人生を深く生きるヒント—モリー先生が教えてくれたこと
『モリー先生との火曜日』という本をご存じでしょうか?
この本はアメリカで出版され、2000年にノンフィクション・ベストセラーとなり、日本語訳も出版されています。難病ALS(筋萎縮性側索硬化症)に侵されたモリー・シュワルツ教授が、死を前にして、かつての教え子であるミッチに贈った「最後の授業」を記録したもので、対話形式で物語が進みます。
モリー先生の「最後の授業」のテーマは「いかに死ぬかを学べば、いかに生きるかも学べる」というものです。
身近な人の死が近づくと、私たちはその人をあわれみ、どう言葉をかけたらよいのか、どんな表情で接すればよいのかと動揺します。普段、死について考えることはほとんどなく、身近な人の死が突然迫ってくると、驚いてしまうのです。
車の運転ができなくなり、杖を使うようになる。
着替えができなくなり、足が動かなくなり、寝たきりの生活となる。
食べたいものが食べられなくなり、やがて排泄も誰かに手伝ってもらわなければできなくなる。
一緒に過ごせる時間が減っていくという冷厳な事実を実感せざるを得なくなります。
モリー先生はこう語ります。
元気なうちは、仕事のこと、人間関係のこと、お金を稼げるか、ローンを返せるか、マイホームを建てられるか、出世できるか、子どもを有名大学に入れられるか、海外旅行に行けるか……。そんなことに忙しく追われます。
これらは生きていくうえで必要なものですが、自分が死出の旅に出るときには、すべてを置いていかなければなりません。
モリー先生はこう言います。
これは仏教でも
「無常を観ずるは菩提心の一(はじめ)なり」と教えられています。
「無常」とは、仏教では「死」のことを指します。
「菩提心」とは、幸せのことです。
死を見つめることが、本当の幸せの第一歩である、という意味です。
死について考えることは、決して心を暗くするためではなく、限りある人生を心満ち溢れる明るいものに変えるための大きなヒントを与えてくれるのです。