。自己紹介でもお伝えしたのですが、僕はできないことも多いし、意識も高くないし、ダラダラもしていたい。怠惰な性格なので、「自分のために頑張る」ということをこれまで成し遂げたことがありませんでした。
子どもって純粋で、まっすぐなんですよね。子どもが頑張っている姿を見ると、「自分も頑張らないとな」と常に思わされます。子どもが来てくれるから、我々はやらざるを得ないんです。その使命感が自分を突き動かしてくれるので、今もこうして続けることができています。
「おかしい」と思ったことが変わっていく世の中に
家庭にお金があるから子どもの学びを担保できる、お金がないと子どもに十分な機会提供ができない。経済力の可否で、教育格差だけが語られている今の世の中に違和感を持ちます。
子ども成長がしっかりと担保されている家庭って、そもそも親が文化的環境をちゃんと知っていたり、塾や習い事などの学びや好奇心を育む機会を提供しています。でも、それも結局経済力なんですよね。お金を支払って、子どもの支援を外にアウトソースしてしまっている。
それを悪だとは思わない。ただ外の機会提供のサービスが増えてくる一方で、本来在るべき「公教育・学校内での質の担保」ができていないからこそ起こっている現状だということをもっと知ってほしい。大人側の、文化的環境やリテラシーを育むために一定水準の経済力って必要だと思うんです。だから、雇用問題にもっと目を向けられてもいい。共働きの家庭が増えているからこそ、教育と雇用問題って切っても切り離せない。
この時期になると話題になる「待機児童」の問題。社会問題として顕在化した一つのきっかけって、「保育園落ちた、日本死ね」というある一市民からの発信なんですよね。困っていることに対して誰かが発信することで、他の人の共感を呼んで勇気づけとなり、この件に関しては制度改正に結びつくほどの大きなムーブメントになりました。
生きていると辛いこともありますが、もっとポジティブに捉えられる人が増えたらいいなと思います。発信=社会活動として結び付けられがちですがそんな大層なものでもなくて、日常生活のほんのすき間の時間に呟くとかでもいい。発信することで、おかしいと思ったことが変わっていく世の中になってほしい。
楽しそう!のきっかけ作り
NPO組織の代表として、主要事業である学習支援の土台作りに引き続き励んでいきます。利用してもらいやすいように安価で、かつ質の高さも実現できるようにこだわっていきます。軸となるような事業を、1~2つ作ることも構想しています。
学習支援とは違う切り口で、もっと手軽に社会のことを考えるきっかけとなるような「入口」をたくさん作っていきたいです。飲み会でもいいし、読書会でもいいし、スポーツ大会であってもいい。
興味を持ってもらえるなら、「おもしろそう」「楽しそう」でもきっかけはなんだっていい。対面で触れ合って知ってもらうような接点を増やして、みんなで世の中をよくしていけるような活動をたくさん生み出していきます。
話し手:井上 やすたかさん
(NPO法人クレイシュの活動内容はこちら)
取材 ・執筆:はやし
《家族支援 / 生き方取材ライター》
(株)LITALICOにて子どもと保護者の双方を支援する教育事業に携わる傍ら、取材 / ライター活動やコーチング事業も行う。執筆歴:『保育士BOOK』『Dressy』『ZaPASS参加者インタビュー』他
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#lifestory
『取材での対話と発信を通じて "その人の生き方" に光を灯すインタビュー記事』
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