
【まほやく〜21章考察】愛すべき「傷」②(ネタバレ)
まほやく、雨待花イベントストーリーを読み、図らずもシノSSRをお迎えした。ご縁を感じたので、シリーズ2回目は東の国の魔法使いであるシノ・ヒースクリフについて考えたい。
旧シリーズのテーマである「身」「魂」の問題と切り離せないように思えたので、その内容も含むかと思う。
前回記事未読のかたは、①からお読みいただければ幸いである↓
今回は前回記事の流れに沿って、「傷」をテーマに、東の国の魔法使いである、シノ・ヒースクリフについて考察する。メインストーリーと、イベントストーリーのネタバレを大いに含むことをご了承願いたい。また、カード・親愛ストーリーは全く読んでいない上での妄想である。ご容赦願いたい。また、記事中の画像は全てゲームアプリ内の引用である。
1.シノとヒースクリフ
まずは今回扱うシノ・ヒースクリフの二人について、基本情報を確認していく。
シノ→東の森の案内人であり、ヒースクリフの実家であるブランシェット城の使用人。ブランシェット家に拾われるまで、天涯孤独なその日暮らしをしていたようで、ヒースの両親およびヒースへの忠誠心が非常に強い。ヒースのためにも英雄になることを望む。ヒースクリフと「無理やり約束させられた」
ヒースクリフ→前回の「大いなる厄災」の直前に加入し、仲間2名が石になるさまを目の当たりにした。ブランシェット家の御曹司で、顔も頭もいい。目立つことを忌避しがちで、賢者の魔法使いであることも表沙汰にしたくない。厄災の傷により、(危機的状況になると)黒い獣化し、記憶をなくす。シノと「無理やり約束させられた」
今までほとんど扱っていない二人なので、少々理解が浅いがお許しいただきたい。
2.シノ―孤独に「傷つかない」過去
シノの過去は前述の通りである。さぞかし傷つき、孤独にあえいで生きてきたのだと思ったのだが、シノはすでにそれを乗り越える術を得ていた。
「どこにいても、ここは自分の場所じゃないと承知していれば、この心は傷つかない」
孤独マイスターとでも言えばいいのか。こんなに若いのに、なんという苦労人か。絶対に幸せになってもらいたい。
さて、そんなシノはブランシェット家に拾われた。
理想的な夫婦、そして御曹司ヒースクリフの存在により、シノは
「初めて、ここは自分の場所だと思えた」
と言っている。
もう一度整理しよう。
自分の居場所がなかった過去:心は傷つかない
自分の居場所がある現在;心は傷つく
ということになるのである。
失いたくないものがあれば、それを守るために強くなる。
しかし、その一方で、失ってしまえば、脆くなる。
果たしてシノは強くなったのか、それとも弱くなったのか…
3.ヒースクリフ―「傷」がないのに、隠す
ブランシェット家の御曹司であるヒースクリフは、いわゆる「非の打ち所がない人間」であるかのように周囲から思われている。その中にもちろんシノも含まれる
「賢者の魔法使いになったことも、旦那様譲りの頭の良さも、奥様譲りの美貌だって、自慢すればいい」
とシノにいわしめるヒースクリフだが、本人は「目立ちたくない…」という姿勢を変えない。特に魔法使いになったことに対する消極的な姿勢は顕著である。
これが物語当初からシノとの間にある、深い溝になっている。
シノは、魔法使いだったことで、ヒースクリフと友達になることもできたし、ブランシェット家に貢献することができたと考えている。
しかし、ヒースクリフは魔法使いであることに好意的ではない。
つまり、シノにとっては「大切な縁」である魔法が、ヒースクリフにとっては忌むべき「傷」である…と、少なくともシノは考えているのだ。
「傷」がないのに、なぜ隠すのか
誇れないのは、「傷」だと思っているからなのか…
このことに対するヒースクリフの態度は、メインストーリーではあまり明らかにされない。ヒースクリフの「傷」の問題をもう少し掘り下げて考えてみよう。
4.獣化という「傷」
完全なネタバレで申し訳ないが、ヒースクリフが厄災によって得た「傷」は、獣化であった。
しかも、金髪碧眼の彼にはまったくない要素である「黒」の獣である。
獣化したヒースクリフは理性も言語も感情も失い、シノやカインに襲いかかる。このとき、シノが結構な深手を負っていることに注意しなくてはいけない。
その後、元狼狩官であり、「けだものと親しい」オーエンがにわかに登場したことで、おとなしくなる。頰ずりして、オーエンと話をしているらしいのである。そして人間に戻ったヒースクリフには、獣化している時の記憶はないのだ。
単純に考えて、この「獣」―ヒースクリフの本性だと思うのである。シノは「ヒースに傍若無人になってほしかった」と言っていたが、もともとその素養は持ち合わせていたのである。
ヒースは身の内に獣を飼っていたのだ
「ブランシェット家の御曹司」としては、決して公にしてはならない激情、野心、暴力性、孤独…ヒースクリフはずっとずっと、それを抑圧し、隠してきたのではないのか。魔法を忌避したのも、抑圧してきた何かが溢れ出るトリガーになりそうだ…という予感があったようにも思える。
ヒースクリフは、内に秘めた自分自身を忌避している。
あたかもそれが「傷」であるかのように…
だから月は、「その傷を隠さず、愛しなさい」とでもいわんがばかりに、表面化させたのだと思うのだ。
それが御曹司であることの苦悩なのか、孤独なのか、隠れた野心なのかはわからないが、今後明かされていくだろう。
ところが、ヒースクリフはこの獣を愛することはできていない。そもそも獣の存在を自覚していないのだ。ヒースクリフがこの獣を受け入れ、「愛すべき自分の傷だ」と認識するには、他でもないシノが、ヒースクリフにこのことを知らせなければいけない。しかし、シノは隠している。
それが、ヒースクリフの「傷」だから
「傷がない」理想的なヒース坊ちゃんの「傷」だからだ
5.英雄―先例としてのファウスト
少し見方を変えて、今後の展開を予想していこう。
この二人、とかく「英雄」に縁がある。
ヒースクリフは名家の御曹司兼賢者の魔法使いであるため、「英雄」と目される(本人は歓迎していない)
一方シノは、ヒースクリフのために「英雄」になりたがる
さて、東の国の魔法使いの中に、もうひとり「英雄」にまつわる人物がいる。ファウストである。
建国の英雄と称された稀代の魔法使いは、親友である人間に裏切られ、火刑に処され、「正義になりそこねた」
そしてファウストは、メインストーリーでもイベントストーリーでも、しきりにシノを気にかける。
「お前は英雄になれる男だ。だが功を焦って勇気を無駄にすれば命を落とす」と諭す(東の国祝祭イベントストーリー)
現時点では、シノとヒースのどちらが英雄となるかは不明と言わざるをえない。ただし、ヒースが獣化している時点で、やはりシノが英雄となっていく可能性が濃厚だと言えよう。
英雄とその親友は、分かたれる運命にあることを、先例であるファウストが示している。
ヒースがシノを食い殺すのか
シノがヒースを撃ち殺すのか
あるいは
シノがヒースの犠牲となり石になるのか
ヒースがシノの犠牲となり石になるのか……
孤児と御曹司
もともと相容れない立場で生きてきた二人が交わることができたのは、「魔法」があったからだった。
しかし今、「魔法」のせいでヒースは傷を負い、シノを傷つけるようになった。「魔法」によって二人はわかたれようとしている。
ファウストの悲劇は繰り返すのか、あるいは…
やはりポイントとなってくるのは「傷」を愛せるかどうかであろう。
6.「傷」―ケモノを愛せるか
シノはヒースクリフに獣の存在を明かしていない。
もともと魔法を好意的に受け止めていないヒースに報せれば、気にやむから、という理由である。
つまり、シノにとって獣になったヒースは、忌避すべきものなのだ。それがふたりを結びつける「魔法」の影響によるものだとしても。
しかし、いつまでも秘密にしておくことができるとは思えない。「その時」は確実に迫ってきている。
前述した通り、ヒース自信が「受け入れがたい自分の本性」として隠してきたものが、獣化した可能性が高いと思われる。
だとしたら、シノが獣から目を背けるということは、「本当のヒース」からも目を背けるということになる。それは果たして、親友…主従…を超えた親しい関係だと言えるのか。
他なるシノは、ヒースが魔法使いである自分から目を背けて下を向くたびに、「オレが恥ずかしいって言われている気がする」と傷ついていたではないか。ヒースの本当の姿のの表象である「獣」から目を背けることは、「ヒースが恥ずかしい」という意識があるからだと…そう言い換えることだってできるのではないのか。
育成ストーリーの中でシノは
「どっちだっていい。どうだっていいのさ、この関係につく名前が何かなんて」
と二人の関係について言及している。
シノとヒースはかつての師匠に「騙されて」、互いが互いを守る、という内容の約束を交わしている。シノがそれを不本意に思っているのは、「俺がヒースを守る」という意識が強いからであろう。
やはりシノの中には、根強く主従関係という意識があり、「あいつと俺は対等な友達にはなれない」という揺るがぬ思いがあるのだろう。だからヒースがこれ以上傷つくことはできないのだ。だって、主君を守らなければならないから。
シノのこの固定観念が崩れ、獣化という形で表面化したヒースの本性を受け入れ、その「傷」までも「愛せた」時―
きっとはじめて、二人は対等な「友達」として、共存できる道を歩み始めることができるのではないだろうか。守り、守られるという約束も、その時初めて実現するのではないか。
それはきっと、生きる世界も、生き方も違う、魔法使いと人間、あるいは、月と魔法使いが「友達」になることと、どこか似ているはずである。
魔法使いたちの因縁、傷、過去、がひとつずつ解消されていくたび、この世界の問題の糸口が、見えてくるような気がしている。
まだ論拠薄い妄想をだらだら垂れ流してしまった。
今まであまり真剣に考えてこなかった東の国について考える良い機会であった。SSRシノには感謝したい。
ちなみに明日まで開催されている「雨待花」イベント「花咲く森に真実の愛を」のストーリーでも、このシノとヒースクリフの「獣」にまつわるエピソードが匂わされている。
同時に、これまで考察してきた、カイン・オーエン、シャイロック・ムルについても、かなり重要な発言がちりばめられているように思えた。これはなんとしても考察しておかねば…と思っているため、イベント終了を待って、改めて考察したいと考えている。懲りずにお付き合いいただければ幸いである。
長文におつきあいいただき、ありがとうございました!