老舗製麺所が、地図にPINを立てる| 導入事例 - 株式会社丸山製麺様
新しいマーケティングスタイルへのパラダイムシフト
全国を旅する人気ラーメン店「ヌードルツアーズ」。その旅の道具は、街でよく見かけるようになった冷凍自動販売機。名店の味を自宅で楽しんでもらいたいと、老舗製麺所が打ち出した新業態でした。自社工場の前に設置した1台目は、あるYouTuberの発信によって拡散され大きな反響に。それをきっかけに2年弱でラーメン店25ブランドが参加し、自販機の設置は全国150カ所と急成長を遂げました(2022年12月時点)。そんな新事業の仕掛け人は、丸山晃司取締役。IT関連のマーケティング領域で培った経験とノウハウから、プル型マーケティング施策を実行。短期間で成長させた丸山さんに、ヌードルツアーズのマーケティング発想を伺いました。
非対面であり、名店の味を家庭で楽しめる冷凍自販機は、発想からわずか1ヵ月でスタートした。そこに働いた老舗の力とは・・・
ヌードルツアーズは、昭和33年に創業した丸山製麺の新規事業として、2021年に誕生しました。発想から1ヶ月後にスタートするという、猛スピードで走りはじめたのです。完璧なプロダクツをつくってからではなく、走りながら構築するというアジャイルな発想でやっていました。色々な新規事業を考えていくなかで辿り着いたのが、ヌードルツアーズでしたが、その2ヵ月前は、「乾麺をやろうかな」って冷凍の逆を考えていましたよ(笑)。
何故、冷凍麺だったのか。丸山製麺の基本は、全国の麺を扱う店舗に向けて業務用の麺を卸すB to B事業ですが、一部、一般消費者向けに冷凍麺の通信販売も手がけていました。ところが、送料がネックで伸び悩んでいました。ユーザーさんの送料負担をなくすために、ある程度の金額設定をすると、その量を購入されたユーザーさんは、自宅の冷凍庫のスペースを独占してしまうという悩ましい現実もありました。うちも送料が利益を圧迫していましたから、なかなか軌道に乗せることができなかったのです。
そこで、「一食でも買ってもらえるプラットフォームはないか・・・」と試行錯誤するなかで思いついたのが、冷凍自販機で人気店のラーメンを売る、というアイデアでした。冷凍麺販売の実績もありますし、人気ラーメン店とのつながりを持っていたのでコラボ商品も見込めます。地方であれば、東京まで行かなくても人気店の味を楽しめますし、コロナ禍での非対面、キャッシュレス決済の自販機なら、盗難被害や壊される恐れが低いというのも大きなポイントでした。こうして、一気に展開する勢いが生まれたのです。
ヌードルツアーズのスピード展開を後押ししたのが丸山取締役の時代感覚とSNSを熟知した“待ち”のマーケティング戦略だった
商品名はヌードルツアーズ。以前、UDON LABOというのをやったのですが、欧文だと浸透しづらいという経験があったので、カタカナでヌードルツアーズと名付けたのです。マーケティングは、コストをかけた広告宣伝ではなく、取材を受けて媒体に露出させてもらうことで広がっていきました。一番の立役者はYouTuberさんで、とても相性がよく、取り上げてもらったことが大きな宣伝につながったと思っています。
スタートして1年半が過ぎた頃、流石に当初の物珍しさ感は薄れていましたが、それでも広告に予算を投下せずに、SNSなどを通してユーザーコミュニケーションをつくっていく方法を取り入れました。具体的にはユーザーさんがTwitterに投稿してもらいやすい環境をつくることです。こちらから積極的に攻めていくのではなく、コントローラビリティのない、あくまで待ちのマーケティングですね。そして、認知度があがったところで、地図と結びつけた広告が次のステップでした。自販機の場所をユーザーさんに伝えるためです。
「自販機どこにあるの?」というユーザーさんに応える旗印。地図を活用したマーケティングが、認知度と場所をつないだ!
ユーザーさんは、Googleマップなどを利用してヌードルツアーズの自販機場所を探しているという現実を知り、地図と自販機の位置をリンクさせることを考えていました。ちょうどその時、ある方から「地図でピン広告が出せるよ」と教えてもらったのがマップボックスです。
それまでGoogle向けのMEO(地域限定のSEO対策)は、掲載情報のチェックやレビューに対するレスポンスなどは、しっかりやっていました。書き込みがあってからこちらが動くのに対して、先に手を打つのがマップボックスの広告。設置された自販機をゴールとして、そこへつながる動線を重視するコンバージョンポイントとして出稿したのです。結果、想定以上にルートの検索率が高くなりました。
マップボックスへの出稿は首都圏がメインですが、地方に広告を出稿した際、どんなリアクションになるのか試してみたい要素です。地方ですと電車文化がないので、車の通行量が多い通りでしょうね。車と自転車、徒歩によって広告手法は変わってくると思っています。電車文化の都内と、車文化の地方、どちらがマップボックスと相性がいいのか、そのあたりをしっかり検証していきたいですね。
コロナ禍におけるライフスタイルの変化を背景に、ヌードルツアーズは、「家ナカ」ラーメンの存在感を高めている
自販機の設置場所は、東京圏内ですと自由が丘、梶が谷、宮前平といった山手線の外が多いですね。商品特性が、「ご自宅で調理していただく」というものなので、オフィス街ではなく、住宅地の駅ナカや駅チカが設置に適した場所です。それが「家ナカ」ラーメンに繫がっています。現在は、そうした設置場所も随分と多様化しています。ヌードルツアーズの運営は、直営とオーナーさんの2通りで、比率はオーナーさんが7で直営が3ぐらい。オーナーさんは、所有する土地の有効活用や、飲料自販機をヌードルツアーズに置き換えるなど色々なパターンを考えられます。
冷凍食品って、保存食とか緊急時というイメージもありましたが、コロナ禍で、皆さん冷凍食品を食べる機会が増えたと思うんです。そこで「あれ、冷凍食品って美味しいじゃない?」と気づき、「家で美味しいものを食べたい」というなかに、本物の味の冷凍食品が選択肢の一つとして、加わったと思っています。
その裏付けとして意外なニーズがありました。ラーメン店の顧客比率は圧倒的に男性が高いのですが、ヌードルツアーズは、女性の利用者が若干多いのです。そこには「ひとりでは行きづらい」とか、「小さな子どもを店に連れて行けない」といった、行きたくてもリアル店舗に行けない事情を持った女性顧客層のニーズがありました。スーパーでも売っていない名店の味を楽しみたい地方のニーズと、都内の新たな女性ニーズが、ヌードルツアーズの反響につながったといえます。
人気ラーメン店(ヌードル)の詰まった自販機の旅(ツアー)は全国に、あらたなラーメン文化を残している
実は立ち上げ当初は、ヌードルツアーズの地方展開なんてまったく視野にありませんでした。ところが、うちの会社の前に置いてみると、設置後2日目にYouTuberさんが来てくださって、Twitterでも初速でバズったんです。以前、工場の前で月に1度の直売をやっていたこともあり、その時は大行列ができる程反響があったので、工場の前に自販機を置いたらいけるだろうという自信はありました。それが今では、全国展開。コロナ禍によりライフスタイルが変化したこともあって、うまく時流に乗れたと思っています。
ヌードルツアーズの自販機に入っている名店は、こちらからの働きかけというよりは、お店側からの積極的なアプローチで実現しました。どこの店舗も、コロナ禍で売上が厳しい状況でしたから、対面以外の売り方を探っていました。完全なプル型マーケティングですね。それに、僕はそんなにラーメンを食べ歩いて営業を考えるような情熱経営者ではないですから(笑)。
取材の後、工場の前に設置されたヌードルツアーズの自動販売機を説明してくれる丸山晃司取締役の語り口や表情は、やっぱり情熱的であったことを付け加えさせていただきます! その自信に満ちた表情を見ていると、だからこそ人気ラーメン店(ヌードル)の詰まった自販機の旅(ツアー)は、日本の地図に「新しい形のラーメン文化」というピンを打ったんだな、と素直に納得することができました。
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