【まほやく2部考察総括】「授受」でつながる魔法使い(ネタバレ)
新年あけましておめでとうございます。
昨年後半があまりの忙しさで、考察noteもすっかり更新が滞っており、大変失礼してしまった。まずはリハビリがてら、昨年9月に完結した「魔法使いの約束」2部を総括していきたい。
振り返れば、最初の考察記事が2020年。なんと、もう4年前。感慨深い。
アイナナ終盤と同じような「21名を描き切るのは難しい」とか、もうちょっと書き込みが欲しかったとか、いろいろ言いたいことはあるのだが、それは3部に期待するとして。
今回は、私が考察対象としてきた組み合わせについて、「(マナ石の)授受」というテーマで整理していきたい。
扱うキャラクターは、フィガロ&ファウスト、ブラッドリー&ネロ、カイン&オーエン、加えて、シャイロック&ムル、ミチル・ミスラにも触れるつもりだ。
いつも通り、大変なネタバレをする予定であり、妄想も多く含まれる。カードストーリーはほとんど読んでおらず、イベストもすべて読破していない。ゲーム以外の媒体の情報はほとんどチェックしていない上での、二次創作だと思っていただきたい。
また、記事中の画像は全てゲーム内からの引用である。
1.カイン&オーエン―肉体のつながりを超えて
2部前半で、カインは「オーエンを置いて行かない」という決意をしている。
これはいわば一方的な「約束」だと私は考えている。
オーエンは1.5部時点からカインに魔法を教えており、両者のウィークポイントを補うような歩み寄りがされてきた。
オーエンのウィークポイント:置いて行かれるトラウマ
カインのウィークポイント:魔法使いであることを隠してきた、魔法の弱さ
2部後半で強調されたのは、オーエンが持つ「騎士」に対する執着である。つまりは、騎士であるカインが「騎士でなくなるかどうか」を試すことで、オーエンは「自分にとっての永遠の騎士」を求めていたということなんだろうと思った。
これは、傷人格を問わずオーエンを貫く欲望である。でも、カインは「オーエンの騎士」ではない。「アーサーの騎士」なのだ。
(それゆえに、1.5部ではカインをケルベロスで攻撃してしまった)
ネタバレになるので詳細は省くが、今回のオーエンは、「カインを信じるアーサー」の傍らでカインを見つめたことが、大きな転機になったように思う。
最終的には、「騎士」としての能力を評価されて、瘴気の獣に物理攻撃を仕掛ける際も、「騎士ぶるのはやめろ」的な常套句を言わなくなっている。それどころか、他の魔法使いが自分を分け与えるように、カインに守護魔法だの呪物だのをあたえていくときに、オーエンは何も与えないのである。
(西の将軍を暗殺してあげる!という提案を拒否されたときは、かなり怒っていたことを考えると、信じられないほどの進歩である…)
それは、「既に目玉を与えているから」といえるかもしれない。…が、私はそうではないと思う。「「騎士であろうとする」カインを信じているから、与えなくていい」と考えたのではないか。だって今回は魔法は必要ない。騎士としてのカインの力のみが必要なのだから。
オーエンはもう一歩進んで、「騎士」の役割のその中の「カイン自身」の力を信じたようにすら思う。
オーエンは、カインから目玉を「奪い」、自分の目玉を「与えて」、彼とつながってきた。それがここにきて、与えもせず奪いもせず、魔法も関係なく、「信じる」ことでつながったのわけである。
「置いて行かない」「信じる」という「約束」と言ってもいいか。…感慨深い。1部からは想像もつかないことになった。二人で週に1回食事に行ってほしい。
言い換えれば、カイン&オーエンの関係性は「マナ石の授受」とは縁遠いとものである。ただそれは、既に「目玉」という代替品で「授受」を行っているからだ。肉体面で運命共同体になっていることに変わりはない。
どうにも、本作は一対一の関係を結ぶ際に、なにかしらの「授受」を介することが多いようだ。
この二人の関係性が、オズとアーサーと重ねられているのは間違いない。3部におけるオズ&アーサーの伏線として、2部ラストのカイン&オーエンが描かれたのだと思う。
2.ブラッドリー&ネロ―「授受」を不可能にする約束
欲を言えば、この二人が過去を乗り越えるくだりは、もう少し深堀してほしかった。ネロの負傷という危機的状況に乗じて…ということで駆け足になったように思う。
まず、二人の間の「マナ石の授受」問題を整理しよう。
ブラッドリーは「俺が死んだらマナ石はネロに食べさせる」という想いでいた。これは、ネロも同じであるが、ネロは「ブラッドリーに先立たれること」を忌避していた。
二人の間で少し違うのは、ブラッドリーは「ネロをマナ石にするのは自分だ」という意識があること。反対に、ネロは「石にされるならブラッドリーの手で」という想いでいること。
微妙にずれた二人の想いゆえに、ネロは「ブラッドリーが石になる前に、隣から姿を消す」という選択をした。彼が投獄されれば、石になる危険が遠ざかるからだ。
ネロ自身が回想しているが、彼はブラッドリーに守られたいわけでも、彼から何かを与えられたいわけでもなく、「隣にいたい」のである。
「マナ石の授受」をしてしまっては、相手と同化してしまうので、「隣に立つ」ことはできない。
この二人もやはり、「マナ石の授受」とは遠ざかったように思う。
ただ合言葉のように「お前を石にするのはおれだ」「俺を石にしてくれ」と言い合っているだけで、それはつまり「お互い以外の手で、石にさせない」という「約束」であろう。
本作中で、もっとも「わかりやすい言葉にせずともわかりあえている」感じをだしてきたところに、沼を感じる。二人は過去の関係を周囲に隠しているようだが、正直もうダダ洩れであろう。困ったひとたちだ。
二人で並んで歩むことを望むなら、ネロは双子への復讐を手伝わない気もするが、3部でどうなるか。なんとなく、同時に石になることを目指していそうだから怖い。
3.フィガロ&ファウスト―「授受」は「共に在ること」になるか
1.5部の段階で、ファウストの弟子復帰路線は示されていたので、そこまでの驚きはなかった。
むしろ、「うちの弟子、かわいいでしょ」なフィガロが見られて、見守ってきたかいがあったというものである。あんたがかわいいかよ。
ただ、フィガロの寿命が迫っていることについては、うやむやにされてしまった気がする。この部分は3部ではもう少し踏み込んでもらいたい。
これまでもこの二人については考察をしてきたが、概ね合っていたようである。(過去記事参照)
簡単にまとめれば、フィガロはファウストに「用済み」だと捨てられる前に逃げ、ファウストもまたフィガロに「期待外れ」だと捨てられたと思い込んだ…そういうことだろう。
フィガロは、「自分を信じ、必要としてくれる存在(=オズ)」を喪失
しており、
ファウストは「自分を信じ、導いてくれる存在(=父)」を喪失
していた。
お互いに虚を埋め合っていたから、お互いに期待しすぎてしまった。それが「永遠」だと。なのに、再び失ったからダメージや未練が大きかったのだ。
ただし、二人の関係が蜜月に戻ることで問題になってくるのが、フィガロの寿命である。
フィガロはファウストに自分の魔法のすべてを継承させるだけでなく、マナ石も食べさせようと思っているはずだ。
恐らくそれは「究極の、置いて行かない(裏切らない)」につながるし、「究極の、捨てられない(裏切られない)」にもつながるからだ。
フィガロ…おまえ…
一方で、フィガロの死はファウストにとっては「3度目の置き去り」である。(1回目は実父、2回目はフィガロ)
フィガロとしては、「マナ石としてファウストと同化することで、置いて行かない」という考えを貫くのだろうが、それをファウストが受け入れられるかどうか…
恐らく受け入れないだろう。
そうなったとき、気がかりなのは「人造魔法使い」の存在である。まさか、フィガロのマナ石を使って、「フィガロの再現」なんてものを作り出すのではないか…現状では、マナ石の持ち主の声色や性格まで再現はできていないようだが、新ムルとノーヴァが開発を進めれば、不可能ではなさそうである。それは…だいぶ鬱展開であろう。
この二人は、現状最も「マナ石の授受」が関係性に深く結びついている。フィガロからの一方的な「ファウストを置いて行かない」という「約束」も、結局はマナ石によって達成される(とフィガロは考えているだろう。
もちろん、ファウストがネロ同様に「フィガロの隣にいたい」と考えていれば、それは「置いて行かない」ことにはならないのが、切ないところだ。(当人たちはきっとそれに気が付いていない)
フィガロの死はあまり考えたくないが、終活と称して早めに話し合ってほしいものである(定期)。
4.フィガロとミチル―代替関係の終焉
もうひとつ。ファウストとの師弟関係復活に伴い、変化しつつあるのはミチルとの関係性である。
2部後半、ミチルはミスラを経由してマナ石を食べ、フィガロが与えたものではなく母の呪文を使うようになった。これについては今後どうするか迷っているようだが、フィガロが「ノーコメント」で終わっていることが気にかかる。
ファウストとミチルを簡単に比較しよう。
ファウストは、悪態をついていてもブランクがあっても、フィガロを信じているし、フィガロが教えた魔法を使役している。
ミチルは、フィガロの意向に反してマナ石を食べ、与えられた呪文も使わなくなった。言い換えれば、フィガロを「信じていない」。
つまり、ミチルにとってフィガロは「用済み」ともとれる。フィガロは、オズに「用済み」とされたトラウマから、「用済み」になるまえにファウストの元を去った。だとしたら、ミチルがまだ迷っているとしても、これらの行動に「用済み」の気配を感じないわけがない。
私はこの展開を読んで、フィガロの中の「北」の気質を強烈に感じた。
結局のところ、フィガロにとってミチルは「理想的な弟子」ではないのだ。所詮、「ファウストの代替」でしかなかったように思う。(もちろん、ファウストとの関係が修復されたからそう思えるのだろうが)
求められないなら、手放すだけ…このバッサリ感。そこに悲壮感はもはやない。やはりフィガロも北の魔法使いである。
ミチル担の方には申し訳ないのだが、「信じる」濃度の違いという点で、フィガロは完全にファウスト側に舵を切ったな、と思った2部後半だった。今後はミスラとミチルの関係性が注目されていくような気がするが…どうだろう。
思った以上にチレッタへの執着が強いミスラのことなので、ミチルにチレッタの石をたべさせて、「兄弟を守る」という約束を達成。さらにミチルの石を食べることで、「チレッタとの同化」まで欲していそうで怖い。この二人もまた、「マナ石の授受」とは切り離せない関係性にある。
5.シャイロック&ムル―「欠片」の在り処の転倒
この二人に関しては、「マナ石の授受」が「ムルの欠片の授受」に置き換わっている。ゆえに、かなりエグい関係性になっていると言わざるを得ない。
1部を振り返っておこう。
シャイロックは1部終盤、ムルの欠片を「食べて」いる。今思えば、これはマナ石を食べるのと同等の行為とも言える。「マナ石の授受」=「欠片の授受」である。
私はこのシャイロックの行動は、「ムルとの同化」を狙い、ムルと自分につなぎとめておく術だと思っている。
そして2部。
シャイロックはムルの欠片に、痛いところを突かれた。
「この嫉妬深さは、俺の潜在意識だと思う?きみの養育の結果だと思う?」
欠片を集めて、かつてのムルを取り戻そうとしているように振る舞いながら、新ムルは「シャイロックの欲望の形としてのムル」である…ということだろう。月ではなく、賢者でもなく、シャイロックに依存する新ムル。
ある意味では、人造魔法使いを作ろうとしたムルと同じように、「新ムルを作ろうとしている」のがシャイロックだと言えるだろうか。
これが完全に裏切られたのが、2部のラストだ。これまで、「シャイロックに欠片を与えられるのを待っていた」ムルが、シャイロックのあずかり知らないところで、自ら欠片を飲み込んでいる描写が、初めて出たのだ。
旧ムルの欠片は、ノーヴァとのつながりが示唆されていた。となれば、新ムルが自ら欠片を取り戻していくことで、ノーヴァ側にすり寄る可能性は高い。それはもちろん、シャイロックの養育の結果ではない。
むしろ、欠片の数からいえば新ムルにアドバンテージがあるのであって、欠片をひとつだけ飲み込んだシャイロックは、新ムルに引きずられていくように思われる。「欠片の授受」によりムルとのパワーバランスを保ってきたシャイロックだが、それが転倒していくことを予感させる、2部ラストであった。
6.ノーヴァとは―「傷のない世界」を求める者?
賢者を「愛しい」といい、賢者に似た気配を纏い、人造魔法使いを従えて、シャイロックの厄災の傷を治したノーヴァ。彼はいったいなんなのか。
個人的には、「月」の別側面ではないかと思っている。
厄災としての「月」もまた、この世界や魔法使いを愛していると思う。ノーヴァと同じように。
ただ愛し方が違うのではないかと思うのである
厄災としての「月」は「傷だらけの世界」を愛しており、ノーヴァは「傷のない世界」を愛しているように思う。いや、愛するがゆえに、「傷のない世界を作ろうとしている」?
だから賢者は殺さない、魔法使いも殺さない、厄災の傷も癒す。しかし、はたしてそれは、本当にこの世界のためなのか?という部分を、本作は問うているのではないか。「傷のない世界」は本当にいいのか?
奇しくも、今回関係修復がかなった魔法使いたちは「過去の傷ごと、受け入れた」という印象である。傷すらも愛しい、と言った方がいいか。
「過去の傷」を残したまま向き合えていない、オズとアーサー、シノとヒースクリフ、ミスラ、ラスティカは、3部に持ち越しになっている。
過去の傷を消去してしまえば、関係は修復されるのか…否、それは別物になってしまうだろう。
そして、マナ石も「人造魔法使い」にしてしまえば、「マナ石の授受」で争うこともない、消えることもない…
…よく考えれば、シャイロックの心臓とは「マナ石」と同等のものであり、その傷を治したのだから、魔法使いとマナ石の在り方そのものを変えようというのではなかろうか。そんなアップデートされた世界を、ノーヴァと旧ムルの欠片は目指すのではなかろうか。
3部では、魔法使いや賢者たちに、「傷」「マナ石」についての選択が迫られるように思う。…拗れそうである。
…ということで、2部後半を「マナ石の授受」という観点から整理してみた。いつも通り強引な考察で申し訳ない。
マナ石が「欠片」や「目玉」に置き換わっているものはあれど、「肉体や魂に準じる何かを、授受する」ことが、相手との関係性と深く結びついていることが分かったように思う。それは明確に「約束」とはされないが、同じく彼らを結び付け、縛るものになっていると思う。そのつながりは彼らを傷つけるだろうが、同時に、この世界を憎み切れない要因でもある…
難儀きわまるる、「約束」かな…
サービス開始当初から考察記事を書いてきたまほやくだが、2部の完結をもって、当サイトの考察記事も一区切りとしたいと思う。これまで注目してきた、フィガロ&ファウスト、カイン&オーエンの関係性の着地点を見届けるという目的も果たせて、個人的には満足している。3部の情報を気長に待ちたい。
長らくお付き合いいただきありがとうございました!