アフリカvs欧米でカカオ戦争

カカオ豆の価格をめぐり、アフリカの主要生産国と欧米など先進国のチョコレート業界との間で紛争が起きています。コートジボワールなど生産国は価格がこんなに低くては農家が生活できないと訴え、値上げを強く求めています。チョコレート業界の対応は不十分だと不満を募らせており、抗議の意思表示として、2022年10月には業界の会合への参加を取りやめる事態にまで発展しました。チョコレートというとても身近な商品について、利益は誰にどういうふうに配分されるべきか、難しい問題を突き付けています。

不満を募らせているのは、カカオの生産が世界首位のコートジボワールと第2位のガーナでつくる「コートジボワール・ガーナ・ココア・イニシアチブ」(CIGCI)です。両国で世界生産の5割以上を占めています。石油輸出国機構(OPEC)のカカオ版として、COPECとも呼ばれています。チョコレート製品の市場は堅調に推移し、先進国の大企業は巨額の利益を得ているのに対し、原料となるカカオの生産は重労働である上に価格は低迷し、農家は低所得で苦しんでいるという厳しい現実があります。

CIGCIは、こうした状況を改善しようと、2018年3月に設立されました。2021年8月に正式に活動を開始し、事務局はガーナの首都アクラに置かれています。2022年10月12日にコートジボワールのアビジャンで開かれた会合には、カメルーンとナイジェリアがゲストとして参加し、CIGCIへの加盟する意向を表明しました。この2国が加盟すれば、世界のカカオ生産のほぼ3分の2を占めることになります。

FAO資料より作成

国連食糧農業機関(FAO)の統計によると、2021年の世界全体のカカオ豆生産は558万0432トンとなりました。過去最高なった前年(578万0850トン)から3%余り減少しましたが、過去2番目の高水準です。1961年以降の60年間で4.7倍に増えています。首位のコートジボワールが世界シェアのほぼ4割を占め、2位ガーナが15%、3~6位はブラジル、エクアドル、カメルーン、ナイジェリアと続きますが、いずれもシェアは5%余りで僅差となっています。

FAO資料より作成

CIGCIのウェブサイトによると、世界のカカオ市場はこの半世紀にわたり価格の変動が大きい上、実質で年2%値下がりしてきました。これに対し、チョコレートに加工された製品の市場は安定しており、カカオ農家が得られる収入はチョコレート販売総額のわずか5%ということです。かつては繁栄していたカカオ経済は、今や貧困の経済となり、何百万もの小規模農家がまともな収入を得られない状況に陥っていると嘆いています。こうした苦境を打開するため、「カカオ生産者に適正な賃金を提供し、森林や生物多様性の保護に貢献し、基本的な社会的権利と人権の模範となることで、カカオ生産を豊かで持続的なものに変えていく」と訴えています。

その上で、CIGCIは以下の6点を主要目標として掲げています。

1、適正な価格とカカオ農家の生活向上を実現する
2、カカオの消費や利用を促進し、強化する
3、国際カカオ市場や国際フォーラムで加盟国の共通の利益を促進し、育成し、擁護する
4、カカオ生産が直面する課題について学び、革新し、協力する
5、相互の利益のため、カカオに関する科学的、経済的、技術的情報を共有する
6、加盟国のカカオ生産や販売政策を調和させる

CIGCIは2022年10月25日、欧米のチョコレート製造会社などでつくる「世界カカオ基金」のパートナーシップ会議に参加しないことを表明し、衝撃が広がりました。この会議は10月26~27日にベルギーのブリュッセルで開かれましたが、CIGCIのアレックス・アサンボ事務局長は「われわれは現状に満足しておらず、農家の生活を脅かすことはしないという明確なメッセージを送りたい」と述べ、抗議行動の一環であることを明らかにしています。

CIGCIは、農家が適正な所得を得られるように、リビング・インカム・ディファレンシャル(LID)として、チョコレート業界に対し、1トン当たり400ドルを市場価格に上乗せしてカカオを買い取るよう求めています。チョコレート業界は表面的には同意しておきながら、水面下では価格を引き下げるよう求めており、約束を守っていないとCIGCIは主張しています。世界カカオ基金には、米国のモンデリーズやハーシー、スイスのネスレといった欧米企業をはじめ、江崎グリコや森永製菓、明治など日本のチョコレートメーカーも多く含まれています。米国の食料メジャーのカーギルなど商社も参加しています。

CIGCIは2022年11月上旬にチョコレート業界に対し、LIDに沿ってカカオを買い取るよう改めて要請しました。11月中旬には関係企業との会合も開催し、問題解決に向けて専門家による作業グループを設置することを決めました。長期的に持続可能な価格安定メカニズムを確立できるように、2023年3月末までに提言をまとめるということです。どういう形で決着するかは依然として不透明ですが、歩み寄りの機運は生じているようです。

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