数学科に進学する君へ。そして数学科をやめたい君へ。
4月も2週目が終わろうとする今、華やかな入学式を迎えた新1年生も多いと思います。そしてその中には既に数学科進学を後悔している学生や、片やこれから待ち受ける厳密な数学に胸を躍らせる学生もいると思います。確かにネットで「数学科」と検索すると、検索候補に「頭おかしい」「やばい」「やめとけ」などといったネガティブ満載な単語が含まれていて、実際大学によっては「数学棟は病棟」なんて揶揄されることも(事実病んでしまう学生が毎年出てきてしまう)。なぜ数学科はこれほどまでにマイナスイメージが多いのでしょうか。数学科の実態を見ていきましょう。
抽象度が高い
調べると必ず出てくる大学数学の抽象度の高さ。これが大学数学を今までの数学から大きく分ける理由でもあり、病む人が多い理由でもあります。グラフを書けば可視化できる高校数学に比べ、大学数学では基本的に目に見えないものを追っていくので、当然扱う数学の抽象度も上がっていきます。抽象度が高いと何が起こるのかと言うと、教科書や先生の言ってることが日本語とは別の言語に聞こえてきます(いわゆる数学語)。鬼のように難しい講義だと、講義中一言も理解できないことも珍しくないので、板書したノートの数学語を何日もかけて解読する必要があります。
そして数学は基礎の積み重ねがなにより大事なので、1年生で習ったことが曖昧だと2年生で詰み、2年生、3年生は留年の危機にも瀕します。数学科以外にも当てはまるとは思いますが、この学科の辛いところは、「留年間近だから勉強しないと!」と思って勉強してもまったく進まないことです。定義一つ理解するのに数週間かかることもザラで、理解できない場合は何が理解できていないかを明確にしないと進まないし、理解できていないことが1、2年生の内容だったりした時は復習し直す必要があるので、精神的に削られます(筆者だけかもしれませんが、、、)。なので筆者のようにテストが終わったら覚えたことがリセットされてしまう癖がある人は数学科では苦労することが多いかもしれません。
特に1、2年生で習う線形代数や実解析といった基礎知識は学年が上がっても必ず必要になってくるので、単位を取ること以上に「しっかり理解しているか、自分の言葉で定義や証明の説明ができるか」ということに焦点を当てながら勉強する必要があります。
数学科でやっていける人は、基本的に人並み以上の忍耐力があるか逆境を楽しめる性質を備えています。そして数学科進学を考えている学生は一度大学数学の教科書を手に取り、感覚を掴んでから決心することをオススメします。決して「高校で数学が得意だったから」という理由だけで、数学科を選んではいけません。
有名大学でも無名大学でも等しく難しい
当たり前ですが、数学の定義はどの国であろうとどの言語であろうと同じで不変です。これが何を意味しているかと言うと、どこの大学に行っても数学の難しさは一緒なのです。もちろん、レポートや試験の難易度に差異はあるでしょうが理解しないといけないことは同じなので、数学科に進学したい場合は、どのような状況でも数学を楽しめるか、起きてる時間のほとんどを数学に捧げられる覚悟はあるのか、今一度確認した方が良いでしょう。
就職が不安
数学科に進学した学生の共通の不安として就職があると思いますが、数学科卒は案外就職に強いです。就職活動において、数学科の学生は基本的に「数字に強い」点と「優れた論理的思考力」を買われるので、保険や金融系に入りやすかったり、統計学や応用数学を専攻している学生は研究職にも就けます。また、数学科はプログラミングの授業が必修であり得意な学生も多いので、IT系に進む学生も少なくありません。数学科卒と聞くと中学、高校教員を思いがちですが、企業からすると数学科自体が珍しい場合もあるので、上手く利用すれば他の学生にはない強みになります。
数学の全てを理解しようとしてはいけない
数学と言ってもその研究分野は多岐にわたり、代数学、解析学、幾何学の三つのメイン分野からまたさらに細分化され、数論、グラフ理論、ルベーグ積分、、、などなど挙げればキリがありませんが、これら全てを勉強して理解することは不可能です。
学問とは、永遠に伸び続ける天井のようなもので、発展し続ける限り、天井に手が届くことはありません。全ての分野を完璧に理解しようとすればするほど、精神的に病んでいきます。現役の数学者でさえ、専門分野外のことはほとんど無知なこともあるので、一つ好きな分野を選んで学習、研究することをおすすめします。
数学科を辞めたい学生へ
一言、「辞めても良いんだよ」。数学科にいた身として理解できることは、辛い時は本当に辛いんです。どれだけ勉強しても成長した気がしないし、抽象度の高さのせいで勉強する意味を失いやすいのが数学です。周りのレベルが高いと追い討ちをかけるように自尊心も削られていくので、急に頭が回らなくなったり突然涙が出てくることもあります。そのような状態になったら数学よりも自分の心のケアを最優先にしてください。数学なんて大人になったら幾らでもできますが、一度精神を壊してしまうと元には戻りません。休学しても良し、旅に出るのも良し、ふとした瞬間に「あ、数学やりたい」とまた思えるまでゆっくり休んでください。数学から出た世界には楽しいことややるべきことでいっぱいです。学問に呑まれるくらいなら少しだけでも距離を置きましょう。
数学科には実験がありませんが、逆にそのせいで病んでしまう人もいます。数学は脳内で全て完結してしまうので、寝るまで数学について考えてしまい、ノイローゼになりやすいのです。実験は実験室にいる間だけできますが、数学は家にいても買い物していても頭に浮かんでしまうので、最初の頃は楽しくても、段々と苦痛に変わってしまうこともあります。そういった時もなるべく頭を空っぽにして、リフレッシュすることを心掛けてくださいね。
まとめ
数学科の実態を少しネガティブな視点から解説してみましたが、数学科で良かったなと思えることもたくさんあります。ずっとできなかった証明ができたとき、3、4年生になって1、2年生の教科書を見直したら理解できたとき、他の人に難しい定義をわかりやすく説明できたとき、大学数学のほんの一部分でも理解できたときの嬉しさは、やはり数学科でないと味わえません。もちろん、数学科が合うか合わないか実際に入ってみないことにはわかりませんが、もし苦しくても無理をせず、程良い距離感を保つことを意識して、楽しみながら数学徒として歩んでくれたらと思います。